07 俺の唯一の守護神




「あいつ、あのフードのやつって、ナグナスっていうやつか?」

「!」


 シュラ達は皆目を見開く。


「……お前思い出したのか?」

「思い出した? そうか……当たってんだ……」


 翔琉は、力なくふっと笑う。


「お前がというより、お前の前世、魂がだな」

「まだ全部じゃないけど分かってきた。なあ、あいつなんで俺を狙ってるんだ? まだそのへんが思い出せないんだ」

「俺達もそれだけは分からない。なぜかお前にだけ執着しているようだ」

「俺にだけ?」

「ああ。お前が何回転生しても、あいつはお前の命を狙ってくる。あいつが隠形おんぎょうした姿を見ることが出来るのはお前だけだからかもしれん」

「で、でも未桜みお……」


 だがそこで翔琉かけるは言い止す。未桜がナグナスが見えていることをシュラ達に言っていいものなのかと迷ったからだ。その理由に気付いたシュラは呟く。



「未桜が見えてるという話か?」

「なんでそれを?」


 反対に翔琉は驚きシュラを見る。


「お前知ってたのか?」

「ああ。少し前に未桜から聞いた」

「そうか。ナグナスがこっちに来たことを教えたのは未桜だ。あいつは姿を消していた。なのに未桜は一瞬だが俺らの所に走って行ったのを見たと言っていた。どんなに能力が優れた天部の者や人間の者がナグナスの姿を見ようとしても見れなかった。だが未桜は何もしなくても見れた。だから俺らも驚いているんだ」


 ――だがナグナスは未桜の命を狙うことはなかった。だとすればあいつの姿が見えるから翔琉を狙っているという線はなくなったということだ。


 翔琉が命を狙われる原因が、姿を見ることが出来るからだと思っていたため、その線が今無くなったことになる。


 ――じゃあなんで翔琉は命を狙われる!


 シュラは拳を握りギッと奥歯を噛みしめる。するとトスマがシュラの肩に手を置く。


「シュラ、そう考え込むな。元々翔琉を狙う目的が分かっていなかったのじゃ。今更1つ可能性がなくなったところで何も変わらん」

「トスマ……」

「じゃが確実にあやつを追い込んでいることは確かじゃ。なんせ翔琉の力が前より断然強くなっておるからのう」


 トスマの言葉に翔琉は驚き見る。


「俺が?」

「そうじゃ。さっき開眼かいがんしたであろう?」

「ああ」

「普通わしら天部の者にするあのような能力付与は人間のお前ができるのはせいぜい一人じゃ」

「え?」


 どういうことかまったく分からない翔琉は眉を潜める。


「昇がしている隠れ蓑の能力は人間に対してしているものだ。わしらは隠れ蓑の能力を使わなくても出来るからのう。時渡りの能力はたい妖魔、妖怪、怨霊、人間用じゃ。天部のわしらに能力を付与することはまず出来ないのじゃ。だがお前だけがなぜか1人ではあるが、昔からわれら天部へ能力を付与できておった」


「そうなんだ」


「じゃが今回のお前は1度に我ら3人に開眼かいがんの力を付与した。普通は1人出来て御の字なのにじゃ。翔琉、聞くが、時を司る神から何か言われなかったか?」


 トスマの質問に、シュラとリュカがトスマへと視線を向ける。


「トスマ? それはどういうことだ?」


「どれだけ翔琉の能力が強いからといっても、わしら天部の者全員に開眼かいがんの類いの能力を付与することは不可能じゃ。だがそれを可能にしたということは、何かしら神から力を与えられなければ出来ない技じゃ」


