04 それぞれの思い
「この2択は、どちらも盗賊に逃げられるということだ。そしてどちらかは、俺ら時渡りが命を落とすというやつだろうな」
「……やはりそうか」
1度失敗した依頼で、2択になっており、且つ現代で調整ということは、片方は死を意味するのだと
「まあ場所が場所だからな。たぶん墓地になったら俺は死んだと思ってくれ」
「!」
「
そう言って笑顔を見せる
「なにバカ言ってるんだよ。昇もだけど、親父も死んだら困るんだけど」
『その通りだ。どれだけ亘が越時を思っているかわかっているだろう』
リュカも越時に抗議をするが、亘はすぐさま突っ込む。
「リュカ、余計なことを言わんでいい」
『越時。わしがおるんじゃ。お前が命を落とすようなヘマをするわけがないであろう』
トスマもすぐさま反論する。
「そうだったな。まあ俺が死ぬことはあるわけがないけどな」
笑顔を見せ、背を向け部屋を出るため襖に手をかけて止まる。そして背を向けたまま越時は亘に言う。
「でも、もしもの時は……よろしくな」
そして襖を開け、出て行った。
そんな越時の背中を思い出しながら亘は嘆息する、
――ほんと、最後の言葉は2度と聞きたくないわ。
「古墳で良かった」
車から降り古墳の前に来て安堵して呟くと、横で
「よくないわよー!」
まだだだをこねている未桜をなだめるようにサラが声をかける。
『でも見て未桜。みんな寄ってこないですわよ』
未桜は言われて周りを見れば、確かに霊達はかなりいるが、皆近寄ってこない。
シュラ達を見ると、すごい形相で武器を持ち仁王立ちして霊達に睨みをきかせているのが見えた。未桜のためにしてくれているようだ。
「シュラとリュカ、すごい顔ね。私のためよね? ありがとう」
素直にお礼を口にすると、シュラ達は驚き未桜を見る。
『未桜、お前も見えてるのか?』
「あ……」
しまったと未桜は手を口にあてる。
「え? 未桜も見えてるのか?」
亘も驚き声をあげる。
「あはは……はい……」
観念して頷く。
『なんで隠してたんだ』
リュカの問いに未桜は困った顔をする。
「隠してたわけじゃないわよ。見れることに気づかなかっただけよ。翔琉が見れるように合わせたって言ってたから、もしかして私も出来るかもって思ってやったら出来たのよ」
『だからと言って簡単に出来ることじゃねえけどな』
シュラが苦笑する。どんなに霊感が強くて修行した僧侶でも見れた者は今まで1人もいなかったのだ。人間ではシュラ達がいる場所を見ることが出来ないのだ。
『翔琉と未桜は何かあるのかしら』
サラが呟き未桜を見ると、真っ青な顔をしていた。
『未桜? 顔色が悪いわ。気分でも悪いの? すぐ終わるから我慢して』
サラが心配して声を掛けるが、未桜は不安な顔を向ける。
「みんな、1度車に戻ろ……」
「なに言い出すんだ? もう時間なんだ。無理に決まってるだろ」
亘が怪訝な顔を向ける。
「どうしたんだよ、急に。忘れ物か?」
未桜の意味不明な態度に翔琉も不思議そうに声をかける。
「……いいから、1度戻ろう」
「どうした? 古墳が嫌なのは分かるが、すぐ終わる。お前しかこれは出来ないんだ。少し我慢してくれ」
亘も少しうんざりしながら言う。今回未桜は盗賊を捕まえた後、盗賊の記憶を消し、この場所から過去のずれた記憶を元に戻すという仕事をすることになっている。飛鳥川の家系だけは現代でもその能力が普通に使える。翔琉もやれば出来るのだろうが、その部分はモザイクがかかっていて出来ない能力だった。
「お願い。ちゃんと後でするから。一度戻ろ!」
いつもの威勢の良さはなく、ただ怯えるように言う未桜に翔琉と亘、それにシュラ達も怪訝に思い眉を潜める。翔琉が嘆息し咎めるように言う。
「おまえなー。少しは我慢しろうよ。わがまま言うんじゃねえよ」
「違う! そうじゃない!」
『どうした未桜?』
『お前にしては珍しいな』
