09 土蜘蛛



 ――またあいつかー!


 越時えつときはにぃっと笑う。


「悪いが何回も同じ手には引っかからないぜ」


 水晶の中に気を入れると同時に特殊な蛍光塗料も仕込ませ、姿を消してもすぐにどこにいるか分かるようにしたのだ。

 そして翔琉かけるはその間に皆に【開眼かいがん】をしナグナスを見えるようにする。


「ちっ!」


 ナグナスは先ほど地面に落とした黒呪金剛杵こくじゅこんごうじょを手元に引き寄せ呟く。


「【土蜘蛛つちぐも】」


 すると土の中から湧き上がるように2メートルはある蜘蛛が這い出てきた。


「げ! 蜘蛛の化け物。俺、蜘蛛苦手なんだよ」

「召喚させたか!」


 翔琉はさも嫌そうに顔を歪ませ、シュラが吐き捨てるように叫ぶ。


「翔琉! 気をつけろ! 吹き出す糸に捕まるとちょっとやそっとじゃ外れねえぞ! それに手足には毒がある。猛毒だ! 触るだけですぐに毒が回り死ぬ」

「はあ? まじかよ!」


 翔琉は身震いする。苦手なのに加え、あのグロテスクな容貌だ。どうにも受け入れがたい。

 すると土蜘蛛は翔琉達に糸を吹きかけてきた。シュラは翔琉を抱き後ろに大きく飛び退き回避する。


「お前らはそいつと仲良く遊んでなー。俺はまずあいつに一泡食わせねえと気が済まねえ」


 ナグナスは越時へと視線を向けると、一気に間合いを詰め剣を突き出す。


「まずお前からだー!」


 だが越時の前にジエラ、キサラが立ち塞がりナグナスの攻撃を止める。その間にリュカの治療を終えたトスマが瞬時に現れ越時を抱き、後ろに下がる。


「このやろー!」

「越時はやらせん」


 キサラが睨みながら言い、そしてジエラが呟き攻撃する。


「【千本重奏せんぼんじゅうそう】」


 刹那、ナグナスに細い矢が何本も放射状に突き刺さった。


「ぐが!」


 そこへ亘が細剣で腰目がけて横一文字に斬り込む。ナグナスは亘の剣によって上半身と下半身が切り離された。だが魔障で繋ぎとめ、そのまま倒れることはなくまた元に戻る。


「くそ! だめか」


 亘は舌打ちし後ろに飛び退き間合いをとる。すると亘の隣りにリュカがやって来た。亘は一瞥し訊ねる。


「傷は大丈夫?」

「遅くなりすまなかった。大丈夫だ。お前は少し頭を冷やせ」


 その言葉に亘は、「はぁ」とわざとらしく嘆息しリュカを見る。


「この状況でお説教?」

「そうだ」


 無愛想の怒った顔で低い声音で言った言葉は、リュカなりの亘を心配して言った言葉だ。亘はふっと肩の力を抜き笑う。確かに少し頭に血が上っていたのは確かだ。


「ありがとリュカ」


 そして前のナグナスへと視線を向け、異様な様子に亘とリュカは眉を潜める。


「なにあれ?」

「本性を現わしたな」


 するとナグナスは発狂するように叫んだ。


「よくもー! よくもー!」


 すると、全身から魔障が吹き出しナグナスの周りがどんどん汚染されていくように黒煙が広がっていく。それを見た亘は背筋に嫌な汗を流す。


「あれやばいそうだな……」





 その頃、翔琉とシュラは土蜘蛛に苦戦していた。


「くそ! 攻撃が出来ねえ」


 シュラが翔琉を抱きながら土蜘蛛の毒と糸の攻撃を避けながら苛つかせ叫ぶ。その間翔琉は対処法を考えていた。


 ――土蜘蛛も召喚されたなら呪いの類いだ。それならシュラの炎と剣の攻撃でどうにかなるはずだ。だけど俺を守りながらでは戦えない。【光壁こうへき】では魔障には効くが土蜘蛛の呪いに効くのか?


