09 兼也と合流
「まだ追いつかないのか?」
「現代っ子には整備されていない山登りはきついわ」
「
見れば、昇はもう声も出ないほど疲弊しており、肩で息をして汗もかいている。元ひきこもりにはこれは相当きついようだ。
「なさけねえな。お前ら。こんなんでへたっていてどうするんだ」
シュラ達守護神は疲れを感じないのか、まったく疲れた感じがない。
「シュラ達はいいよな。疲れないから」
「あほか! 俺らも疲れるわ。お前らがだらしないだけだ。こんなの全然平気なだけだ」
「そうなのか?」
「帰ったらみんな体力作りからやり直しですね」
サラがさらっと恐ろしいことを言った。
「サラさん、美人なのに言うこときついな」
「ありがとう翔琉。でも何も出ないわよ」
結局兼也に追いついたのは、それから30分後だった。先頭を歩いていた翔琉が山の麓を歩いている兼也を見つける。
「いたぞ。ってかお前ら生きてるか?」
翔琉が振り向くと、亘は木に手を突き下を向き項垂れ、未桜と昇は地べたに座り動けない状態だった。
「結局山1つ超えたんだ。お前よく平気だなー。さすがこの前まで現役高校生だけある」
「足痛いー。皮めくれてるー!」
「もう……だめ……」
昇に関してはそこに寝転んだ。
「お前ら体力なさ過ぎ。情けねえなー」
シュラが苦笑する。リュカ達も何も言わないと言うことは同じ思いのようだ。
ふと目線を兼也に戻すと寺へ入るところだった。
「やべえ! 兼也が寺に入っちまう!」
翔琉は、亘から木箱を奪うように取ると走り出した。
「お、おい! 翔琉! 勝手に行くな!」
亘が叫ぶが、翔琉は止まることなく崖を駆け下りていく。
「――ったく。あいつは!」
「お前達はそこで休憩していろ」
シュラがすぐに翔琉を追いかける。亘もシュラに言う。
「リュカも行ってくれ」
「分かった」
リュカも崖を飛ぶように
翔琉は一気に崖を降りると、今まさに寺に入ろうとする兼也の前に滑り込む。
「待ったー!」
驚いたのは兼也だ。知らない人物、それも僧侶の格好をした翔琉がいきなり前に現れたのだ。
「あ、あのー、どなたですか? ここの寺の方ですか?」
翔琉ははあはあと肩で息をしながら顔を上げる。
「え? いや……ち……がう」
「大丈夫ですか?」
兼也は肩で息をして苦しそうな翔琉を案じ声をかける。
「う、うん。ちょっとまってね。すぐ落ち着くから。えっと、これ」
翔琉は覗き込む兼也に木箱を差し出す。
「こ、これは! どうして!」
「盗まれたんだろ? お前のだろ?」
「あなたが取り返してくれたのですか?」
兼也は木箱を受け取り中を確認し無事なことに安堵する。その頃には翔琉も落ち着き体を起こす。
「よかった。どこも壊れてない。父上に怒られずにすむ」
「よかったな」
「はい。ありがとうございました。あの、お名前は?」
「俺か? 俺は翔琉」
「翔琉さんですか。私は兼也と言います。今盗まれたことをこの寺の方に説明しようとしてたところなんです」
視線を門に向けた兼也の様子が一変する。どうかしたのかと兼也の視線の先――お寺の門の中を翔琉もつられて振り向くと、なぜか違和感を感じ目を眇る。
――なんだ、この感じ。
そこへシュラがやってきた。いつの間にか僧侶の格好になっている。兼也はシュラにも軽く頭を下げる。シュラも翔琉と同様僧侶だと思ったようだ。
「これは結界だな」
シュラの呟きに翔琉も頷く。
「だよな。なんでお寺に結界なんだ? それも寺の者が張ったものじゃないな」
すると兼也が驚いて声を上げる。
「あなた達も分かるんですか? この結界!」
「お前もか?」
「はい。でもすごく嫌な感じがします」
「ああ。俺もだ」
するとそこに僧侶姿のリュカもやってきた。リュカもこの異様な結界に眉を寄せる。
「魔物か」
「え?」
翔琉と兼也は驚きリュカを見る。
