11 仏像の開眼



 シュラとリュカは、元に戻った本堂のご本尊の仏像を確認する。


「ありゃー、こりゃだめだな」

「元々繋がってなかったのか」


 見た目は立派な仏像だが、開眼かいげん(※仏像に魂入れをすること。ここでは仏と繋がり恩恵を受けること)していないのか、開眼かいげんの仕方が悪かったのか、仏の世界と繋がっていないため、ただの置物でしかなく魔物の住処となったようだ。

 

「またちょうど仏像の場所が霊道れいどう(※霊などの通り道)になってやがるな」


 シュラは霊道れいどうの場所を覗く。その場所だけ時空が歪んだように黒い穴が空いている。空間が違うため人間には見えない穴だ。リュカも目を細め覗きがら首を傾げる。


「だが今までは抑えていたのだろう? なぜ急にこれだけの魔の物が蔓延はびこるようになったのだ?」

「確かにそうだよな。霊道れいどうは急に出来るものでもないしな。それよりまた出てきてもよくない。まず霊道れいどうを塞ぐ」


 シュラは霊道れいどうに向かって人差し指をくいっと動かす。すると禍々しい気がなくなった。


「これで応急処置はOKだな」


 そこへ翔琉かけるが走ってきた。終わったのに気付いたようだ。


「シュラ、リュカ!」


 その後を住職達と兼也かねなりもやってきた。


「終わったぜ」


 住職が支えられながらシュラとリュカの前に出る。


「本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいか」


 住職も弟子の2人も頭を下げる。


「住職。この仏像、開眼かいげんしたか?」


 シュラの言葉に住職は何か覚えがあるようで少し下を向き首を横に振る。


「いいえ。実は先日、本物のご本尊が盗まれまして……」

「ああ、そういうことか」


 そこでなぜ霊道れいどうが塞がれていないのか理由が分かり、シュラとリュカは納得する。

 今までは力のある本物のご本尊の仏像が霊道れいどうを塞ぎ、魔物が出てくるのを抑えていたが、盗まれたため、レプリカの仏像を代わりに置いたのだが、開眼かいげんしていないため、魔物の出現を制御出来なくなったのだ。


「私には開眼かいげんする術を知りませぬゆえ……」


 住職は正直に言う。


「住職、あんた開眼かいげんする力持ってるぜ」


 シュラの言葉に住職は驚く。


「私がですか?」

「ああ。力は十分だ。さっきも結界張ってただろ。あれだけの力があるんだ。出来るはずだ」

「そうでしょうか」


 するとリュカがレプリカの仏像へと手を伸ばす。


「住職、弟子達、よく見ておくがよい。今からこの仏像を開眼かいげんする。体と魂で覚えよ」


 リュカは仏像の胸へ人差し指を立てる。すると光が仏像へと入って行った。と同時に仏の世界と道が繋がったのが分かった。


「おお!」


 住職達は驚く。


「このやり方は人間では無理であるが、感覚は分かったであろう。後は自分達でやり方を見つけることだ」


 リュカはあえて寺の者にやり方を教えないんだと翔琉は思った。修行ということなのだろう。


「はい。分かりました」


 寺の住職も弟子もそのことを分かっているようだ。するとシュラが兼也へ手を出す。


「兼也、不動明王を」

「え? あ、はい」


 シュラに言われ慌てて木箱から不動明王の像を出し渡す。シュラは不動明王をご本尊の横に設置する。


「住職、この本尊の場所、すげえ太い霊道になっているな」

「はい。ですのでご本尊を置き霊道を塞いでいたのですが、心細く不動明王のお力をお借りしようと兼也殿の父上に頼んだのですが、その矢先にご本尊が盗まれてしまいまして」


 だからあんなに魔物がはびこっていたのかと翔琉は納得する。


「今一時的に霊道を塞いである。だから今は魔物は出てこない」

「なんと! そんなことが!」

「だが霊道は完全に塞ぐことはできねえ。まあこの本尊を開眼かいげんしたから大丈夫だと思うが、またいつ盗まれるかわからねえ。そうなるとまた二の前だ。だからこの小さな不動明王像をこの位置に隠すように置いておけ。もし本尊が盗まれても、この不動明王像が変わりをしてくれる。この不動明王は繋がってるからな。それもつええぞ」

「強い?」


 翔琉が首を傾げオウム返しのように訊く。


「ああ。俺達と原理は一緒だ」


 そういうことかと翔琉は理解する。不動明王もたくさんいるのだ。そして力もその人物によって強い、弱いがあるということだ。


「だからたまには不動明王の真言もあげてやってくれ」

「わかりました。あの、あなた様方は?」

「住職にはばれているみたいだな。四天王だ」

「!」


 住職達は驚き目を瞠る。


「じゃあ翔琉、帰るぞ」

「あ、ああ」

「本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 住職と弟子達は手を合わせながら深々と頭を下げた。翔琉は兼也へと向き笑顔を見せる。


「じゃあ兼也。ここでお別れだ」

「はい。色々とありがとうございました」


 兼也も笑顔で深々と頭を下げる。その後、兼也と住職達は寺の門まで見送り、翔琉達の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。

 その後兼也は住職達へと頭を下げる。


「来るのが遅くなり申し訳ございませんでした」

「いやいいよ。君があのお方達をお連れしてくれたのであろう?」

「実は――」


 兼也は正直に、盗まれたこと、翔琉達が仏像を取り返してくれ、ここまで持ってきてくれたことを話した。


「そうであったか」

「はい」


 すると弟子の一人が口を開く。


「住職、あの方達はやはり……」

「うむ。四天王とおっしゃった。帝釈天を御守りする天部の方達じゃ。あの人並み外れたお力が何よりも証拠。そしてあの少年も何らかの神からの使いなのであろう。仏様がご慈悲をくださったのだ」

「なんと! 私達はとても尊い経験をさせていただいたのですね」

「うむ」


 すると兼也がある決意を口にする。


「住職。僕は本当は父上の仏師を継ぐことが嫌でした。でもあの方達を見て変わりました」


 兼也はまっすぐ住職を見る。


「僕も父上と同じ道に進みます。そして立派な仏師になります」

「うむ。本物の神を見た君ならいい仏師になるであろう」

「はい!」


 兼也の目はキラキラと輝きを見せ希望に満ちていた。


「その時はご本尊を頼むよ」

「わかりました」


 後に兼也は有名な仏師になるのだった。




―――――――――――――――――――――――――――

 ※補足


 ここでは、仏像の魂入れの事を、開眼かいげん

 翔琉が使う術は、【開眼かいがん


 同じ字を使ってますが、呼び名が違います。

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