13 1人ではない
シュラはナグナスの剣をまともに喰らい、左腕の肘から下が剣で切り落とされた。すぐに後ろに間合いを取るが、大きく切り裂かれた右のふくらはぎが原因で体が傾き肘をつく。
そこを容赦なくナグナスは剣を構え一気に間合いを詰めてきた。避けるために立ち上がるが間に合わず、無情にも剣は腹へと突き刺さり背中を貫通する。
「ぐが!」
「シュラー!」
トスマが翔琉を地面に寝かせ助けに入ろうと立ち上がった時、シュラが叫ぶ。
「くるんじゃねえ! トスマ! お前は翔琉を守れ!」
シュラは腹に突き刺さった剣を右手で握り閉め、ナグナスを引き留める。だが腹を貫いた剣から魔障がシュラへと流れ込み、だんだんとシュラの身体を中から侵食していき、体の色が黒紫に変色していく。
「シュラー!」
悲痛な叫びをあげ今にも飛び出してきそうなトスマに、シュラは声を張り上げ制する。
「トスマ! 絶対来るんじゃねえぞ! お前なら分かるだろ! お願いだ! 翔琉を死なせないでくれ!」
トスマは目を見開く。
守護神ならば皆思いは一緒だ。
自分の命に代えても守る者はただ1人。
トスマも越時が一番であるのと同じ、シュラも翔琉が一番なのだ。
「くっ!」
苦渋の顔をする。
――だがこのままではシュラは!
その時だ。
ナグナスとシュラの間に光がズバーンと勢いよく落ちた。
「!」
ナグナスが後ろに吹っ飛び、そのまま何かに拘束されたように動けなくなった。何が起こったかわからないシュラ達に声が降りる。
「【
すると、結界の中に渦巻いていた魔障がすべて一瞬のうちに浄化される。シュラとトスマは声のした方――翔琉へと振り向く。すると翔琉は印を結び呟く。
「【
刹那、光がシュラへと降り注ぐ。するとみるみるうちに傷が塞がり、シュラの腕も再生した。考えられない再生の速さだ。まずここまでの再生はトスマでも不可能だ。
驚きながらシュラは翔琉へと視線を戻すと、翔琉の目は金色に輝いていた。
「翔琉?」
すると翔琉はにぃっと笑う。
「わりい。寝てたみたいだな」
「!」
いつもの翔琉だとシュラとトスマは悟る。
「なんかすっきりだぜ。全部晴れた! すべて見える!」
翔琉はナグナスへと視線を向ける。
「天へ帰れ! 【
翔琉の全身が光り輝いた転瞬、ナグナスへと光の短冊が四方から突き刺さった。
「!」
ナグナスからどんどんと瘴気と魔障が吸い取られていく。
それに驚いたのはトスマ達だ。
「あの光は、時を司る神クラスの神光!」
翔琉はゆっくりとナグナスへと歩みを進める。
「翔琉!」
シュラが止めに翔琉へとかけ寄るのを手を上げ制する。
「大丈夫だ、シュラ。もうナグナスは動けない」
翔琉はナグナスの目の前へと来ると立ち止まり、黒目がなく苦しむナグナスを見る。もうこの前までのナグナスの面影はまったくない。
「なぜお前が俺に執着していたか分かった。お前がナグナスだった時のいらない感情、哀しみと
「――――」
だがナグナスは何も言わない。もう言葉が分かる状態ではないのだ。だが翔琉は話しけるように言葉を続ける。
「本当は寂しかったんだよな。1人になるのが怖かったんだよな」
それが天部だった頃のナグナスが感じていた哀しみと
翔琉は視線を下に向け弱々しく笑う。
「お前の気持ち、少しは分かるよ。やっぱり1人は寂しいもんな」
「翔琉……」
横にきたシュラが声を掛ける。翔琉はシュラを見て微笑み、またナグナスを見る。
「その気持ちを消すために俺を殺したかったんだよな」
「…………」
「もしお前に仲間がいたら、こんな風に地に落ちることはなかったかもしれないな……」
「…………」
翔琉はナグナスへ微笑む。
「でもお前にも友がいただろ? そいつの気持ちにもっと向き合えていたら、寂しくもなかっただろうし、1人でずっと悩くこともなかったかもしれないな」
「…………」
「もう思い出してるだろ? お前を本当に思ってくれていた友がいたことを」
翔琉には見えていた。時を司る神から見せられていると言ったほうがいいのかもしれない。
天部のナグナスだった頃、1人の友がいた。
その者とは趣味が合い、意気投合し、いつも一緒にいて話が尽きることはなかった。だがナグナスが魔界に興味を示し始めたと同時に、2人の間に徐々に亀裂が入り始めた。その頃からだ。ナグナスが孤独を感じ始めたのは。
