【過去】01 奏時の記憶①



 ふと気付くと翔琉かけるはどこかの大きな村の街道を歩いていた。だが自分で歩いている感覚がない。どうも誰かの視線で間接的に見ているようだ。誰だと思っていると前から歩いてきた1人の60代の女性が声を掛けてきた。


奏時そうじ君、そんな荷物持ってどうしたんだい?」

「おばさん、こんにちは。修行の旅に出ることになったんです。その買い出しに行ってたんです」

「あらそうなのかい。そんなに若いのに神社の神主さんになるは大変だね」

「はい。では」


 そしてまた歩き出す。翔琉は自分が奏時の目線で見ているのだと分かった。奏時は自分が住んでいる神社へと入って行く。そして境内の横にある自宅に入ると一番奥の部屋へと向かい障子越しに声をかける。


「父上」

「奏時か。入れ」


 中へ入ると、そこには奏時の父である壮年の男性がいた。


「どうした?」

「少しお話が」

「座れ」


 奏時は言われた通り父の前に座布団を引き座る。


「すみません、今シュラ達がこの場にいないので話すのは今だと思いまして……」


 その言葉から、奏時は時渡りをした後なのだろう。それなら守護神達は天部に戻っていて近くにいないのが頷ける。


「どうした?」

「先日、夢である映像を見ました」

「先読みか……」

「はい」


 奏時の表情から良い内容ではないことは明白だった。すると父親も顔を曇らせる。


「私も見た」

「え……」

「たぶんお前と一緒の映像だろう……」


 そこで父親も奏時と同じ先読みの力があるのだと翔琉は気付く。


「……そうですか。では父上は分かっているのですね。俺が次の任務で死ぬことを」

 翔琉は目を見開き驚く。


 ――え? 死ぬ? どういうことだ?


 だが父親は驚きもせずただ奏時を見ていた。その表情から分かっていたということだ。


「いろいろ対処法を考えましたが、今の俺の力ではどうすることもできず……」

「…………」

「でもそれによってナグナスを倒すことが出来ると私は思うのです」


 奏時はまっすぐ父親を見る。


「この負の連鎖を俺の時代で止めたいと思います」

「……奏時」

「もし命欲しさに今度の任務をやめても、俺は近いうちにあいつに殺されます。ただ早いか遅いかです。俺にこの先読みを見せたと言うことは、今やらなくては後はないということだと思うのです。だから俺はこの運命に従おうと思います」


 奏時の目には迷いはなかった。


「私もお前と同じ考えだ。私にも見せたということは、この選択しかないということだ」

「はい」

「だがな奏時……」

「?」

「私は今回ほどこの力が疎ましいと思ったことはない。はずれればいいと思っている。だがそれは叶わないこともわかっている。父親として失格だな。お前に何1つしてやれないことが残念でならない」

「……父上」

「すまない。不甲斐ない父親で」


 父親は頭を下げる。


「そんな! 顔を上げてください! 父上」


 奏時は体を乗り出し父親の肩を持ち強引に上を向かせる。


「父上はとても立派です。俺の尊敬する唯一の父親です!」

「なぜ神はこんな残酷な運命を奏時に背負わせるのであろうな。少しでも私が背負ってやることが出来れば、お前がこんなに苦しむことも早く死ぬこともないというのに……」


 父親は下を向き拳を握る。そんな父親の拳を奏時は両手で上からそっと重ねる。


「父上、そんなに悲しまないでください。俺はこの運命を嫌だとは思っていません」

「奏時……」

「俺は父上の息子でよかった。こんなに俺のことを思ってくれるんですから」

「当たり前だ。誰が自分の大事な息子を思わない親がいる」


 父親の目には薄らと涙が見える。奏時も泣きたい気持ちをぐっと我慢する。今泣いては伝えたいことも伝えることが出来なってしまう。


「母上と姉上には先に行くことをお許しくださいとお伝えください」

「わかった」


 奏時は父の手を離すと正座したまま後ろに下がる。


「シュラにはこのことは言わないのか?」

「はい。言うと任務をやめろと絶対言うので」

「……そうか」

「俺がこの世からいなくなってからシュラに謝っておいてください。黙っていて悪かったと」

「うむ。怒り暴れないことを私は願う」

「あはは。そこまでは俺にはどうすることも出来ないですね」


 奏時は弱々しく笑う。確かに暴れそうだと翔琉も思う。


「父上、今日まで育てていただきありがとうございました」


 奏時は深々と頭を下げる。


「私も立派な息子を持てて誇りに思う」


 奏時は頭を上げ笑顔を見せる。


「先に行っております。どうかお体には気をつけて」

「最後まで私の体を気づかわなくてよい」


 父親の言葉に奏時は微笑む。


「では行って参ります」


 奏時は立ち上がり部屋を出て行った。その後父親はその場に泣き崩れた。




 そして場面が変わる。




 時渡りをした過去の場所のようだ。のちに奏時が死ぬ場所だと翔琉はわかった。そこには奏時とシュラがいた。


「なあシュラ」

「ん? どうした? 怖じ気づいたか?」

「いや。俺の前世のやつはどんなやつだった?」

時朗じろうか? あいつもお前と一緒で後先考えず突っ走るやつだったな」

「あはは。そうか」


 それを聞いた翔琉も苦笑する。


 ――なんだよ。俺と一緒かよ。


 生まれ変わっても基本的な性格は変わらないようだ。


「だが、お前よりも心が弱かったな」

「え?」

「あいつはどこか寂しそうだった。あいつの信頼する仲間がナグナスに殺されたからな。それであいつは皆と距離を取って1人でいることが多かったんだ」

「なんで仲間は殺されたんだ?」

「あの頃のあいつらは今のお前よりも弱かった。だが焦りからか勢いでナグナスに挑んだ。俺たち守護神は止めたがきかなかった。その結果、時朗以外の者は死んだ」

「!」

「それが時朗のせいだと、他の時渡りの者や家族から罵倒されたんだ。それからだ。時朗が他の者と距離を置くようになったのは」


 そう思われても仕方なかったのだろう。だが時朗の気持ちを考えるといたたまれない気持ちになる奏時と翔琉だ。


「だから時朗は最後、ナグナスの言葉に翻弄されたんだな」


 ――翻弄? どういうことだ?


 翔琉が疑問に思った瞬間、場面が変わった。

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