08 開戦




「お前の考えはお見通しなんだよ」


 越時えつときの言葉にナグナスは奥歯をギッと噛む。


 ――くそ! ここまで計算していたってことか! やるじゃねえか。


「すごい……。本当に捕まった」

「さすが越時ですね」


 のぼるとユウラは感嘆の声をあげる。




 その向こうではシュラが大蛇と戦っていた。そしてナグナスが捕まったのに気付く。


「こんなことで油売ってる場合じゃねえ! やりたくなかったが状況が状況だ。仕方ねえ!」


 シュラは剣を前に構え、剣の柄を支点にぐるっと円を描き呟く。


「【炎光舞姫えんこうまいひめ】」


 すると剣先が描く円形と同じ大きさの炎の輪が現れ、車輪となりシュラの前に浮かぶ。そして言い放つ。


炎火えんか!」


 炎の車輪は銃のように一気に大蛇へと飛ぶ。そして当たった瞬間、爆発し大蛇を炎に包み燃え上がった。そしてあっという間に大蛇は灰となり消えた。

 だが炎の勢いが強いため、辺り一面も火の海と化す。


「やべ。やっちまった」


 【炎光舞姫えんこうまいひめ】は、あまりにも強力な炎のため、使うのを控えていた理由だ。

 だが消している暇はない。シュラはそのまま放置してナグナスへと走る。


「あのばか守護神! 何やってくれてるんだよ!」


 火の海と化した場所を見て越時がシュラへと悪態をつき叫ぶ。


「昇! ユウラ! あのバカがした炎を消してきてくれ! ここは大丈夫だ」

「でも越時が1人になります」


 ユウラが応える。まだ傷が完治していない越時1人置いて行くことは出来ない。


「俺は大丈夫だ。それよりもあの火をすぐ消す方が先だ。早く行け!」

「は、はい」

「わかりました」


 越時の迫力に負け、ユウラは昇を抱くとその場から離れた。

 

「ナグナス!」


 一気に距離を詰めたシュラがナグナスへと剣を振り下ろす。だがナグナスはシュラの攻撃を受ける前に上半身のみ拘束を外し、シュラの剣を黒呪金剛杵こくじゅこんごうじょで受け止めた。それをみた越時は舌打ちする。


「ちっ! 外しやがった」


 だが下半身はまだ拘束されたままだ。ナグナスはぐっと歯噛みする。


 ――くそ! 別々に違う拘束を掛けていやがった!


 ナグナスは黒呪金剛杵こくじゅこんごうじょを左手で振る。


「くっ――!」


 転瞬、シュラは後ろに吹っ飛んだ。だが入れ替わりにジエラとキサラがナグナスの腹に両サイドから刀で斬り込む。


「ぐが!」


 すると、ナグナスの腹の傷口から赤い血ではなく黒い血が流れ、どす黒い魔障が勢いよく吹き出した。


「!」


 ジエラとキサラは目を見開きすぐに離れる。ナグナスから放出される高濃度の魔障は毒だ。天部の者でも浴びれば無事では済まされない。


「よくもやってくれたなー! 八将神達め!」


 みるみるうちにナグナスの傷は塞がっていく。それを見たジエラとキサラは驚愕する。


「どういうことだ?」


 普通であれば今の攻撃で倒せたはずだ。だがナグナスには傷は出来ても致命傷には至っていない。すると飛ばされたシュラが戻ってきた。


「やはりだめか」

「どういうことだシュラ殿」

「あいつは1度受けた攻撃、術には耐性ができる。あいつは俺の攻撃で死にかけている。だとすれば、俺らの攻撃が効かなくなったと考えたほうがいい」

「ではどうすれば!」

「あいつを倒すには、もう光と神気と浄化を1度に与える攻撃だけだ」

「なんだと!」


 ジエラ達は声を上げる。天部の者の攻撃は神気を帯び浄化も加わった攻撃だ。普通ならばこれで魔物は倒せる。だがナグナスを倒すには、そこにひかりが必要だというのだ。このひかりというのは、ただのひかりではない。神気よりも上――時を司る神クラスの最高峰の神気が必要ということだ。無論そんなことはジエラ達には出来ない。