「魔物? なんでそんなのが寺にいるんだよ。寺とか神社って魔物が入れないんじゃねえのか?」
神社や寺は波動が高いため波動が低い魔物は入れないのが一般的な考えだ。
「そこに神がいればの話だ」
リュカの言葉に翔琉ははっとする。すると兼也があることを思い出す。
「そう言えば、このお不動様の仏像を依頼された理由が、魔物が出るからだと父上が言ってました」
「なるほどな。だから不動明王か」
「どういうことだ?」
シュラの呟きに翔琉は意味が分からず尋ねる。
「不動明王の力は、人間に憑いた生き霊や悪い霊、魔物をその炎で焼き尽くすという人間の一般的な解釈だ。まあ現にそうなんだが。たぶんここの寺には魔物が出ていたんだろう。で、なんらかの原因で本来の寺のご本尊が力を抑えられたか弱くなったかで魔物を抑えれなくなり、不動明王を祀って祓おうと考えたんだろうな」
シュラの説明にリュカも頷く。
「これは魔の巣窟だな」
「ああ」
シュラとリュカには中の様子まで分かるようだ。
「あの、住職さんは大丈夫でしょうか?」
兼也が不安げに尋ねる。
「まだ生きてはいるな。だが早くしたほうがよさそうだ」
「住職様!」
兼也はいきなり走りだし門の中へと入って行った。
「あ! 兼也!」
翔琉も兼也を追いかけて中へと入る。
「あ! 翔琉! ったく、何も考えずに行くのは昔から変わらねえな!」
シュラとリュカもすぐに後を追う。
翔琉は門をくぐった瞬間、重たい空気へと変わったため思わず止まる。
「なんだこれ。すげえ気分が悪い」
その後ろで、シュラが周りの魔障を払いながら言う。
「結界を張っているため、この中が濃い魔の気、魔障になっているんだ」
「くそ」
翔琉は右手の中指と人差し指を立て、左手の人差し指と中指を横にして重ね、そして左横へ払い、そして上に引き上げ、下へと一気に下げ、最後に斜め左上に払う。
「【
すると翔琉の周りに見えない光の膜が覆う。魔障から身を守るものだ。
「へえ。思い出したのか」
「よくわかんねえが、浮かんだものをやってるだけだ」
「ふっ。正しい判断だ」
翔琉は参道を走り抜け、突き当たりの本堂に踏み込む。そこは外よりも一段と濃い魔障に覆われていた。すると先に行った兼也が倒れていた。
「兼也!」
翔琉は駆け寄り兼也を抱き起こし、【
「翔琉さん……」
「大丈夫か?」
「はい。すみません、ここに入ったら苦しくなって」
「当たり前だ。ここまで濃い魔障に当たれば人間はすぐ倒れる。下手すれば命を落とす」
リュカの言葉に翔琉ははっとする。
「じゃあ住職は!」
「まだ生きている。住職も結界を張って身を守ってるな」
「ああ。だが適切な結界じゃない。シュラ、この魔障を焔で焼き祓え」
「ああ」
シュラは棍棒を取り出し前に構える。するとシュラの赤い目が一瞬光ると同時に棍棒も淡く光る。そして棍棒を横一線に薙ぎ払った。
「【
棍棒から赤白い焔が一面に円を描きながら一瞬にして広がる。すると魔障が浄化された。
「すごい……」
兼也が感嘆の声を上げている。
「よし! 急ごう!」
翔琉が走り出そうとしたところをシュラが後ろの襟元を掴み止める。
「な! なんだよ! シュラ!」
「ったく、すぐ考えなしに突っ走るの止めろ」
「なんでだよ! 住職が危ないんだろ? お前が浄化したし危ないことなんてないじゃねえか」
するとリュカが呆れたように嘆息しながら言う。
「よく見てみろ。シュラが浄化したのにまた魔障が湧き出ている」
「え?」
翔琉は周りを見る。確かに徐々に魔障が増えていた。
「なんで……」
「お前わからないか?」
「なにが?」
シュラが奥、住職がいるであろう奥の部屋へと顎をくいっとする。その先を見て気付く。
「……何かいる?」
「ああ。親玉がいるな」
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