第8話

 ヴォルゴ達が負傷した日は合衆国軍が攻勢を開始した日だった。連邦軍は他の前線飛行場から本格的な航空基地に至るまで幅広い範囲で空襲を受け、深刻な損害を被っていた。


 ヴォルゴのいた飛行場も例外ではなかった。滑走路こそ修復できたものの、整備諸機材の大半が吹き飛ばされてしまった。予備機材から始まり果ては燃料補給車だ。そのために稼働率が急減していた。


 各種機材は緊急で取り寄せているものの、特に重資材に関してはトラックで運ぶしかない都合上、どうしても到着が遅くなっている。


 カラコフは足を深々と負傷していた。しかし銃弾が喰い込んだなどの兵士として致命的な負傷ではなかったため一週間ほどで戦線復帰の予定だ。ヴォルゴはもっと軽傷で、二日後には任務に身を投じていた。負傷や後席のカラコフがいないといった理由により主に戦線後方での輸送任務だった。


 そして今日がそのカラコフが復帰する日だ。ただ時間までは知らない。もう着いているのだろうか、などと考えつつ着陸態勢に入った。


 滑走路脇には多数の戦闘機や攻撃機が並んでいる。遠目には壮観だが近付いて見ると被弾した機であることがわかる。普段ならすぐに直せるものも資機材の不足で放置せざるをえなかった。

 

 もっとも、連邦軍とて無能ではないので大至急補給の算段をつけているが、航空支援の不足に前線は喘いでいた。


 司令に任務完了の報告を済ませると待機所へ向かった。木造の建物だったのがすっかり簡素なテントになっていた。


 テント内では全員がもどかしそうにしていた。味方地上部隊が危機にあるのに自分達には何もできないでいるのだから当然のことだった。乗機が無事でも燃料や弾薬の再補給が間に合わないから出撃できない、なんてことが普通に起こっているのだ。また飛行後点検も満足に行えなえていなかった。保有する航空機の割に戦力として使い物になるのは少数に止まっていた。


 ヴォルゴはテント内を見渡す。およそ二週間前に着任した時と比べてYP-2乗りは半数以下にまでその数を減らしていた。新兵が乗る旧式機の損害はこれほどまでに大きくなるのだろうか?もともとの母数があまり大きくなかったことは考慮すべきだが、それにしても多いように思えた。


 着席し、特にすることもないので家族へ手紙を書いていた。ただ防諜の観点なら情報量はあまり多くない。変わらず元気でやっているとか、敵をやっつけている、と言った感じだ。お別れのキスを、で締め括った。


 兵舎の一画で手紙を出し終えるといよいよやることがなくなった。まあ任務外ではいつもこんな感じなのだが。ただいつもはカラコフがいる分あまり気にならなかった。


 再び待機所へ戻った。しばらく後、補給と一緒に手紙が届いた。手紙は戦地において唯一家族とやりとりできる手段だ。だから届くと皆一早く読みたいとすごい人だかりになる。ヴォルゴも例外ではなく、それに巻き込まれながらもなんとか受け取れた。


 なかば引ったくるようにして受け取ると封筒を破り捨てるように開けた。


 読み始めてすぐに、どうも筆跡が震えていることに気付いた。いつものような落ち着きがない。

 

 不思議に思いながらも読み進めると、あまりに受け入れ難い一文が目に飛び込んで来た。


 衝撃に体が震え、焦点が合わなくなる。手紙が手から落ちたが拾う余裕などなかった。


 母の震える字で書かれていた。妹が死んだ。

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