 天部の者達は人間よりも高波動だ。いる次元も違う。そんな相手に波動が低い人間が力を与えることは不可能な話なのだ。

 翔琉は時を司る神との会話を思い出す。


「たしか――」



『――私の力の一部を与える。――――私の力はお前の役に立つだろう。正しく使え。見誤るな』



「――って言われたな」


 それを聞いたシュラ達は目を見開き、トスマはふっと笑う。


「やはりな」

「そういうことか」

「それでか」


「? どうしたんだよ」


 翔琉は意味が分からず尋ねる。


「言葉通りじゃ。翔琉は時を司る神から特別に力の一部を与えてもらったんじゃよ」

「特別な力?」

「そうじゃ。だがその力は人間が扱える領域を超えている。だから見誤るなと忠告されたのじゃ」

「!」


 そういう意味だったのかと翔琉は理解する。


「そっかー。じゃあ神様の期待に応えないとな」


「期待?」


「ああ。だってそういうことだろ? その力を使わなければ道は開かないということだよな? 時を司る神様は俺に言ったんだ。未来は俺らが作っていくものだと。俺のいる世界は二者択一らしいからな。良い道と悪い道があるということだろ? なら俺は良い未来に向かって進みたい。神様が願う道は俺が死ぬ道じゃない。死ぬ道が決まっているならば神様は俺に力を与える必要はなかったはずだ。神様が願う未来は、俺が神様の力を使わなければ進めない道なんだ。だから俺は神様の期待に応える! そして今度こそあいつを倒す!」


「…………」


 シュラはじっと翔琉を見る。なぜか奏時そうじと重なる。


 ――ああ、奏時もそうだったな。翔琉と同じくまっすぐ前を向いて進むやつだった。


「シュラ」

「ん?」


 翔琉はシュラの前に歩み寄りまっすぐシュラを見る。


「今度の俺は死なない。もうお前の身代わりはごめんだからな」


「!」


「約束だ! だからしっかり俺を守ってくれよ」


 にぃっと笑う翔琉にシュラは目を見開く。


「お前……記憶が」


「ああ、1つ前のやつだけな。そいつ、なんて名前?」


奏時そうじだ」


「奏時っていうのか。言っておくぞ。俺の思いじゃない。奏時の最後の思いだ」


「え?」


「まったくお前のこと恨んでないぞ。ああなることわかってたからな。少し先読みの力があったみたいだな」


 そう言えば奏時は少し先の未来を知る能力を持っていたことをシュラは思い出す。


「でもそのことをシュラにあえて言わなかったんだな。回避をすることが出来ないこともわかってたみたいだし」


「……」


「だからもう悔やむな。あれは奏時が自分で決めたことだ。シュラのせいじゃない」


「……」


 シュラは何かを思うように視線を下に向ける。まだ後悔に苛まれている顔だ。翔琉は頭1つ高いシュラの胸ぐらを掴み叫ぶ。


「いつまでも悔やんでるんじゃねえよ! このバカ! 奏時の命令はどうしたんだよ!」


「!」


「最後に悔やむなって奏時に命令されたんだろ? ならいつまでもうじうじ考えてないで奏時の命令守れよ! 俺の魂が記憶しているシュラはこんないつまでも過去のことを引きずってうじうじしているやつじゃねえぞ! もっと堂々として、図々しくて、全然守護神らしくなくて、チャラい鬱陶しいうるさいやつなはずだ!」


「……翔琉」


 翔琉は自分の胸を親指でたたきながら叫ぶ。


「今俺はここにいるんだぜ! 生きているんだぜ! 違うか?」


「!」


 シュラは目を見開く。翔琉はじっと真っ直ぐな目をシュラに向ける。


 ――ああ、そうだ。翔琉は確かにここにいる。


 シュラは片方の口角を上げ腰に手を当て顎を少し上げる。


「うるせい! お前に言われたくねえ! 偉そうにするんじゃねえよ! まだ18そこそこしか生きてないお子ちゃまがよー!」


 シュラの目に光るものが見えたのは気のせいか。だがさっきまでのシュラではない。吹っ切れた顔をしている。そして笑っている。やっぱりシュラはこうでなくちゃと翔琉も笑う。


「相変わらずうるさいんだよ! ちゃんと俺を守れよ! !」


「お前……その言葉……」


 奏時がいつも言っていた言葉。




『俺の唯一の守護神!』




 シュラは1度目を閉じふっと笑う。そして翔琉を見る。一点の曇りもない目だ。


「ああ。当たり前だ」


 ――ずっとお前を見てきた。お前を守ってきた。お前と共に歩むと決めたんだ。だから!


たがえるわけがねえだろ!」 


 心から叫んだ。


 そんな2人を見てリュカとトスマは何も言わず微笑むのだった。



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