(その14)
それで、土曜の夜にターミナル駅の上のシティーホテルで会うことになった。
玲子も同席するというので、オンボロ車に可不可を乗せてホテルへ向かった。
玲子が教えてくれた部屋の扉を開けるなり、
「尾行されているらしいの。それで、カフェやバーで会うのは危険なので部屋を借りて・・・」
綾子は、廊下を見回してから声をひそめて言った。
尾行しているのは、刑事かジャーナリズムか?
たしかに、山城社長のいちばん身近な存在で、彼の動向をよく知っているのは社長秘書の綾子にちがいない。
玲子はすでに来ていて、窓際のソファーに座っていた。
応接セットの椅子に向き合って座ると、
「お願い。あの夢い追い人の完全犯罪を阻止して!・・・山城はじぶんで自殺する気はないから、あのひとをどうにかすれば、自殺はしなくて済むはずよ」
実行してくれたら、じぶんの手持ちの預金の1千万円を差し出すと綾子は言った。
・・・これには、ちょっと驚いた。
「東條くん、何とかしてあげて」
ソファーの玲子が手を合わせた。
可不可を見ると、微かにうなずいている。
「・・・ともかく、その夢追い人のことを教えてください」
と、たずねたが、竹芝桟橋からクルーザーに乗る5人の男のリストをもらっただけで何も知らないと綾子は答えて、ハンドバックから取り出した紙片をテーブルに置いた。
リストといっても、住所も電話番号もメールアドレスもなく、5人のハンドルネームが並んでいるだけの代物だった。
いちばん上に夢追い人の名前があった。
この順番に意味があるのか分からなかった。
クルーザーの展望室で2時間いっしょにすごした5人の顔を思い浮かべたが、夢追い人以外はぼんやりとした残像しか結ばなかった。
持って来たノートPCを開き、サルベージソフトで犯罪ネットの「俺を殺せば10億円!」の書き込みを呼び出した。
やはり、そこに千人からの応募の書き込みがあった。
夢追い人で検索すると、すぐに彼と山城社長のハンドルネームのXとの間で十数回行われたスクランブルをかけたメールの交信の痕跡が見つかったが、いずれも交信後すぐに消去されていた。
それを再現するためには、それぞれのサーバーに入り込まなければならない。
もっともサーバーのメールの保存期間はふつうは1週間やそこいらなので、サーバーから消去されていればお手上げだ。
六本木ヒルズで綾子と玲子と3人で会って、この「俺を殺せば10億円!」の話を聞いてからすでに一ヶ月半は過ぎていた。
あとは、それぞれが持っている端末をサルベージソフトで探れば、消去されたメールでも復元はできる。
・・・端末が手に入ればの話だが。
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