リュカとシュラが未桜の尋常ではない状態を怪訝に思い尋ねる。
『未桜? どうしたのですか? 何にそんなに怯えているのですか? 古墳の死者は皆近くにはいませんわ。心配することは何もないわよ』
サラは姿を現し未桜の肩を優しく抱く。だが未桜は何も言わず首を横に振るだけだ。
「違う! 怯えてない! このままじゃ!」
「じゃあなんだよ。説明しろよ」
「くる!」
翔琉が未桜に声をかけるのと未桜が言葉を発するのが同時だった。未桜の呟きに翔琉が眉を潜める。
「? 何が?」
翔琉が尋ねた時だ。古墳が光った。
光が収まったと思えば1人の男が現れた。ターゲットの盗賊犯だ。男は翔琉達を見て驚き叫ぶ。
「なんでいるんだ!」
翔琉と亘は、にぃっと笑顔を見せて言う。
「いらっしゃい」
「待ってたぜ」
◇
越時と昇が時渡りをした時間は夜だった。夜9時過ぎということもあり、この時間に外を歩いている者はおらず電灯もない時代のため辺りは真っ暗だった。越時達は屋敷の入り口が遠くに見える塀の一角から様子を伺う。
「おいおい、すげえでかい家じゃねえか」
越時が声をあげる。視界に入る敷地全てが盗賊が捕まっている屋敷で、壁でぐるっと一周囲っているのだ。
「これってどう見ても相当な位の人のお屋敷ですよね?」
「ああ。ここも天皇家のゆかりの家かもな。でもまあでかいほうが入りやすいのもあるが」
すると越時の目が光る。中を透視しているのだと昇は分かり大人しく待つ。
「右側の奥の方に蔵があり、その地下に牢屋があるようだ。結界はその牢屋のみのようだな」
「盗賊の男は無事なんですか? この時代ってすぐ殺されることが多いんじゃ」
妖怪の類いだと疑われているのであれば、すぐ殺されても不思議ではない。
「まあすぐは殺されはしないだろう」
トスマが昇の疑問に答える。
「妖怪の類いだと疑うのであれば余計にこの時代の者は殺さないだろう」
「なんで?」
「すぐ殺して末裔まで祟られたら、今地位があるこの家の者はたまったものじゃないからのう。それにこの時代の皇族達は怨霊をとても恐れていたのじゃ。だからまず陰陽師などの者に頼んで怨霊や妖怪を静めたり、祓ったりしてもらっておったのじゃ。あの牢屋に結界が張られているということは、陰陽師が絡んでいる証じゃ」
「そうなんだ」
「じゃあ、作戦開始だ」
越時達は、まず蔵がある一番近い場所にある塀の所まで来ると、昇が両手の人差し指と中指を立て、右はそのまま、左手はグーにして右手の手の平に押し当てて呟く。
「【
すると越時、昇は姿が見えなくなる。トスマとユウラも自分で姿を消す。そしてトスマが越時、ユウラが昇を抱き上げ、高い塀の上に飛び上がらせる。
「やはり結界が張ってあるから見張りはいねえな。なら好都合」
越時が両手の人差し指と中指を立て、左手は口元で固定し、息を左手に掛けながら右手で複雑な印を結ぶ。すると結界が外れた。同時に越時とトスマは敷地内に降り立ち蔵へと入って行く。それを見送りながら昇は時計を計る。15分で出てこなければこの場を去るのが越時との約束だ。そしてもし見張りがやって来たら霧を発生させ隠すのが昇の役目だ。
そして時間はあっという間に過ぎる。
「越時さん、遅いな」
もうすぐ15分だ。逆算してももう出てきてもいいころだ。
「何かあったのかなー」
「大丈夫ですよ。何かあればトスマから連絡が――。 !」
ユウラは言葉を切り、昇を抱き上げその場から飛び退く。
「な、なに?」
驚いて昇は声を上げるが、刹那、昇がいた場所に火炎玉が勢いよく落ちて爆発する。
「な!」
何が起こったか分からず驚愕していると、その場所にシュラ達のような男性が屋根の上に降り立った。
「!」
ユウラはその男を見て目を瞠る。
「あれは十二天将の朱雀!」
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