12 任務完了



 翔琉かける達が兼也かねなりと住職達から見えなくなる塀の角を曲がった所に、亘達が待っていた。


「亘達、来てたのか」

「ああ。ここで待てって言われたからな。で、うまくいったか?」

「ああ。だけどこれでよかったのかなー」


 つい兼也にシュラ達のことを話してしまったことを思い出し後悔の念に苛まれる。そんな翔琉の態度に亘は目を細める。


「どうせお前、シュラ達のことを兼也に話したんだろ」

「なっ! なんで分かったんだ! あっ!」


 瞠目し声を張り上げた後、しまったと両手で口を塞ぐが後の祭りだ。やっぱりと亘達は嘆息し、シュラだけは、翔琉の横でくつくつと腹を抱えて肩をゆらしながら笑っている。だから脇腹に思いっきり肘鉄を食らわしてやった。


「これってやっぱり駄目だよな? 記憶を消すなって言ってたけど、ちょっとそこだけ未桜みおに消してもらうのって出来ねえのか?」

「あのね、一部だけ消すことなんてそんな都合のいいこと出来ないわよ。パソコンじゃあるまいし」

「だよなー。どうしよう……」


 翔琉は頭を両手で抱え落ち込み、その場に座り込む。すると、シュラが翔琉の肩に手を置き、笑い過ぎたのか目尻に涙を貯めながら両端の口角を上げ覗き込む。


「大丈夫だ翔琉」

「?」

「お前のそのアホな行動も計算済みだ」

「は? どういうことだ?」


 すると亘が笑いながら説明する。


「お前のすぐ口を滑らすことも予定に入ってるんだよ」

「はー? なんだよそれ!」


 声を張り上げ立ち上がると、シュラが笑いながら応える。


「お前が兼也達に俺達のことを話すのも時を司る神は分かってたんだよ」

「じゃあ……」

「これで任務完了。コンプリートだ」


 亘がスマホの画面を翔琉に見せる。なんだと目を眇めて見れば、そこには依頼書が映っており、済みの印が押してあった。この済み印が成功という意味らしい。


「……まじか」


 翔琉はあんぐりと口を開ける。だからシュラ達も住職に正体を明かしていたのかと、そこで理解する。


「じゃあ戻るぞ」


 亘はスマホの曼荼羅のアプリを押す。すると地面に直径2メートルほどの魔法陣が現れた。全員その魔法陣の中に入りったのを確認し、亘は画面のボタンをもう一度押す。次の瞬間、翔琉達はその場から消えた。





 次に現れたのは、行きに行った場所――実家の神社の本殿の下だった。


「戻って来た……」

「お帰りなさい。お疲れ様」


 香里奈と惠流が迎えてくれた。


「香里奈さん達は俺らが帰ってくること分かってるのか?」

「ええ。だいたいは分かってるわ」

「さっきスマホ見せただろ。依頼書に済み印が押された時点で香里奈さん達に情報が行くんだよ」


 亘が補足する。


「それってどういう仕組みなんだ? 俺達は過去に行っているんだから、過去に行った時点で結果は分かるってことか?」

「そうね。でも私達が結果が分かるのは、どんなに早くても30分前後はかかるのよ」

「すぐ結果が出ているんじゃないんだな?」


 すると亘が応える。


「時渡りをし、過去の者と話す時点で現代の時間の流れが変わると言っただろ。その関係だ。調整にかかる時間と思えばいい。情報を取得する人間側が時間がかかっている場合もあるけどな。難しい案件ほどもっと時間がかかる。大幅に過去の出来事が変わればそれだけ未来ももっと大幅に変わると言うことだ。だとすればそれだけ結果が出る時間も大幅に遅れる」


「だから30分で結果が来た時は、僕らは安心するんだよ。ああ成功したんだなあって」


 惠流が付け加えた。


「じゃあ俺達はその後に戻ってくるってことか?」

「そういうこと。だいたい結果が出た5分後ぐらいに戻って来てるわね」


 それも調整した現代に帰ってきているということだ。


「だいたい4時間ぐらいあっちにいたよな。それなのにこっちじゃ40分しか経ってないのか。なんかそれだけ俺は普通より歳をとったってことか?」


 翔琉が不思議に思っていると、亘が説明する。


「時渡りをしている時の俺らの生命時間は俺らがどれだけその場にいても進んでいない。俺らが元々生きている現代の時間で俺らの生命時間が経過するんだ」

「じゃあ1年いようが時間が経たないから年を取らないってことか」


 すると大袈裟に未桜がため息をつく。


「翔琉、あんたほんとバカね」

「なんでだよ」

「あっちにずっといたら時渡りの能力が失われるのよ。そうなったら現代に戻れなくなって、その時点で止まってた私達の生命時間も進み始めるに決まってるでしょ」

「あ、そうか」


 亘が頷く。


「そういうこと。時渡りの能力のおかげで止まっているだけだ。時渡りの力がなくなれば、生命時間も進み始める」


 やっとそこで翔琉は納得する。


「そういえばおっちゃんは?」


 越時えつときの姿が見えない。先に帰ったのかと思っていたがいないようだ。


「親父は時空警察に3人を引き渡した後、その手続きに行っている」


 色々やることがあるんだと、改めてこれは仕事なんだと実感する。


「では皆さん、これをどうぞ」


 香里奈が水の入った紙コップを配る。


「これは?」

「お清めの水です。少しお塩も入ってます。時渡りをした後はこの水を飲んで体を清めてもらうことになってるんです。一応変なものが憑いていた時のためのお祓いでもあるんですよ」


 悪霊とかの類いのことを言っているのだろう。その辺は神社だなと翔琉は思う。


「まあこれで仕事は終わり。大まかな流れはこれで分かったろ?」


 亘が水を飲みながら聞く。


「ああ。そう言えばシュラ達はいないんだな」


 守護神の誰一人近くにいないことに気付く。


「それもお前分かるんだな。リュカの話では、過去に行った時、俺らと同じ人間の体を持つと波動が落ちるからと言ってたかな。それを直すために本来いる天部に戻るんだとよ」


 人間の体と亘は言ったが、リュカのあの傷の治り方を見ると、翔琉達人間と同じ構造の体ではないのだろう。


「なんかすごい疲れたな」


 急に眠気が襲ってきた。眠り薬を飲まされたみたいな眠気だ。


「翔琉君は、奥の部屋に布団が引いてあります。そこでお眠りください」


 翔琉は吸い込まれるように奥の部屋へと向かう。


「香里奈さん、用意がいいな」

「体が慣れてないからみんな最初はそうなるのが分かっていただけですよ」


 香里奈の説明はほとんど翔琉には聞こえていなかった。そして布団に倒れるように横になり眠りについたのだった。



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