【過去】02 奏時の記憶②




「だから時朗は最後、ナグナスの言葉に翻弄されたんだな」


 ――翻弄? どういうことだ?



 翔琉が疑問に思った瞬間、時朗じろうの場面に変わった。




「お前は大切な仲間を皆殺しにした。お前のせいだ。お前さえいなければ、あいつらは死なずにすんだのになー。お前だけ生き残って嬉しいか? 嬉しくないよなー。悲しいよなー。死んだやつらはお前を恨んでるだろうよ。おまえのせいで死んだってなー」


 傷だらけのナグナスが時朗に叫んでいる。


「あ…………ああ…………」

「時朗! あいつの言うことは嘘だ! 惑わされるな!」


 シュラがナグナスへ攻撃をしながら叫けぶが、時朗の耳には届かない。


「……そうだ、俺が……俺があいつらを殺したんだ……」

「違う! 時朗! お前のせいじゃない!」


 シュラが一瞬時朗に意識を向けた隙を狙い、ナグナスはシュラを掻い潜り、時朗へ刀を振りかざし襲いかかった。だが時朗はその場で頭を抱え下を向きナグナスの攻撃に気付かない。


「時朗ー! 避けろー!」

「もらったー!」


 だがその時だ。突風が吹いた。時朗とナグナスの体が宙に浮く。ナグナスは近くの木の枝に掴まり助かるが、時朗はそのまま崖の谷底へと落ちていった。


「時朗ー!」


 シュラがすぐに崖下へと下りていく。その様子を見ながらナグナスは舌打ちをし憎悪を露わにし睨む。


「邪魔が入った」


 そしてその場から逃げるように立ち去った。

 その様子に翔琉は眉を潜める。


 ――俺を、時朗を殺す目的じゃないのか? なんで悔しそうな顔をする? それに邪魔が入ったとは? ただ風が吹いただけだ。なぜだ?





 そこで映像は奏時の時代に戻る。





「俺がもっと時朗を分かってやれていたら、あいつはあんなに苦しむことはなかっただろうにな……」


 シュラが目を伏せ噛みしめるように呟く。時朗の最期の記憶だけは、奏時は分かっていた。だから苦しむシュラに奏時は言う。


「シュラ、時朗は最後言ってたこと忘れたか? ナグナスから時朗はずっと精神的に追い込まれていた。ナグナスが仲間を殺したのもそのためだ。時朗を追い込むためだ。あいつは時朗の自責の念を利用し操り、もてあそんでたんだよ。悪いのはシュラじゃない。ナグナスだ。時朗は最後息を引き取る時にそれに気付いてお前に謝っただろ?」





 また映像が変わる。





 時朗が崖から落ち、シュラが駆け寄った場面からだった。

 シュラは頭から血を流している時朗を抱き起こす。


「時朗! 時朗! しっかりしろ!」

「シュラ……すまない。俺はお前の言うことを信用することが出来なかった」

「時朗! もういい! しゃべるな!」

「いや……最後に言わせてくれ……。あいつに、ナグナスの術にかかりお前達の言うことが全部嘘に聞こえていた。今思えばなんでって思えたのにな……。情けないな……」

「時朗……」

「シュラ、なんて顔してるんだよ……最後ぐらい笑ってくれ……」


 だがシュラの顔は涙でいっぱいだ。


「俺にもう少し強さがあったらな……みんなを信じる力があったらな……」

「お前は弱くない!」

「シュラ、ごめんな……」


 そして時朗は息を引き取った。




 場面は奏時に戻る。




「ああ。だがな……」


 そう言って遠くを見るシュラの顔はやはり寂しそうだ。


「それに俺にはもう時朗の時のような精神的な攻撃は出来なくなったんだ。時朗のおかげなんだと俺は思っているんだ。だからもう時朗のこと悔やまないでくれ」


 だがシュラは笑顔を見せるだけで分かったとは言わない。


「でもお前はきっとずっと思うんだろうな。今までもそうだったんだから」

「奏時?」


 シュラが奏時を見る。


「お前は見た目はおちゃらけた感じに見えるが、とても優しいからな」

「そうか?」

「ああ。お前だけじゃない。守護神みんなとても慈悲深い。やっぱり神様なんだなって思うよ」


 奏時は空を見上げる。そこには雲1つない青空が広がっていた。


「どんなに俺が願っても、お前は自分のせいにするんだろうな……」

「……」

「でもシュラ、これだけは覚えておいてくれ」


 奏時はシュラをまっすぐ見る。


「シュラがそういう顔、悲しむ顔が一番俺は、前世の俺達は嫌だったということを」

「!」

「だから俺が死んでも悲しむなよ」

「悪い。それは出来ない。お前が死んだら悲しいに決まってるじゃねえか」

「あはは。そうか。じゃあ悲しんでもいいから、自分のせいにだけはするなよ」

「それも約束できねえなー」

「それはこまったなー」


 奏時は笑顔を見せ頭を掻いた。





 そこで場面が変わった。



 今度は奏時がシュラをかばって命を落とす所だ。




「奏時……奏時! なんで!」


 シュラは目の前、シュラが握る剣が奏時の腹に刺さった状態になっていることに驚き見て言う。奏時は自らシュラの持っていた剣で腹を刺したのだ。なぜこうなっているのか分からずシュラは困惑し体が震え、剣から手を離す。


「ああ……シュラ……意識戻ったな……。ったく、操られてるんじゃないよ。お前、自分で自分を刺そうとしてたぞ……。なにやってるんだよ……」

「奏時……奏時……」


 シュラの目から涙が流れる。


「何泣いてるんだよ……これは俺が自分で自分を刺したんだ。お前のせいじゃないからな……」

「は……早く治療を!」


 だが奏時は首を振り、両手の薬指と中指を立て十字を作り複雑な動きを見せ叫ぶ。


「【懸縛けいばく】」


 すると逃げようとしたナグナスが縛りあげられたように動けなくなる。そして奏時は自分に刺さった剣を自ら抜きナグナスに投げた。すると剣はナグナスに吸い込まれるように腹に突き刺さる。だが剣を抜いたことで腹からは大量の血が吹き出し、口からも大量の血を吐き、奏時はその場に倒れる。


「ぐがっ!」

「奏時! 奏時!」


 シュラは奏時を抱き抱え、奏時の腹を押さえながら叫ぶ。


「しっかりしろ! くそ! 血が止まらない……」

「なに……してるんだ……シュラ。早くナグナスを……倒せ」

「ばか言うな。お前を助けるのが先だ!」

「俺はもう助からない……。ごめん、先読みで分かってたんだ」

「え……」


 奏時は口から血を吐く。


「奏時!」

「俺のことはいい。こうなること……わかって……」

「しゃべるな!」

「何をしてるシュラ……ナグナスが逃げるだろ……」


 言われてシュラはナグナスへと視線を向ける。ちょうどナグナスが奏時の束縛を力づくで解除したところだった。


「早く! 俺の……命を無駄にするな……恨むぞ」

「くっ!」


 シュラの目から涙が止めどなく流れる。


「シュラ……泣くな……。必ずナグナスを倒せ……」


 シュラは涙を拭き、奏時をその場に寝かしナグナスを見据える。



「……絶対に悔やむなよ……これは俺の願いだ……俺からの……最初で最後の命令だ……あいつを……ナグナスを倒せ。だから行けー! 俺の唯一の守護神シュラー!」


「ああああああーーーー!」



奏時の叫びと同時にシュラはナグナスへと間合いを詰め、棍棒を出現させナグナスへと突き刺し焔で焼き尽くす。そして爆発が起こった。








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