07 越時の考察②



『その装置を盗んだのは!』


「そうだ。今未桜と一緒に過去に渡ったナグナス本人だ。すぐに奪いに行ったはずだぜ」


 その時ナグナスは姿を消して近づき、装置を奪ったのだろう。


「それにサラは未桜が禁じ手を使い、ナグナスだけの時間を戻したと言ったが、俺はそれは違うと見ている」


『? どういうことじゃ?』


「分からねえか? サラの説明では未桜がした術は飛鳥川のと言った。禁じ手って聞いて違和感ねえか?」


『!』


 時渡りが使う『禁じ手』という言葉は、その家の者が過去にその術を使って命を落としたため、絶対に使ってはいけない術を指す言葉だ。


「気付いたか? もし本当に未桜がその術を使っていたのなら、もうこの世にいないはずだ。だが未桜はまだ生きている」


『そうか! 未桜は禁じ手を使っていないということか!』


「ああ。そういうことだ。ナグナスの時間を戻したのなら、未桜と一緒にいるナグナスが過去に行った時点で、最初にいたナグナスはいなくなるはずだ。だが2人のナグナスは存在している。ということは、ただ過去に飛んだということだ」


『では未桜とナグナスを過去に送ったのは?』


 越時はにぃっと笑う。


「出来るのは、1人しかいねえじゃねえか」


 この世で過去に干渉でき、過去に飛ばすことが出来るのはただ1人。


「時を司る神がなぜ力を貸したのか分からないが、一応未桜の命を守ってくれたことは感謝だな」


 翔琉が前に言っていたように、時を司る神も翔琉が殺される未来を願っていないということなのかもしれないと越時とトスマは思った。


「普通に時渡りをした未桜は、その時代と場所には行っていないから行くのは可能だ。ましてや未桜は時渡りだ。時渡りと一緒に過去へ行っているのならば、『ブラックカイト』が行った5分後には行けることになる」


『なるほどな』


 そこで疑問が浮かぶ。


『なぜナグナスは、わしらが捕まえた盗賊団より前にその場所にいたのじゃ? 盗賊団がその場所に来ることをナグナス達は知っていたということなのか?』


 『ブラックカイト』と越時達が捕まえた盗賊団は違う組織なのだ。


「盗賊団は、屋敷にある仏像がとても価値があり、高価な物で高値で売れるという情報が入ったため、盗みに入ったそうだ。そしてその屋敷は、俺らが盗賊を助けに行った屋敷の隣りの屋敷だった」

『? それが何かあるのか?』


 だいたいの不法トラベラーの盗賊団は、このような情報を得て犯行に及ぶことがほとんどだ。何もおかしな点はないように思える。


「もしその情報を流したのがナグナスだったとしたら?」

『なんじゃと?』

黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅがその屋敷の蔵の地下の牢屋の奥にあると知っていたら?」


 そこでトスマははっとする。


『ナグナスが盗賊団に情報を流していたのか!』


「ああ。『ブラックカイト』は、以前にあの屋敷に強盗に入っていたんだろうな。その時に黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅがあることをナグナスが知ったんだろう。だが結界が張ってあり盗むことが出来なかったんだろうよ」


 その後、翔琉に会い、翔琉がいる【きのえ】隊の情報を調べ、越時が結界解除に長けていることを知ったナグナスは、黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅにかけられた結界をどうにか越時に解除させようと考えたと越時は考察した。


「そしてついでに俺らの結界の情報も収集しようとしたんだろう。一石二鳥だからな。そして盗賊団にナグナスは隣りの屋敷の情報を流した」


『だが、わしら【きのえ】隊がその盗賊団を捕まえにくるという保障はないではないか。現に【つちのえ】隊がその任務に当たったわけだし』


「だから俺らが動かないようにレベルの低いまだ日が浅い盗賊団にナグナスは依頼したんだよ。そうすれば、本部はランクが下の隊を選ぶからな」


 【つちのえ】は、時渡り5隊ある中で、今は一番下のランクだ。


「その後ナグナスは、『ブラックカイト』の連中にもう一度、黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅを盗むことを持ちかけたんだろうな。どうせ黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅが他の盗賊団が狙っているとかなんとか嘘を言ってな」


 そして依頼した盗賊団が渡る時間よりも時空の歪みがない安全パイの2日前ほど前に時渡りをし、再度盗みを実行するが、やはり失敗。

 だがこれもナグナスの計画通り。

 その後、屋敷の主人は、2度も強盗に入られたため、陰陽師の使役を護衛に配置して警護を強化した。


「俺達が戦った陰陽師の使役の十二天将は、どうみても侵入者を警戒した護衛だ。普通はあのように使役を配置することはないからな。だとすれば、以前に侵入された経験があったから警護を強化したんだろうよ」


 だがこれもナグナスの計画通り。


「で、あの陰陽師の使役達がいる屋敷に捕まった盗賊を奪還出来るのは、俺ら【きのえ】隊だけだろうし、ましてやナグナスが絡んでいれば、おのずと俺らに白羽の矢が立つって寸法だ」


 ナグナスは強いため、強い時渡りが選出されるのは必然。


『じゃあ全部計算されていたということか!』


「だろうな。なかなかの策士だな。この一連は、俺ら【きのえ】隊に黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅの結界を解除させ強奪、そして俺達の結界を見るために念入りに練られたナグナスが考えた計画だったと俺はみているんだが、どうよ?」


『それならばすべて辻褄が合うのう』


「だろ? そしてナグナスは『ブラックカイト』の連中に、依頼した盗賊団が来るまで待つことを提案した。その後、反対されたためか、邪魔だったからかわからねえが、一緒に来た『ブラックカイト』の連中を殺した。だが予定外なことが起きた。装置がどこにもなかったことだ。未桜と一緒に過去に戻ったナグナスが、現代に帰る装置を盗んじまったからな」


『その後1人、身を隠してじっと待っていたということか』


「そういうこと。そして俺らはまんまとナグナスの罠にはまっちまったってやつだ」


 越時の結界解除は強力なため、基本その場所範囲の結界を解く。そのため、同じ場所にあった黒呪金剛杵こくじゅこんごうじゅの周りに張られた結界も一緒に解除され、ナグナスの手に渡ってしまったのだろう。


「未桜と過去に渡ったナグナスといえば、装置を奪ったがすぐには戻れない。未桜が行っているからな。時空の歪みが生じているため3時間は足止めだ」


『だとしたら今ごろ未桜を殺して逃げているのでは』


 トスマの言葉に、越時は眉を潜めて唸る。


「そこなんだよなー。時間からして未桜はすぐに殺されていない。なぜ未桜を殺さないのかが分からん」


 ナグナスなら未桜を殺すのは簡単なことだ。ましてや未桜は敵だ。ならば側に置いておく意味がない。今までならすぐに殺して身を隠すのがナグナスだ。


「翔琉が言っていたように未桜を殺すなら、翔琉をかばった時点で殺しているはずだ。もしもの時の人質にするにはあまり信憑性がない。何かナグナスが未桜を殺せない理由があるかもしれん」


 ならば未桜と一緒にいる可能性が高い。だとすれば場所もすぐ特定されるだろう。


「そうなれば戦いは必須。だが勝てないと分かればナグナスは逃げることをまず考えるはずだ」


 そう、把握した結界を難なく外して。


『そこを狙うということじゃな』

「ああ。そういうことだ」


 そしてその通りになるのだった。




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