第6話 パーティー
本来ダンジョン攻略というものは、何人かでパーティーを組んで役割を決めて行うものだ。未開のダンジョンなら尚更。
このゲームならば大まかにアタッカーとディフェンダー、サポーターと言ったところだろう。
マッピングをして周りに気を配りながら慎重に進み、手に入るアイテムに胸を膨らませるもの。
しかし
「よーし。グリモワール、その調子。どんどん進んで」
「ア゛ァァァ──────────ッッッ‼︎」
そのセオリーをぶっ壊して進む二人組があった。まぁ僕とヒナミなんだが。
グリモワールに攻守を任せて、僕とヒナミは周りの様子を見るだけとなっている。
まだ入り口からそう遠くないため、出てくるモンスターも奥に比べれば弱い。そんな雑魚モンスターが次々とグリモワールに薙ぎ倒されて喰われていく。
倒されたモンスターはもれなくグリモワールの口へと吸収されている。
本来この程度のモンスターなら腹の足しにはならないが、量が量なのでまぁまぁいい食事にはなるだろう。
もちろんグリモワールを顕現させてる時点である程度の代償は必要になるが、倒してるモンスターの数と差し引きしてもそれなりのお釣りが出るくらいだ。
「こんな光景を北方区の騎士団が見たら、自信喪失間違い無しですね。何と風情のない………」
「ダンジョン攻略に風情なんて求めるなよ」
「それはそうですけど………あぁ、レアアイテムをドロップするかもしれないモンスターがどんどん減っていく………」
僕の隣でグリモワールの後を歩いているヒナミは、何とも言えない表情をしている。
「この近辺でレアアイテムがドロップする確率はほぼ無いよ。それに、ダンジョンの半分まではグリモワールに任せる、その約束でしょ?僕は代償払わないといけないんだから」
というのも、これまでグリモワールの力を使ってきた代償がそれなりに溜まってきたのだ。ここらでちゃんと払っておかないとね。
「まぁ、ホーリードラゴンはまだしばらく代償を与えなくても問題無いので構いませんが」
「へぇ、騎士団にいたんじゃ思うように餌やりも出来ないでしょ。人でも食わせて長持ちさせてるのか?」
ホーリードラゴンはグリモワールと同レベルのレアモンスター。契約すればそれなりの代償は求められるはずだが、何ともないのか。
「そんなわけないでしょう。治安維持局に所属している契約者には、優先的に食糧が支給されるようになっているんです。もっとも、それに甘えるわけにはいきませんから、頻繁に能力は使わないようにしていますが」
「いや、僕の知る限りめちゃくちゃ使ってるでしょ」
「それは相手があなただからですよ。私が力を使う理由の八割はあなたとの戦いがあるからです」
あぁ、そうか。そういえば、ヒナミが僕以外と戦ってるのってほとんど見た事なかったっけ。
「だから、あなたも治安維持局に入れば、代償のことを気にせずに済むのですが」
「またその話か。何度も言うけど、お宅の世話になるつもりはないから」
「………そうですか。あなたが入れば百人力なんですがね」
とても戦闘中とは思えない穏やかな口調での会話だ。数メートル先ではモンスター達の断末魔が響いている。
「大体、何でそんなに僕を入団させたがるんだよ。この前はとっ捕まえようとしてたクセに」
入団の件だけじゃない。今回のダンジョン攻略の手伝いだって、別に僕以外を誘ってもよかったはずだ。
僕よりも強いプレイヤーはいるし、バーベナ騎士団の騎士団長なら、彼らの勧誘だって苦じゃないだろう。
たまにヒナミの行動の意味が分からない時がある。何でそこまで僕に付き纏うんだか。
「あれは任務でしたから、任務を全うしたまでです。そうでなければ、私は別にあなたを攻撃する理由を持っていません」
「あっそ。でも、いくら騎士団長でも殺人犯を騎士団に入れるのは無理でしょ?僕、騎士ってガラじゃないし」
人を殺しまくって治安を乱している僕が、どのツラ提げて治安維持局に入れというのだ。絶対非難される。
「そうですか?少なくとも私は、あなたなら騎士として勤めを果たせると思っているのですが」
念のため剣を握っているヒナミは、周りを確認して僕の方を振り向く。
「あなたは先程、私の護衛の攻撃から市民を守ったではないですか。わざわざ能力を使って守らなくても、あなたなら避けることだって出来たはずです」
ヒナミとはこれまで散々殺し合ってきた。僕の能力がどの程度なのかは把握されているようだ。
「………別に、守ろうとしたわけじゃない。市民に被害が出て面倒事になるのが嫌なだけ」
「理由なんて何でもいいんですよ。人を守れるなら、この世界では誰でも騎士としての勤めを果たせます。私だって………」
遠くを見つめたヒナミは、自分の握る剣に力を込めた。いつも毅然とした彼女にしては珍しく、その目には影が見える。
