5.個人的に効果的と思われるアンガーコントロール

 ここまで、ダラダラと語っておいたからには、「結局、アンタの自慢はよろしいから、どんなアンガーコントロールをすればよいのか」という痛い批判を浴びせられても仕方あるまい。なぜというに、結局、現代人にとって小説や詩以外の、評論なり、情報誌(私の駄文はこれらに比べてもばかげているが)などの本を読む理由といえば、「情報を知るため」のみであって、しかも、そうした一冊の中でも、もっとも分かり易い一節を探すためだけに読んでいるわけであるから、当然である。換言するなら、本を読んで考えるのではなく、考えるのが面倒なゆえに、本を読むのだから、結果を示さない文章、くどい文章に価値がおかれないのは当然ということである。

 かくいう私も、大学で、興味のない分野の論文を読むときは走り読みをする。五千字もあろう論文を、ものの二三分読んだくらいで、その論文を読み切ったつもりになることはよくある。だいたい、理系の論文なんて結果と考察を読んでいれば、多少の引用はできるわけであるから、そういう癖はついてしまうわけで、あまり、現代人を否定することもできない。つまり、結果主義者の現代人への批判で、この駄文を締めくくり、ホントウに何の価値もない文章を、三時間もかけて作るくらいなら、最後くらいは、私なりのアンガーコントロールの結果を残しておいた方が利口に思われるから、以降、簡潔に、その方法について残しておきたいと思う。

 さて、その方法であるが、じっさい、すでに紹介されているある方法に基づいたものである。テレビジョンかなにかで紹介されていたその方法は、腹が立ったら、紙一杯に、なぜ腹立つか、あるいは、罵詈雑言を書きなぐれという方法であった。

 私は、むろんこの方法を批判する。なぜというに、今まで人を対象にぶつけていた怒りのエネルギーを、紙(以降では便利的に吐き溜め紙という)にぶつけているだけなのであるから、つまり、本質的な進化はそこにないわけであるから。

 ただ、こうした方法でさえ、怒りを言語化し、自身の怒りの原因を分析するという、非常に高度で内的な効果は側面的に存在すると言え、よっぽどヤケクソなものとまでは言えまい。ゆえに、むしろそうした良い側面を強調した吐き溜め法によって行われるアンガーコントロールを実施すればよいのではなかろうか。

 例えば、最初は罵詈雑言ばかりで、筆圧も強かった吐き溜め紙をやめ、パソコンを用いて、罵詈雑言を書いてみるとよい。パソコンは高価なものであるから、あまり強く感情に任せてキーを叩くことはできないし、せっかく体裁まで書き散らすつもりで書いた罵詈雑言も、機械がキレイさっぱり整列させてしまうわけである。ゆえに、思いのほか、感情的に解決した感覚になることはできない。だが、あくまでもそれは、これまでのやり方がヤケクソであったことを示すものであって、そこに解決した気持ちが存在しないというなら、いっそ、せっかく機械が汚い言葉を整列してくれているのだから、それらを文章にしてみるといい。それでも満足できないなら、時系列を立て、評論チックに怒りの原因を批判してみるとよい。こうした段階が進むにつれ、当初はヤケクソであった吐き溜め紙法も、やがては、怒りというパトスをロゴスに変え、やがて、個人の思想を体現する一つの作品となるわけである。自らが育て上げた作品は、いうまでもなく、自らの思想として生き続けることだろう。そこに怒りの感情がまったく存在しないとは言い切れないが、むしろ、義憤のような形として、世の中を変えていこうとする自発的、高度な意思に変容していることは間違いない。而して、これが私のいう本質的な進化なのである。

 また、なによりも、そうした作った文章を、一週間くらいして読み返すことである。

 だれしも夜なべしてこしらえたラヴレターなど、翌朝、読み返してみると死にたくなるものである。しかし、送り主(書き手)にさえ読んでもらえぬラヴレターなど、ただの紙屑である。自身が語った愛にさえおびえている人間が、恋愛などできるわけがなかろう。それと同様に、自身が、自身の思想を体現するがままに語った作品も、自身が全否定して、二度と読み返すことがないようでは無価値はなはだしい。つまり、無理をしてでも読み返すことが必要である。冷え切った頭で自らの駄文を冷笑しながら読み返しているうちに、自身が深く納得できる一節と再会することがあったなら、そこに書かれた内容こそが、アンガーコントロールの中で有効に生まれた一つの思想と呼べるものではなかろうか。ゆえに、この方法では、その一節が訪れるまで、書いては読み返し、書いては読み返しをするしかないが、私は、この方法が、非効率でありながらもかなり本質的であるものと考える。

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