08 ナグナスの執着



 爆発が起きた後、ナグナスはすぐに1人でその場から離れた。

 『ブラックカイト』の3人が捕まることは予想していた。時渡りの者に普通の人間が勝てるわけがないのだ。


「まず戻るか」


 ナグナスはトランシーバーほどの大きさの機械を取り出す。『ブラックカイト』が開発した過去から現代に帰るための機械だ。


 ナグナスは機械の現代に戻るスタートボタンを押す。だが何も起きない。


「ち! 時渡りのやつらが来たから3時間の縛りで帰れねえのか」


 時渡りの者が過去に来てから、3時間は過去にも来れないし帰ることも出来ない。

 ナグナスや天部の者達も例外ではない。時渡りをすることは、時を司る神の領域に入るということだ。だとすれば時を司る神が決めたルールがすべてであり、例外はない。


「しょうがねえな」


 しかたなく身を隠すことにする。ナグナスとて、もし強引に過去を変えれば、時を司る神によって存在自体を消されてしまう。人間以外も例外ではない。だがその縛りを守れば、ナグナスのような者でも手出しは出来ないということだ。だからおとなしくそのルールに従う。


「名前は月城翔琉つきしろかけるだったか……」


 先の出来事を思い出す。たまたまアジトに帰る時、翔琉を見つけたことによって計画を変更したのだ。まさかこの時代に来ていたとは思わなかったナグナスは驚く。そしてシュラ達四天王が気付くことも分かっていた。だから『ブラックカイト』の者をあの場に残し翔琉を殺そうと動いたのだ。


「今回は厄介だな。やっぱり強くなってやがる。2回も殺し損ねた」


 翔琉を最初に見たのは現代だ。駅で見かけたのだ。幸いまだ時を司る神から時渡りの力を授かっていないためシュラの姿もなかった。だから殺すのは今だと動いた。


 そこで雷を落とし感電死させようとした。だが雷は軌道を変え、近くの木へと落ちた。

 そして次の瞬間、翔琉の姿が忽然と消えた。雷が原因で時渡りをしたのではないのは明らかだった。それは他からの干渉によって翔琉は過去へ飛ばされたのだ。

 誰がしたのかは分かっている。


「時を司る神め」


 時を司る神が唯一干渉出来るのが現代。時朗じろうの時もそうだったように、時を司る神からの加護を受けている時渡りの者を現代で殺すことは不可能のようだ。

 やはり時を司る神が手出し出来ない過去へ行かなければ翔琉を殺すことが出来ないらしい。


「だとすれば、やはり『ブラックカイト』にいないといけねえってことだな」


 過去に行くには、やはり『ブラックカイト』の過去へ行く装置を使わなければいけないのだ。そこであることを思い出す。


「そういえば、あれはなんだったんだ?」


 翔琉のことは体が勝手に反応する。翔琉が近くにいるだけで体が憎悪と嫌悪感と殺意で全身が逆立つのだ。だからどんなに姿を隠したとしても気付くのだ。


 先ほども近くに来たことも体が分かり動いた。だがそこにいたのは翔琉ではなく知らない女だった。一瞬そうかと思ったがその女からは翔琉のような感じはいっさい感じられなかった。その後すぐに、その奥に翔琉がいるのが分かり翔琉の方に向かったのだ。


 だが1つ疑問が残った。


「あの女、俺と目があったよな」


 まず翔琉以外目が合うことはあり得ないことだ。だが一瞬だった。


「たまたまか。その後は目が合ってなかったからな」


 あの時は目の前で近かったため偶然合ったのだろうと結論づける。


「まあいい。翔琉を今度こそ殺さねば俺の安息はやってこない。そしてシュラもだ。あいつは絶対に殺す! 俺をこんな体にした張本人なんだからなー。殺さねば気が収まらない」


 ギッと奥歯を噛む。


「待ってろよ」




      ◇




 翔琉達はわたる達と合流すると、ナグナスとのこと、翔琉が狙われていることを話す。未桜はやはりと嘆息し、昇とユウラ、サラは驚いた。


「やはり翔琉狙いだったか」


 越時は腕組みをし唸る。


「じゃあまたそのナグナスってやつは翔琉を襲ってくるの?」


 未桜が眉を潜めながら訪ねる。それに応えたのはシュラだ。


「いや、ナグナスは今回はもう襲ってこないだろう。人数からして圧倒的にこっちのが有利だ。あいつは自分が不利になるとすぐ逃げるからな」


 それを聞いてみな安堵する。


「じゃあナグナスの件は一旦置いといて。本来の目的である仕事をするぞ! 木箱はここにある」


 越時が木箱を見せる。大きさは50センチほどだ。木箱を開けると布で包まれた物が入っていた。


「中身は仏像だ」


 布を剥がしながら越時は言う。中に入っていたのは木で掘られた不動明王像だ。だが何故か普通の仏像ではなかった。それに気付いたのは翔琉だ。


「この仏像、すげえ力感じるんだけど」

「そうだ。この仏像は道が繋がってるからな」


 繋がっているとは、黄泉の国にいると言われる仏とコンタクトがとれ、願えば仏に通じ、力も貸してもらえるということだ。


「すげえな。繋がっている仏像初めて見た」

「この時代の仏師は霊力があり神を見る力もあったんだろうな」


 確かにこれまで見てきた仏像とは何か違う。


「これを兼也かねなりに返すんだよな」

「ああ。兼也は木箱を盗まれたことを依頼した寺へと謝罪に行くため向かっているはずだ。寺に行く前にこの木箱を返す」


 越時は不動明王像をまた布に包み木箱にしまう。


「これを渡すのはお前達に任せる」

「え? おっちゃんは?」

「俺はトスマとこいつらを時空警察に引き渡さないといけないからな。ってことで後は頼むぜ」


 そう言って早く行けと手でしっしっと払う仕草をする。


「相変わらず人使い荒いなーおっちゃん。亘と一緒だな」

「似てねえよ。俺はあんなんじゃない」


 亘は心外だとムッとするが、


「そっくりよ。叔父さんと」

「うん。亘もあんな感じだね」


 未桜と昇も肯定する。


「そんなことないよな? リュカ」


 リュカだけは否定してくれるものと思っていたが、


「越時と亘は似ている」


 こちらも肯定した。リュカの一言は亘には衝撃を受けたようだ。


「……まじか。気をつけよ」


 本気で言う亘に翔琉達は笑うのだった。




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