しかしすぐにパッと切り替えて明るく振る舞う。
「とにかく!これまでベリアル君が何をしたとしても、私はまだ信じたいんです。あなたの中にも、身を挺して人の命を守る心があると」
「そりゃお人好しなこって」
よくもまぁこんな性格で今日まで生き残れたものだ。
「そういえば結構歩いてきましたが、今どのくらいですか?」
「ん?あぁ、もう僕の知らないところまで到達してるよ」
「えっ⁉︎もう半分過ぎてるってことじゃないですか!ダンジョンアイテムをドロップするかもしれないんですから、グリモワールをしまってください!」
「えぇ?もうちょっといいでしょ。グリモワールの腹が満たされるまでさ」
「ダメです!半分までって約束でしょう!」
「はいはい、怒鳴るなって。グリモワール、戻れ」
僕がナイフを振ると、グリモワールは攻撃をやめて僕の真上へと跳び上がる。黒い霧のように分散してナイフへと吸い込まれていった。
「さてと、それじゃあここからは私達の力で進んでいきましょう」
「はいよ、頑張ってね」
「ベリアル君も頑張るんですよ!ほら、武器をしまわないでください!」
ナイフをしまって退がろうとしたが、ヒナミはその前に僕の腕を掴んで引っ張る。
どうやら攻略を彼女に押し付けるのは無理なようだ。
「何のためのパーティーなんですか。二人でやりますよ!」
「了解。っと、早速おでましだ」
奥へと続く洞窟の影から次々とモンスターが現れた。さっきよりも数が多いな。種類も変わってきて、レベルが上がったのが窺える。
まぁ、何とかなるだろう。
デモンズエッジを手元で回して構えると、ヒナミも臆することなくホーリードラゴンとの契約の証であるシルバリースケールを構える。
「私が前衛を務めますので、ベリアル君はサポートを………」
「知らん」
ヒナミの言葉を一蹴するなり、僕は一気に駆け出した。グリモワールの力のおかげで素早さはブーストされている。
「あっ!ちょっと‼︎」
目の前にいるのは人型のモンスター、『スチールリザードマン』だ。人型なら僕の得意分野だな。
身を低くしてモンスターの背後に回ると、腕を回して首を掻き斬る。紅いエフェクトと共にモンスターが砕け散った。
「ガアァッ!」
硬い鱗が厄介なモンスターだが、デモンズエッジなら一発だ。
しかし休む間もなく、横からまた二体襲いかかってくる。
スチールリザードマンの攻撃パターンは、まずは右斜め上からの一撃、次は三段突き、その後はプレイヤーの攻撃によって変わってくる。
攻撃パターンさえ分かってれば、殺すのは人より何倍も簡単だ。
デモンズエッジが禍々しい光を放ち、スキルの発動を知らせてくれる。
目の前に振り下ろされた一体のスチールリザードマンの剣にナイフを添わせて側面で刃を受け流すと、懐に潜り込んで眼球に黒刃を突き立てた。
「ギャアァァァッ‼︎」
硬いモンスターは柔らかい所を狙う、至極当たり前の発想だ。まぁ、そこまで近づければの話ではあるが。
目を潰されたモンスターは一瞬でポリゴンの光はとなり爆ぜた。
「おっと」
残った一体が横凪を繰り出すが、素早く跳び上がって避けると首筋を切り裂く。
「ちょっとベリアル君!」
さらに前に進もうとすると、僕の目の前にヒナミが飛び出してきた。迫ってきていたモンスターをまとめて斬り捨てると振り返る。
「勝手に一人で進まないでください!パーティーなんですから、もう少しメンバーに合わせないとダメですよ!」
「別にそんな決まり無いだろ」
「そういう問題じゃないんです!」
あぁ、めんどくさい。
誰かと組むなんて久しぶりすぎて、すっかり連携ってものを忘れてしまっているからな。
「あなたはもう少し周りと合わせるということを考えてください」
「ちゃんと考えてるさ。君ならこれくらい合わせられると思ったんだけど、もうちょっとチンタラしてないと騎士団長サマにはキツいか?」
若干挑発気味に笑うと、ヒナミはブスッと不機嫌そうに睨んでから顔を背ける。
「いいですよ!これくらい全然余裕ですし、好きにすればいいです!でも、私が追い越しても待ってあげませんからね!」
「お好きにどうぞ。『デモンクルーズ』」
負けず嫌いはチョロくて助かるな。
肩をすくめて、僕達を取り囲んでいたモンスター達にナイフを向けた。麻痺の呪いにより、全員が動きが硬直する。
「『ブレスプリフィケーション』!」
舞い踊るように飛び出したヒナミが、動きを止めたモンスター達の間を縫うように駆け巡る。青白い炎が残像のように燃え上がった。
一瞬にして目の前のモンスター達がポリゴンとなりかき消える。
「さぁ、行きますよ!」
「はいはい」
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