03 依頼内容
2日前の朝、
「時代は平安時代。【つちのえ】隊がまず依頼を受けたことから始まる」
すると一番大きなモニターに依頼と画像が映し出された。香里奈と
内容は、不法トラベラーの3人が過去へと行ったことが始まりだ。
『ブラックカイト』の者ではないが、同じく仏像や金めになる装飾品を盗み、闇オークションで売り飛ばす、まだ日が浅いブローカー兼窃盗グループだ。
3人は平安時代の天皇家の末裔の家に忍び込み、金品財宝を盗みに入った。だが見つかってしまい3人とも捕まったため、その救出に【つちのえ】隊が依頼を受けたものだった。
このようなことはよくあり、時渡りの仕事としてはそれほど難しいものではない。レベルも2の下が妥当だ。
今回も【つちのえ】隊が救出に向かい1度は成功し、後は現代に戻るだけだった。だが【つちのえ】隊が曼荼羅魔法陣を出現させ発動した瞬間に1人が逃げたのだ。【つちのえ】隊の者は咄嗟に追いかけようとしたが間に合わず、1人過去に残して戻ってしまい、その尻拭いに駆り出されたのが翔琉達【きのえ】隊だったのだ。
「なあ、なんで【つちのえ】隊が捜索しないんだ? ヘマしたの【つちのえ】隊だろ?」
翔琉が疑問をぶつける。
「1度行った時間と場所には行けねえんだよ」
「なんで?」
「同じ時間帯と場所に行けば前行った自分自身に会っちまう可能性がある。そうなると色々な均衡が崩れるからな」
確かに時渡りをした自分自身に会ったことがないなと翔琉は思う。
「それに色々悪さが出来る。一度行った場所なら次に何が起るか分かっている。俺達時渡りも人間だ。いつ魔が差すか分からんからな。だから行けないようになってるんだよ」
これも縛りの1つなのだろう。
「今回のような依頼は初めてなんだけど、何をするんだ?」
亘が尋ねた。
「今回、逃げた1人は最悪なことにすぐに捕まり牢屋に入れられている。それを助け出して捕まえ、時空警察に引き渡すまでが俺らの仕事だ」
すると昇が疑問を聞く。
「少し疑問なんですけど、捕まったことまで分かっていれば、捕まる前に時渡りすればいいんじゃないんですか? 時渡りならすぐ行けますよね?」
「それが出来ればいいんだが、今回は無理なんだよ。曼陀羅魔法陣を起動してから30分もたたずに捕まっちまったんだよ」
「それはだめかのか?」
翔琉がまた訊ねる。
「現代も過去も到着地点で曼荼羅魔法陣を軌道した場合、30分は空けなくてはならない決まりだ。曼荼羅魔法陣を起動していなかったら行けるが、曼荼羅魔法陣を起動していた場合は30分空けないと時空の歪みが生じちまうんだよ」
「よくわからん」
首を傾げる翔琉に亘が補足する。
「例えて言えば、打ち上げ花火を想像してみろ。花火が俺ら時渡りだ。花火を打ち上げる時に点火して花火は打ち上がるだろ? 打ち上げられた後の筒の中はまだ残り火と煙が充満している。その煙が曼荼羅魔法陣の力だ。すぐには消えず残っている。この煙が時空のゆがみだ」
「なるほど! 歪みが消えるまでの時間が30分ってことか」
「そういうこと」
翔琉が納得したところで亘は依頼書について越時に訊ねる。
「で、なんでそれがレベル4に上がるわけ?」
ただ助けるならばレベル2ぐらいでいいはずだ。
「よく気付いたなー。実はな、捕まった場所が悪いんだよなー」
「?」
「どうも盗賊グループの格好が悪かったみたいでな、この世の者じゃないと思われたようなんだ。それで牢屋に結界が張られちまったってわけ。妖怪の類いと思われたのかもな」
「はは、格好ねー」
どんな格好をしていたのか気になるところだ。
「結界ってすぐ外せるんだろ?」
「まあ時渡りなら普通の結界なら外せるが、相手の結界はたぶん陰陽師の特殊な結界なんだろうな」
「え? なんか違うのか?」
そう言われてもピンとこない翔琉だ。
『陰陽師の結界となると少し魔の要素が入った結界になるからのう。複雑な構造になっているんじゃよ』
トスマの説明に越時は頷く。
「そういうことだ。専属の陰陽師がついているようでな。結構強いみたいなんだ。だから俺らのとこに来たってわけさ」
「俺らのとこ?」
「戦闘に長けているということだ。一応俺ら【きのえ】は強さで言えば一番上だ。だから選ばれたんだろうな」
そこで亘が確信をつく。
「ってことは、戦闘は必須ってことだよね」
「たぶんな。まあ色々と厄介な依頼だな」
越時は面倒だなと頭をかく。
「相手が陰陽師ということで、易々と助け出すのは無理だと判断した。捕まったやつを助けるには身を隠して近づかないといけないだろう。だから昇、お前は俺と一緒に過去に行く」
「え? 僕だけですか?」
昇は翔琉達が同行しないことに不安を覚え聞き直す。
「そうだ。翔琉達は現代でやることがあるからな」
そこで翔琉と亘、未桜はどういうことだと越時を見る。
「現代で?」
「ああ。どうも俺らはその盗賊をまた逃がしてしまうようなんだよね」
「は?」
皆、何を言ってるんだと声を上げる。
「まあ正確に言えば、助けた後逃げられるか、わざと逃がすかということだ」
モニターを確認すると、盗賊を助けた後逃亡して過去は終了としか書いておらず詳しくは書かれてない。だがなんでと聞く者はいない。それがすべてだからだ。何か理由があってのことだということは1ヶ月も仕事をしていれば翔琉も分かるようになっていた。だが、その後に書かれたことが意味不明だ。
「なあ、俺らはそいつが現れるどちらかの場所で確保って書いてあるけど、どういうことだ?」
翔琉達個人に渡された依頼書の内容に書いてあるのだ。
「どうもそいつが逃げて現代に戻ってくる場所が2カ所あるみたいなんだ。それも俺と昇の働きの結果によって、どっちに現れるかは俺らが過去に渡ってからしか分からないみたいなんだよねー」
越時は笑いながら説明する。
「なんだよ、それ」
「まあだから、お前らはまず場所の確認とどんな場所か今から調査してきてくれ」
そして、きのう翔琉達は二手に分かれて調査しに行ったのだった。
今日、越時達が過去に渡って30分後、古墳という連絡が入ったため、古墳に来たのだった。
亘は朝、越時との会話を思い出す。
越時が着替えをしている時、唯一1人になる時を見計らって亘は話しかけた。
「なあ、親父」
「ん? どうした? 忘れものか?」
ちょうど越時は袴の紐を縛っているところだった。
「1つ聞きたいんだけど」
「? なんだ?」
「古墳と墓地の違いは? 2カ所の選択ということは、親父達の行動で過去が大きく変わるためだよね」
「そうだな」
「それって、どっちが親父達にとって悪いほう?」
「――」
「翔琉達には変な心配をさせないために言わなかったんだろうけどさ、俺にだけは教えてくれてもいいんじゃない?」
越時は観念し息を吐く。
「――ったく、察しがいいな。そういうとこは俺に似たよな」
「ああ。変なところばっかりね」
亘は少し前、翔琉達に越時とそっくりだと言われたことを思い出し顔を引きつらせる。
「この2択は、どちらも盗賊に逃げられるということだ。そしてどちらかは、俺ら時渡りが命を落とすというやつだろうな」
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