 そこでシュラが言っていたことを思い出す。


 『ナグナスは普通の攻撃では倒せない。光と神気と浄化を1度に与える攻撃をするんだ』


 光は時を司る神レベルの力だ。自分は時を司る神から、その力を使うことを許されている。ならば、自分の能力は光の要素を含んだものではないのか?


 ――ならば大丈夫だ。


「シュラ! 俺を離し、土蜘蛛に攻撃してくれ!」

「あほか! そんなことしたら、お前があいつの毒にやられるだろうが!」

「大丈夫だ。俺はやられない」

「はあ?」

「俺の防御壁ならあいつの毒も呪いも弾くはずだ」

「しかし!」


 もし防御出来なかったら、翔琉は毒にやられすぐに死ぬ。そんなことは望んでいない。いや絶対にさせたくない。

 シュラはギッと奥歯を噛む。

 そんなシュラの葛藤に気付いた翔琉は、シュラの目を見て叫んだ。


「俺を信じろ! シュラ!」

「くっ!」


 だがすぐに返事は出来ない。どうしても翔琉を失いたくない思いがまだ勝る。


「大丈夫だ! 嘘じゃない! 俺は奏時そうじ達と違ってお前には嘘を付かない!」

「!」

「だから信じろ! 俺は死なない!」


 まっすぐ目を見てくる翔琉に嘘偽りはない。もうこうなると、自分の意見を曲げないことも前世の者達の性格から分かっている。

 もう諦めるしかない。


「はあ、分かったよ。だが、絶対に嘘つくんじゃねえぞ! 翔琉!」

「当たり前だ! だから土蜘蛛をお前の炎で焼き払え!」


 そこで、翔琉の脳裏にある術が浮かぶ。今までモザイクがかかっていたものだ。それが一部霧が晴れたのだ。


 ――今使えってことか!


「【光剛こうごう結界】」


 翔琉は自分とシュラに【光壁こうへき】よりも強い防御結界をかける。そしてシュラは翔琉を置き、そのまま土蜘蛛へと剣を出し攻撃をしかけた。


「ああああーーー!」


 土蜘蛛の毒攻撃と糸をかわしながらシュラは間合いを詰める。その間に土蜘蛛が翔琉へと毒と糸を吐きつけてきた。


「翔琉!」


 だが翔琉は逃げない。そして両手で印を結ぶ。


「【金城鉄壁きんじょうてっぺき】」


 刹那、五芒星の結界が翔琉の前に現れ、毒攻撃と糸を当たった瞬間弾き飛ばし消滅した。それを見たシュラは驚き目を見開く。そして翔琉はふっと笑う。


「見ただろ! 大丈夫だ。だから思い存分にやれー! シュラー! 【光気こうき】」


 翔琉はシュラへと時を司る神から授かった神気――光気をシュラへと渡す。すると、シュラの全身が白く光りに包まれた。シュラはすぐに時を司る神の神気だと分かる。

 これは2回目だ。

 奏時が最後に自分に掛けた同じ術。

 だが翔琉の方が断然に質が違う。奏時のは時を司る神の神気のだったが、翔琉のは時を司る神のなのだ。だから力がみなぎっていく。


「おおおお!」


 シュラは土蜘蛛へと一気に剣で斬り刻む。その間シュラへと毒と糸が放たれるが、糸はすべてシュラがまとう炎で消滅。毒は翔琉の【光剛こうごう結界】でシュラに届くことはなかった。


 シュラは土蜘蛛を何度も斬りつけダメージを与えていく。そして呟くのと同時にシュラの双眸が赤く光った。


「【炎舞えんぶ 蓮花れんか】」


刹那、土蜘蛛の体に無数の蓮の花のような炎が何個も咲くように燃え上がった。


「ガアアアアアア」


 土蜘蛛は、咆哮と共に灰となり消滅した。

 シュラはふうと大きく息を吐く。すると翔琉が走ってきてシュラに声をかけた。


「やったなシュラ」

「ああ」


 そして2人は離れた場所、ナグナスへと視線を向ける。


「シュラ、今度こそあいつを倒すぞ」

「ああ」



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