それから2人の距離は遠ざかり、気付いた時にはナグナスは1人になっていた。
それから何百年と1人でいることが続いた。
そして寂しさから魔界への興味を膨らませて行き、しまいには魔界へ行きたいという執着に変わっていった。
そして魔界へと行く日、どこから聞きつけたのか、友がナグナスを止めにやって来た。
だがナグナスは、友の忠告を聞かずに魔界へ向かい、足を踏み入れた。
案の定、天部の人間であったナグナスは一瞬のうちに消滅した。
しかし、なぜか跡形もなく無くなるはずだったナグナスは、記憶と力は天部の頃のナグナス、身体は魔界の体という、天部と魔界の両方を兼ね備えた集合体となって戻って来た。
だが天部には入ることは出来なかったため人間界へと降りた。心配した友は、すぐにナグナスを追って人間界に降りて助けようとして接触したが、ナグナスは無情にも友を殺した。
これが目の前のナグナスの過去だ。
すると、もう感情も意識もないはずのナグナスの黒目のない目から涙がこぼれた。
「そいつが待っている。行ってやれ。神が導いてくれる」
そして翔琉はナグナスの胸に手を当てる。
「今度生まれてくる時は、俺みたいな頼もしい相棒を見つけろよ」
翔琉の手から光が膨れ上がりナグナスを包むと、ガラスが割れるように弾けた。そしてその残骸は天へ昇るように光の粒となり空へと消えて行った。
それを見上げながら翔琉は微笑む。
「終わったな。シュラ」
「ああ」
シュラも空を見上げる。
「長かったなー」
「ああ」
「これで
「……そうだな」
シュラには奏時達の顔が空にあるのが見えた。
――
すると、3人は笑顔でシュラへと返す。
「シュラ」
「ん?」
「ありがとな。今まで守ってくれて」
「なんだよ。お前から言われると気持ち悪いぜ」
「一応、1000年分? 俺の前世のやつらの分まで言っておこうかと思ってさ」
「翔琉……」
「1000年前から俺っていう人間は、シュラがいてくれたからここまでやってこれたんだと思うんだ。ほんとお前がいてくれてよかった」
「俺もそうだ。お前達がいてくれたおかげで俺は今までやってこれた」
翔琉はシュラへと視線を向ける。
「これからもよろしくな。俺の唯一の守護神」
「当たり前だ。嫌だと言ってもお前についててやるから覚悟しろよ」
「それってストーカーじゃん」
「なんとでも言え。お前が何回産まれ変わろうと、お前の唯一の守護神は俺なんだからな」
すると、翔琉を包んでいた光が天へと昇っていった。時を司る神の力が戻って行ったのだ。
「あーあ。またほとんど曇っちまった」
残念そうに翔琉は言う。
「どういう意味だ?」
「もう必要のない神様の強大な力は取り上げられたってやつだな」
そこへ越時とトスマ達がやってきた。
「翔琉! やったな」
「翔琉、すごかったな」
知らない青年を見た翔琉は、ぽかんとする。
「だれ?」
「そうか。翔琉はトスマの本来の姿を見るのは初めてだったか」
越時が笑いながら言う。
「はあ! トスマ? なんだよ、本来の姿って! え? トスマってじいさんじゃねえのかよ!」
するとシュラが肩を窄めながら言う。
「じいさんの格好は、トスマの趣味だ」
「え? 趣味? なにそれ! 悪趣味じゃねえか!」
すると越時もシュラも八将神達も皆大きく頷く。
「だよな」
「ほんとやめてほしい」
まさかの全員一致にトスマは咳払いをする。
「人の趣味に文句を言ってほしくないのう」
「わ!」
いつの間にかまた老人になったトスマに翔琉は驚く。絶対本来の姿のほうが格好いいし、いいと思う。
「さあ。亘達の所へ帰るか。詳しいことは後回しだ。早くあいつらに元気な顔を見せて安心させてやらないとな」
越時が笑いながら促す。
「そうだな。よし戻ろう」
――――――――――――――――――――――
こんちは~。 碧 心☆あおしん☆ です(^^)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次が最終話でございます~。
もう少しお付き合いくださいますようよろしくお願いします。
よろしければ、☆評価、コメントなどいただけたら、めちゃくちゃ嬉しいです(≧∀≦)
お願いいたしますm(_ _)m
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