(その10)

ゴムボートを入り江の奥の小さな桟橋に接岸して岩の上を歩くと、すぐにプライベートビーチのような白い砂浜に出た。

砂浜の先は、小藪に覆われたなだらかな斜面で、丸木を積み上げたような階段がうねって続いていた。

階段を登りきると、広壮な別荘が目の前に見えた。

二階屋の別荘は白鳥が翼を広げたようなモダンな造りで、全面がガラス張りのサンルームの前に立つと、朝靄が漂う青い海が四方に見渡せた。

別荘の裏手が玄関で、その先には杉林が広がり、朝日が差し込む木々の間に、やはり洒落た造りの別荘がぽつんぽつんと建っていた。

・・・この島の名前は知らない。

伊豆七島の間に点在するやや大きな孤島なのだろう。

まだ海水浴には早いので、人影はなかった。

おそらく、島の反対側には村落があり、漁港もあるのだろう。


綾子はここへ来たことがあるのか、先に立って二階へ長髪の男とじぶんを案内した。

登ってすぐが、ソファーを海向きに並べた応接間で、左手が細長い会議室になっていた。

綾子が会議室の窓のシャッターを下ろして、壁の大きなモニターに正対して長髪の男、左手横にじぶんが、右手横に綾子が座った。

しばらくするとモニターが点灯し、暗い部屋のずいぶんと遠くのデスクに座った男が映し出された。

下手をするとじぶんを切ってしまうほど剃刀のように鋭い男、暗い情熱に突き動かされている男、・・・山城社長だった。

「ようこそ夢追い人くん。君がウィナーだ」

夢追い人と呼びかけられた男は、うやうやしく頭を下げた。

この学校の教師然とした長髪の男が、「俺を殺せば10億円!」プロジェクトに応募し、一次の書類選考を通過した5人のひとりに選ばれ、クルーザーの船室で他の競争相手を殺して最終選考に勝ち残った男なのだろうか?


「東條くん、殺しの手口はすぐ分かったかね?」

画面の中の山城社長がこちらを指差した。

どぎまぎしたが、

「ええ、すぐに分かりました。まずこの方はクルーザーでの夕食の時、ひとりだけお酒を飲みませんでした。毒でも盛られるのを用心したのか、冷静を保とうとしたのか・・・。『悪魔が囁いた』などとオカルトめいたことを口走りましたが、寝入った4人の喉を剃刀の刃で切ってから、自殺したようにめいめいに剃刀の刃を握らせ、最後はじぶんの首をやはり剃刀で傷つけ、救けを求めました」

「夢追い人くん、どうかね」

山城社長が問いかけると、夢追い人は、わざとらしく小さな拍手をした。

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