10 魔物の巣窟



「……何かいる?」

「ああ。親玉がいる」


 シュラの両端の口角は上がり、なぜか嬉しそうだ。リュカも細剣を出現させ構え奥を睨む。


「1体ではないな」

「ああ。翔琉かける、お前は兼也かねなりに結界を張り、俺らが魔物を倒している間に住職を非難させろ」

「え?」

「俺らはトスマ達と違ってお前らを守る結界を張れない。俺らは戦闘専門だからな」


 シュラも棍棒を伸ばす。


「分かった」


 翔琉の返事と同時にシュラとリュカは奥の部屋へと向かう。


「あの方達はいったいどなたなのですか? とても高波動の気をお持ちで神様のようだ」

「ああ、あながち間違ってないかな。あいつら天部の者で四天王だし」

「天部! 四天王! あの仏様の世界のですか?」

「あ……」


 しまったと翔琉は口を手で押さえる。


 ――これ、言っちゃいけなかったやつか?


「えっと、このことは内緒な? 言っちゃいけなかったような気がする」

「わかりました。誰にも言いません」

「お前、すごい素直でいいやつだな」


 兼也は真剣な顔で頷いている。これなら兼也は誰にも言わないだろうと翔琉は安堵する。


「兼也はここにいてくれ」


 翔琉はさっきと同じ両手の人差し指と中指で十時を作り、左手で星と円を描く。


「【光剛こうごう結界】」


 すると兼也を覆うように結界が張られた。見える兼也は驚く。


「これは?」

「お前見えるんだな。魔物の攻撃から守る結界だ。そんじょそこらの魔物では壊せないものだぜ」


 自分で言って翔琉は驚く。


 ――なんでそんなこと俺は分かるんだ?


 さっき張った魔障から守る膜の【光壁こうへき】もそうだが、今張った魔物の攻撃から守る結界の【光剛こうごう結界】も、まだ1度も効果を見たことがない。なのになぜ大丈夫だと言えるのか。


 ――これも前世の記憶というものか。


 徐々に自分が使える能力を思い出しているのは確かだ。その影響だろう。


「絶対そこから動くなよ」

「はい」


 翔琉は兼也に笑顔を見せると奥の部屋へと走る。そして扉を開けた瞬間、見たこともない光景に目を疑う。


「なんだ……ここ」


 どう見ても空間が違う。全体が暗めの臙脂色えんじいろに染まった空間に、妖怪と言っていい得体の知れない生き物がうじゃうじゃといるのだ。


独創領域どくそうりょういきか」


 ふと出た言葉に翔琉はまた驚く。


 独創領域――妖怪、魔物がその場に居やすい空間を自分で作りだす空間。


 妖怪や魔物は綺麗な場所より、負の感情が渦巻く場所、波動が低い場所を好む。だが人間界ではその場所は限られている。ましてやこの時代には現代よりも少ない。無い場合は作り出すのが一番手っ取り早いのだ。だが誰でも独創領域を作り出せるわけではない。


「強い魔物がいるということか」


 翔琉はシュラ達がいる所を見る。その奥にシュラ達の倍はあるであろうドス黒い毛糸のようなものが蛇のようにうじゃうじゃ動き、目だけがある魔物がいた。あまりのグロテスクな魔物に眉を潜める。


「げ! なんだ、あれ」


 だが今はそんなことよりも住職だ。首を巡らせると結界を張っている住職とその弟子だろうか、2人の姿が目に入った。翔琉はすぐに住職達がいる場所へと走る。


「大丈夫ですか?」

「……君は?」

「助けに来ました」


 翔琉はすぐに3人に【光壁こうへき】をかけ、その後【光剛こうごう結界】をかける。住職は結界に気付き自分がしていた結界を解く。


「なんと強い結界じゃ。魔障も完璧に防ぐとは!」

「ちょっとやそっとでは壊れないと思います。まずこの場所から出ます。立てますか?」

「はい」


 だが住職の体力は限界だったらしく立つことが出来ない。それを弟子2人が住職の両脇に手を入れ立たせる。すると1人の弟子の者が叫んだ。


「後ろ!」


 振り向くと翔琉達に向かって何体かの魔物が襲ってきていた。翔琉はすぐに両手で十字を作り、左手で今度は大きな五芒星を描く。


「【金城鉄壁きんじょうてっぺき】」


 すると光輝く五芒星が大きく現れ、翔琉達の前で壁を作り魔物達を弾いた。

 そして翔琉は今度は今までとは反対に左手の人差し指と中指を立て右手の人差し指と中指を横にし十字を作る。そして右へ一気に祓い、下へ下ろし上に上げた。


「【爆炎ばくえん】」


 すると翔琉達を襲ってきた魔物がすべて爆発し消滅した。住職達は驚き目を見開いている。


「今のうちに外へ!」

「あ、は、はい」


 翔琉の誘導に住職達は外へと逃げる。その間も翔琉は魔物達へと【爆炎】を放ち倒していく。それを見たシュラは片方の口角をあげる。


「大分使えるようになったじゃねえか」


 翔琉の能力を見たことがないリュカは驚く。


「翔琉、あそこまで出来るのか」

「ああ、だてにナグナスと戦ってきてないだろ」


 確かに翔琉の前世がナグナス相手にしてきたからこそ、あそこまで能力をつけたと言っていいのだろう。だがナグナスを倒すことが出来ないということは、それだけナグナスが強いということだ。


「翔琉は前途多難だな」


 その言葉の意味を理解したシュラは真顔になる。


「ああ。だがいつまでもやられている俺らじゃないぜ」

「ああ。今回で負の連鎖を終わりにしよう。その前にまずこの雑魚だ」


 リュカが目の前の親玉の魔物を睨む。シュラは棍棒をしまい剣に切り替えた。


「だな。こんな雑魚相手に手こずってたら、ナグナスを倒すことなんて到底無理だからな」


 そして2人は一気に親玉の魔物を切りつけた。数本の閃光が走る。魔物も何が起こったのか分からないと言った感じだ。


 刹那、親玉の魔物がズタズタに切り裂かれ消滅した。


 それを見た周りの魔物達が一斉に襲いかかってきた。だが2人は焦ることもなく魔物達を見据える。そして、


「【炎虎えんこ】」

「【水龍すいりゅう】」


 2人の呟きに周りの魔物すべてがシュラの焔とリュカの水爆で一瞬にして消えた。そして独創領域も消え、元通りのお寺の本堂へと変わる。


 今まで大量の魔物がいたとは思えないほどの静けさが本堂に戻った。








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