第3話
全員があまり眠れなかったが翌日も変わらず任務はあった。
ヴォルゴとカラコフは偵察飛行に回された。ラズニエフ機の穴を誰かが埋めなければならなかった。さすがに昨日の今日では気が滅入る。それでも任務だ。
YP-2の飛行前点検を終えて離陸を待つ。後席ではカラコフがカメラの扱い方を確認していた。
YP-2は専用の偵察装置を持たない。そのため敵を発見した場合はカメラで撮影し、帰投後司令部でネガが現像され幕僚達が情報を読み取る。この時代では普通の方法だ。
ちなみにヴォルゴ達は偵察の教育は受けていない。可能な限り早く実戦に投入できるよう教育課程では戦闘に関係ないことは省略された。
カメラの扱い方も離陸前に急いで説明される有様だ。もっともそう特殊な操作は必要としないため特に問題にはなっていない。
攻撃のための機が全て離陸するのを見送ると今度は偵察機の番だ。
また昨日と同じようにヴォルゴは機を空へ駆り立てた。
偵察に護衛はつかない。そのため単機での飛行だ。割り当てられた空域へ向け飛んで行く。
偵察飛行の任務は昨日と変わらず捜索、索敵に類するそうだ。つまりラズニエフ達は敵地上空で撃墜された可能性が高い。
敵地上空で撃墜されたとしても、友軍が攻勢中であれば友軍到達までやり過ごせば無事に帰還できる。しかし連邦軍は開戦以来守勢に回っており、戦線は下がる一方だ。友軍が来るまで隠れてる、と言う訳にはいかない。
2人は揃って暗澹たる気持ちになった。
戦闘空域に入った。2人は気持ちを切り替え対空、対地、目を光らせる。
そうして飛び続けることおよそ一時間。集中力が途切れかけてきたところでカラコフが叫んだ。
「いた!地上8時方向、林の際だ!」
8時方向と言うとヴォルゴからは左後ろだ。
「撮れるか?」
「ちょっと遠い」
「そうか、よし近づく」
ヴォルゴは機を反転させると林の方に近づけ、カラコフが撮影しやすいように機を傾けた。
ついでにちらと敵を見る。装甲車に、おそらく戦車もいる。上々の結果だ。欲を言えばもう少し敵の規模を知りたい、が大部分は林の中に隠れているだろうから難しいだろう。それに安易に近付いて対空砲火に曝される、という事態は避けたかった。帰還しよう。
「攻撃しよう!」
カラコフが叫んだ。
……正気か?ヴォルゴは耳を疑った。
「冗談じゃない!」
ヴォルゴは叫び返す。
「大体どれを攻撃するってんだ!この機体は7mmしか積んでないんだぞ!」
「ジープが見えた!それに剥き出しの敵兵だっている!」
「正気の沙汰じゃない!林の中のジープを撃つだと!?そんなことできると思ってんのか!」
木々に囲まれたジープを撃つには急降下、もしくは緩降下しながらの銃撃しかない。それなりに危険な真似だし、樹木が邪魔してきっちり損害を与えられるとは思わない。
ヴォルゴは続けて怒鳴る。
「敵兵だと!?一斉に林の中へ駆け込んでるじゃないか!爆装なんて無いんだぞ!帰投する!」
はっきりそう告げると翼を飛行場へと翻した。
「帰投!?ふざけるな!そんなことしてみろ!俺はお前を恨むぞ!」
「恨む!?お前が俺をか?怖くないね。昨日殺したヤンキーの親共の方が怖いよ」
吐き捨てるようにヴォルゴは返した。
「自殺なら1人でやれ!俺を巻き込むな!」
それだけ言うとヴォルゴは完全にカラコフを無視した。
対空火器があるかもしれないのだ。そこへこの防弾の頼り無い機体で突っ込もうなど自殺も同じだった。
後席でカラコフは暴れて、ヤケクソで機銃を乱射していたが意味は無いだろう。
カラコフは時に今みたいに過剰なまでに復讐心を露わにする。家族の半数以上が合衆国軍に殺されているのだ。当然と言えば当然の反応だろう。
だが兵士なのだ。カラコフは航空学校でそれなりに優秀な評価をもらっていた。それでも操縦桿を握れないのは今みたいに激昂して指揮を無視する恐れが多分にあると判断されたためだ。
実際その判断は正しかったと言える。
バカみたいに喚き散らしやがって。腹立たせながらヴォルゴは飛行場まで操縦桿を握るのだった。
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