(その12)
「山城社長は、どうしてひとりで自殺をしないのです?10億円も払って他殺を装って殺される理由が分からない」
「ああ、さすがに東條くんは鋭い。こころにぐさりと刺さる質問だ。夢追い人くんはどう思う」
不意に話を振られた長髪の男は、首をめぐらして考えていたが、
「いろいろなことが考えられます。ですが、ほんとうのひとのこころのうちは分かりません。案外、山城社長ごじしんでも分かっていらっしゃらないのではありませんか」
「なかなかうまいことを言うね。では、おたずねするが、中学校の教師である君がどうして10億円でひとを殺す気になった?・・・答えられるかな」
・・・長髪の男を学校の教師と直感したのは、どうやら当たっていたようだ。
「うまい切り返しですね。これは参りました。ああ、・・・ひとつだけ言えるのは、10億円というお金の魔力です。こんな大金を手にしたらひとはどうなるんだろうと思ってしまいます」
「なかなか正直だね。・・・さあ、東條くんの意見を聞こうか」
矛先が再びこちらへ向いた。
「そうやってはぐらかして、じぶんの本心を見せないのはずるいと思います。自殺するほど絶望感は深いけど、・・・自殺とは見られたくない。山城社長は、そんな虚栄心ばかりが強いのではないですか」
「・・・・・」
山城社長は黙り込んだ。
・・・案外、図星なのかもしれない。
「山城社長は、あの若い女優さんに振られて自殺したと思われたくないのです。『すべての女は金で転ぶ』と公言してはばからない山城社長が、いくらお金を積んでも、女ひとりをものにできずに満天下に恥をさらしたのです」
「東條さん、言いすぎです!」
綾子が、金切声をあげた。
「ああ、言いすぎだったらごめんなさい」
そう言って頭を下げたが、本心で謝る気はなかった。
・・・お金に物を言わせて、何でも思い通りになると思っている金持ちは嫌いだ。
もっとも、それは、持たざる者のひがみ根性でしかない、ということはよく分かっていた。
「東條くん。ここは、ぜひとも君に見届け人になってほしいね」
山城社長は天邪鬼なのか、じぶんに立てつく者に、なおも仕事を頼もうとする。
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