03 越時の病室にて



 時間を遡る。


 翔琉かける達は盗賊を時空警察に渡してからすぐに越時えつときが入院する病院にやってきた。

 シュラとリュカも姿は見えないがついてきていた。


 病室に入ると、越時は寝たまま顔だけを翔琉達に向け、「よう。ご苦労さん」と元気そうに手を上げた。その横には付き添いで香里奈もいた。

 思っていたより元気そうな姿を見て、翔琉達は安堵のため息をつく。


「親父、大丈夫か?」

「ああ、この通り元気だ」


 越時は腕まくりをし、力こぶを見せて応える。そんな越時を見て翔琉とシュラは苦笑する。


「ほんとおっちゃんが刺されたと聞いた時は驚いたぜ」

『まさか越時が刺されるとはな。でも元気そうでよかった』

「トスマがいたからな。すぐに応急処置をしてくれたのがよかった。でもまあ俺の反射神経がよかったのもあるけどなー」


 冗談めかして笑いながら言う越時に、亘はふっと笑い応える。


「そうか」

「……」


 いつもなら突っ込むのに、今回突っ込まなかった亘に、越時は笑顔を消し訊ねる。


「何があった?」


 ――やはりすぐ気付くよな。


 今回まだ越時には未桜がナグナスと過去へと消えたことは言ってなかった。リュカとシュラにも自分で言うからと越時に言うのは待ってくれと頼んでいたのだ。

 本当は自分から切り出すつもりだったが、やはり越時はすぐに気付いた。さすがだと感心しつつ、亘は未桜とナグナスの件を話す。そして謝る。


「悪い親父……」


 だがそれに対して越時はしょうがないと首を振る。


「謝るな。その状況なら俺がいても同じだっただろう。で、今の状況は?」

「今、惠流めぐるさんとサラが場所の特定を急いでいる」

「そうか。香里奈、悪いが今すぐ戻って惠流を手伝ってやってくれ」

「分かりました」


 香里奈は急いで病室を出て行った。


「おっちゃん、未桜は大丈夫だよな?」


 亘には啖呵を切って生きていると言ったが、本当は不安で仕方ない。心では大丈夫だと思っていても、やはり誰かに大丈夫だと言ってほしいものだ。

 だが翔琉の願いも虚しく越時は首を振る。


「それはわからん。俺にもそればかりはなんとも……」

「……そうか」


 翔琉は肩を落とす。


「だが俺も未桜は生きていると思っている」

「え?」

「もし未桜が殺されているならサラが分かるはずだ。もう30分経っている」

「あ、そうか」


 亘はあることに気付き声をあげる。


「そうだ。30分経っているのに何も本部うえから調整が来ないということは、こうなることを時を司る神は分かっていたからだ。そう考えればすべてが納得いく」

 

 最初【つちのえ】隊が成功するはずだった案件が失敗したことだ。

 その失敗がナグナスの仕業であることが分かっているならば、最初から翔琉達がいる【きのえ】隊に依頼が来るはずだ。だが来なかった。それはあえて時を司る神が避けたということであり、こうなる流れが分かっていたからだ。


 越時は嘆息して言う。


「調整がないということは、時を司る神が望んでいる未来へ進んでいると俺は見ている。またタイミングよくここ2週間仕事が入ってねえんだよな」

「どういうことだ?」


 翔琉は首を傾げる。


「時渡りの俺らには年何回か長期休暇がもらえる。それがちょうどばっちりこの時期にはまっているということだ」

「それって」

「ほんと、俺ら人間は時を司る神の手の平で生きてるよなーと実感するわ」


 こうなることが分かっていたということだ。


「なあ、サラは未桜のそばになんで行けないんだ?」


 翔琉の考えでは未桜の守護神ならば、一瞬でその場に飛んで行けそうなものだ。それに答えたのはトスマだ。声だけが聞こえてきた。


『わしらは守護神と言われているため守護霊のように人間に憑いていると思われがちだが、人間とわしらは別の個体なのじゃ。越時と亘のような関係じゃ。ただある程度守護する者の居場所は分かるぐらいじゃ』


 だとすれば、未桜のように過去へ1人で行ってしまえば、場所は分からないということになる。


「じゃどうやって未桜の場所を見つけるんだ?」

『ナグナスだけの時間を戻したのならば、時代はさっきわしらが行っていた時代でいいだろう。後は細かい時間と場所の特定じゃ。ナグナスの時間を戻したのならば、ナグナスが渡った時間じゃ。だとすれば、【つちのえ】隊が渡った時間より前ということじゃ。だがその場所にナグナスがいるとは思えん。すぐに移動して隠れているだろう。意識のない未桜を連れてそう遠くまでは行かないはずじゃからな。それにわしらが来ることも分かっておるはず。ならばだいたいの予想はつく。後は惠流の采配次第じゃな』

「まあそういうことだ。今日はゆっくり休め」


 越時はそう促す。亘は越時の顔を見て翔琉に声をかけた。


「翔琉、帰るぞ」

「え?」

「俺も疲れたからな。じゃあな親父。ゆっくり休んで」

「ああ」


 亘は笑顔を見せ翔琉の腕を持ち、強引に病室を出て行った。その行動にトスマはふっと笑う。


『亘はよく気付くのう。越時とよく似ておる』

「変な所ばかり似やがった……」


 本当はまだ傷口の痛みと疲れで越時は限界だった。だが心配かけないように平気な顔をしていたのだが、亘には気付かれていたようだ。


『ゆっくり休め。わしがついててやる』

「もう病院なんだから大丈夫だ。天部に戻ってお前も休んでこい」


 普通なら現代に戻ればトスマの波動は人間のレベルまで落ちるため、すぐにトスマのいる天部に戻り波動を元に戻さなくてはならない。だがトスマはまだ1度も戻らず越時につきっきりでついているのだ。何かしら責任を感じているのだろうことは予想がつく。


『お前が寝てからそうするから大丈夫じゃ』

「そうか……」


 もう限界だった。しばらくすると越時はすうっと意識を手放した。トスマは越時の寝顔を見てすうっと笑顔を消す。


『済まなかったな越時……。2度とこんなことにならないようにするからな』


 トスマは誓うのだった。


 そして越時が退院し、体力が戻ったと同時に翔琉達は過去へと渡ったのだった。





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