第5話

 地平線の近くに規格的に統一された建物群が見えてきた。合衆国軍の倉庫群であり、今回の目標である。250kg爆弾を積載しているのは建物にぶち込むためだ。


 対空砲が機体の周りで炸裂し始めた。密度が濃いとは言えないが絶え間なく機体を揺さぶる。


 「狼狽うろたえるな。どうせ当たらない」


 この時代の合衆国軍の対空砲の命中率は、もちろん諸条件によって変わるが、1%にも満たない。大型爆撃機以外に対する対空戦闘では撃墜できるならそれに越したことはないが、正確に攻撃させないことも重要である。


 編隊は爆撃に備えて緩降下に移った。YP-2は急降下爆撃ができる設計ではないのだ。


 そうして黒煙咲き乱れる空域を切り抜けると今度は機関砲、機関銃弾が襲い来る空域だ。


 装甲車の上からこちらに発砲しているのが見えた。対空用に改造された型だろう。歩兵用の12.7mm機銃を無理やり空へ向けて撃っているのもあった。


 不意に一機が火を噴きながら墜ちていった。


 目標に接近したため意識の全てを爆撃に割いた。ヴォルゴは事前の取り決め通り、何棟かある倉庫の内一番左手前を狙う。


 機首を倉庫に向け、機体の体勢を整え、降下角をさらに増す。約40度。個人の技量次第ではもっと鋭くできるがヴォルゴはこれくらいが限度だ。とは言え目標の大きさを考えれば十分だ。


 目標に爆弾を直撃させることだけに意識を割き、機体の周りを飛び交う対空砲火は思考の外へと押しやる。十分近付いたところで投下した。


 大きな爆発音と衝撃波が届く。


 「当たった!」


 カラコフが叫んだ。


 「よし!」


 ヴォルゴもつられて叫ぶ。直後、今仕方のものとは比べ物にならないほど凄まじい音と衝撃がヴォルゴ達を襲った。


 被弾ではない。後方、倉庫群の方からだ。ヴォルゴからではよく見えない。


 「何だ!何がおきた!」


 「誘爆だ!多分誰かが弾薬庫にぶち当てたんだ!」


 「そうか、そいつは愉快だ!」


 ヴォルゴは嗜虐的な満足と共に翼を基地へと翻した。戦闘空域を離脱したところでヴォルゴは問いかける。


 「そう言えば今日は言わないんだな。もっとヤンキーを殺そうって」

 

 「自制してるんだからあまりからかわないでくれよ。それに対空砲火の中に突っ込もうとは思わないよ」

 

 それは対空砲火が無かったら昨日みたいなことを言うってことなんだろうか。もしそうだとするとヴォルゴはそれなりに困る。対空砲火があるのはもちろん嫌だが、もっと敵兵を殺せ!と後席で叫ばれるのも嫌だ。まあ、自制に努めてくれているなら大丈夫な気もする。


 編隊各機の損害状況を見ると一機、エンジンから黒煙を吹いている機があった。速度も遅い。ただ無線のやりとりを聞いていると飛行場まで飛べるようだ。


 他には胴体に被弾の跡があったり、燃料が漏れていたりだ。ただ全機飛行場までは辿り着けるとのことだった。

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