06 開戦
――フードの男!
思った瞬間にはフードの男は後ろに走って行った。
「サラ! フードの男が
その言葉にサラ達は驚き未桜を見る。
「未桜?」
「いいから早く伝えて!」
ただならぬ未桜の叫びに、サラはすぐにシュラ達にテレパシーで知らせる。そして聞く。
「未桜、あなた見えたの?」
サラは、フードの男の姿は見えておらず、ましてや気配も感じれなかった。それなのに未桜は見えたと言うのか? そんなことがあり得るのかと訝しむ。
「一瞬ね……」
本当に一瞬だけだ。だがはっきり顔も見えた。左側の顔は火傷でただれ、そして左目の瞳も白く濁っており異様な姿だった。
――なんなのあいつ。すごい嫌な感じ。
未桜とサラの会話を聞き、昇が不安げな顔を向け、ユウラも驚きの声を上げる。
「未桜さん、フードの男がいたの?」
「本当ですか? 僕は気付きませんでした!」
「うん。今目の前にいた……」
「えええ!」
未桜は後方――翔琉がいる方を見る。
――あのフードの男、翔琉を狙ってる!
なぜかそう思った。建物が邪魔で翔琉達が今どんな状態か分からず不安に苛まれる。だが助けに行くことは出来ない。
――大丈夫よね。シュラ、リュカ、トスマがいるんだから。
ただ無事を祈るしかできなかった。
◇
『フードの男がそっちに行ったわ!』
サラから連絡が来た瞬間、シュラとリュカが武器を出現させ翔琉の1メートル手前に移動し、トスマが翔琉に防御結界をかけた。
刹那、リュカが勢いよく横に吹き飛ばされた。すぐにトスマが翔琉を抱き、後ろに大きく間合いをとるように下がり、シュラがその前に
何が起ったか把握出来ず、翔琉は呆然とする。そしてそこでリュカが吹き飛ばされたことに気付く。
「リュカ? え? なにが起きたんだ?」
困惑しながらシュラの前へと視線を向けると、そこにはフードの男が剣を構えていた。
「フードの男!」
リュカはすぐに立ち上がると、シュラの横に戻り剣を構える。シュラは目線は前を向けたままリュカへ声をかける。
「大丈夫か?」
「ああ。問題ない」
だがリュカの肩は血は出ていないが大きく斬られていた。その姿を見て翔琉は驚き声をあげる。
「リュカ! 肩が!」
「ああ、気にするな。これぐらいならすぐ治る」
「え?」
リュカの言うとおり、みるみるうちに傷口は塞がっていった。破れた服も元通りになる。やはり守護神は神であり人間ではないのだと実感する。
するとシュラが叫ぶ。
「翔琉! あいつが見えてるだろ! 俺にもあいつを見えるようにしろ!」
「え? 見えるようにって?」
翔琉は困惑する。シュラの言っていることが分からない。
「
「は?
そう言われてもやり方がまったく分からない。
「どうやって! 俺やり方分からねえって!」
「分かるはずだ! 思い出せ!」
「思い出せと言われても……」
するとフードの男は一気に間合いを詰めシュラへと襲いかかってきた。
「シュラ、前!」
「!」
シュラは翔琉の声に反応し、1歩前に出ると
「!」
フードの男は舌打ちする。
――やはり見えずとも止めてくるか。
「リュカ! トスマ! 翔琉を守れ!」
リュカは翔琉がいる場所に移動すると、フードの男がいるであろう場所から翔琉が見えないように剣を構えて立ち、トスマは翔琉の横に同じく剣を構えて攻撃に備える。
シュラは今までの経験から、空気の流れを読み、フードの男の攻撃をどうにか受け止め、翔琉の方へと行かせないようにする。
――くそ! 姿が見えねえから致命的な攻撃ができねえ!
「翔琉! 早くしろ!」
「そんなこと言っても、どうすれば……」
焦りから、ただオドオドするばかりだ。すると、
「翔琉」
トスマが翔琉の頭に手をおき微笑み諭すように言う。
「焦るのではない。ただ思えばよい。そうすれば
翔琉は言われた通り深呼吸をし目を閉じる。すると、なぜか自然とふと浮かんだ。
翔琉はばっと目を見開き、両手の中指と人差し指だけを立て、両手で十字を作り、左手を一気に真横に薙ぎ払い唱える。
「【
するとそこにいたシュラ、リュカ、トスマの目が光った。
「!」
リュカとトスマが何故か驚いている。そしてシュラがフッと笑う。
「やるじゃねえか。上出来だ」
今まで見えなかったフードの男ナグナスの姿が現れる。ナグナスは舌打ちする。
「ち!」
――1度に3人を
ナグナスは膝をつき、左手の手の平を地面に突きつける。刹那、地面が勢いよく盛り上がり翔琉達めがけて襲いかかってきた。
「!」
リュカは翔琉達の前に出ると剣を地面に突き立てる。すると、ナグナスが起こしたのと同様に地面が盛り上がり一気にナグナスが放った攻撃に激しくぶつかり相殺する。だがその反動で爆発が起り、辺り一面に土と石、砂利が勢いよく飛び散り、翔琉達に容赦なく降り注ぐ。
「くっ!」
翔琉は反射的に顔を腕でかばうが、トスマの結界により守られ土砂が当たることはなかった。
◇
その頃、
「なんだ?」
縄で縛られた『ブラックカイト』の3人も何が起きたのかと驚愕している。
「やはり翔琉狙いか」
「みたいだね。あいつ大丈夫だよな?」
亘はギッと睨み、すぐにでも飛び出して行きたい衝動を抑える。今自分が行ってどうにかなることではないことは分かりきっている。でも居ても経ってもいられない衝動に駆られ落ち着かない。そんな亘の気持ちを察した越時が亘の肩に手を置き言う。
「大丈夫だ。最強のやつらが付いてるんだ」
越時も爆発の方を睨みながら自分に言い聞かすように噛み締める。
「信じるしかない」
◇
爆発が収まり視界が開けてくるとナグナスの姿は忽然と消えていた。
「逃げたか」
シュラは棍棒を消し息を大きく吐く。今はいなくなってくれて内心ほっとする。
「大丈夫か翔琉」
「ああ。俺は何ともない。みんなが守ってくれたから……」
そういう翔琉は元気がない。初めての仕事がこれでは怖がるのは無理はないとシュラは目を細める。
「最初の仕事にしてはハードだったな。まあ気にするな。いつもこんなことはないからな」
どうにか翔琉の恐怖を取り除こうとシュラは笑顔を見せるが、翔琉はじっと下を向いたままだ。
「どうした? 怖じ気づいたか? 大丈夫だ。俺らがいるんだ。心配す――」
「なあシュラ……」
翔琉はシュラの言葉を遮るように名前を呼ぶ。
「あいつ、あのフードのやつって、ナグナスっていうやつか?」
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