「よく気付いたなシュラ。さすが今まで戦ってきただけある。そうだ。おめえらでは俺に傷はつけれても致命傷は与えられねえんだよ」


 ナグナスは下の拘束を外すと、黒呪金剛杵こくじゅこんごうじょを振ろうと腕をあげた時だ。腕ごと切り落とされた。


「!」


 視線を向けると亘が細剣を構えていた。


「おまえー!」

「致命傷を与えれなくても、お前を仕留める道は作れる」


 亘の目が光る。そして一気にナグナスへと剣を振るう。


「【剣舞乱散けんぶらんざん】」


 するとナグナスに無数の剣傷が一瞬で入った。


「ぐが!」


 そしてまたもや傷口から魔障が勢いよく吹き出した。だが亘は離れることはせずまた斬り込む。ナグナスは一瞬で腕を再生させ剣を出現させると亘の剣を受け止め阻止する。


 ――なんだこいつは! なぜ魔障を浴びても死なない。


 見ると、亘の周りに白く結界が張られていた。これが張れるのは1人しかいない。亘の後ろから走ってくる翔琉へと視線を向け睨み叫ぶ。


「あいつか!」


 すると翔琉は走りながら印を結ぶ。


「【光壁こうへき】」


 刹那、シュラ達天部に白い膜がかかった。亘にもした魔障をふせぐ結界だ。


「有り難い。翔琉」


 ジエラとキサラは、ナグナスへと間合いを詰め攻撃をしかける。


「くそー!」


 不利だと察したナグナスは、姿を消し見えなくする。


 ――まだ翔琉あいつ開眼かいがんしていねえ。なら俺の姿は見えねえはずだ。まずあのうぜえ小僧だ!


 ナグナスは剣を前に突き出し構える。


 ――このままぶっ刺してやるぜ。


 そして一気に亘へと間合いを詰める。


 ――死ね!


 だがナグナスの剣先が亘の腹に当たる寸前、亘はナグナスへと視線を向け自分の細剣を前に突き出し攻撃を防御した。だがそのまま勢いに負け、亘は後ろに吹き飛ばされる。

 後ろにいたジエラとキサラが亘を受け止めるが、勢いに負け、そのまま後ろに飛ばされ3人とも木に激突してしまった。


「亘!」


 翔琉は叫び、足を止める。すぐに視線をナグナスに向けるが、ナグナスの姿がない。


「あれ? ナグナスはどこだ?」

 

 シュラは翔琉の所に移動し、守るように前に立ち剣を構える。


「ちっ! 姿を消して隠れやがったか」

「え? 隠れた? まじか! どうりでいねえはずだ」

「翔琉! 【開眼かいがん】しろ!」

「え? あ、そうか。わかった!」


 翔琉は【開眼かいがん】しようと両手で印を結ぼうとした瞬間、後ろからナグナスが翔琉の首を狙い剣を振りかざした。


「!」


 だがシュラが左手で翔琉の腕を引っぱり、自分の背に庇う。そして右手に握った剣を突き出しナグナスの剣を受け止め防御した。


「なに!」


 驚いたのはナグナスだ。今姿を消しているのだ。翔琉はまだ【開眼かいがん】をしていない。させられる前に命を狙ったのだ。だからシュラに見えるはずがないのだ。

 それなのにシュラは攻撃を止めてきた。

 先ほどの亘もだ。亘も細剣を前に出しナグナスの攻撃を止めた。なぜだと思った瞬間、さっき縛りあげられた部分に蛍光塗料が塗られていることに気付く。


「塗料だと!」


 そしてギッと越時を睨む。


 ――またあいつかー!


 越時はにぃっと笑う。


「悪いが何回も同じ手には引っかからないぜ」








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る