05 計画変更
「この大幅な変更の理由はなんですか?」
あまりにも最初の計画と違い過ぎるため、
大幅な変更の内容は、人と守護神の配置だ。
『ブラックカイト』から木箱を取り返すのは
質問には越時が応えた。
「守護神達の見解では、あちらさんは俺達には気付いていると考えたほうがいいということ。だとすれば、あと3時間はこの時代に足止めを食らっていることも分かっている。そのまま隠れて時間を過ぎるのを待つことは有り得ないだろう」
その後をトスマが話を繋ぐ。
「そしてフードのやつは人間ではない。だとすれば、わしらが近くにいることにもう気付いているはずじゃ。そしてフードのやつはわしらに攻撃してくる可能性が高い」
「だったらシュラ達は前衛の方がいいんじゃないの?」
未桜がこの異様な陣形を訝しむ。攻撃をしかけてくるならシュラ達が前衛にまわったほうがいいに決まっている。だがなぜか守護神の攻撃陣は全員後方にまわっているのだ。
理由を知らない未桜と昇、そして翔琉本人は、納得できず眉を潜める。
――そりゃあ、そうなるわなー。
理由を知っている越時と亘は昇達の気持ちが分かり、心の中では同感だ肯首する。
だが変更はできない。これは翔琉が狙われている前提の計画なのだ。
翔琉と一緒にすれば、未桜と昇も危険にさらされる。3人を守りながら戦える相手ではないのだ。
だが今は言うつもりはないため、それらしい理由をつけて越時は応える。
「それはできない」
「なぜ?」
「フードのやつの狙いは、シュラ達守護神だからだ」
「え?」
「だからフードのやつをシュラ達が引きつけて、他の『ブラックカイト』のやつらと離す。フードのやつに立ち向かえるのは、シュラ達守護神だからな」
それに対し昇が疑問を口にする。
「でも絶対に越時さんや亘に目もくれずにフードのやつがシュラ達に向かって行く確証はないんじゃないですか? それに守護神達と一緒にいる翔琉も危ないですよね? なら翔琉も僕達と一緒にいたほうがいいんじゃ?」
昇の言うことは的を得ている。だがそれは絶対に出来ない。フードのやつの狙いは翔琉のみだからだ。
「それは大丈夫だ」
「その自信はどこからくるんですか?」
昇も一歩も引かない。するとトスマが諭すような口調で笑顔で言う。
「昇、お前さんの気持ちも分かるが、ここはこの計画で納得してくれないかのう」
「トスマ……」
「心配せんでもいい。わしらに任せてくれ」
根拠を言われたわけではないが、トスマに言われると、どうも納得してしまう。だがやはり心配なことはある。
「わかりました。でも越時さんと亘2人だけで本当に大丈夫なんですか? 相手は3人もいるんでしょ?」
すると越時と亘はあることに気づき、目を瞬かせる。
「昇はまだ俺と亘の戦い、見たことなかったか」
「うん」
昇は能力がなかなかうまく出せないため、いつも簡単な依頼しかこなしてこなかった。そのため戦いがある依頼は今日は初めてなのだ。
するとリュカが腕を組んだ状態で言う。
「昇、心配するな。越時と亘は強い。我らがいなくても負けはしない」
亘も頷きながら心配するなと笑顔を向けて言う。
「昇忘れたか? お前も小学生までやってただろ? 俺も翔琉もそれに親父も今もずっと
そこで翔琉も「ああ」と声を上げる。
「なるほど。なんのための武術か分からなかったけど、このためだったんだな」
時任家の者は3歳から皆、この時任式武術をやることになっている。翔琉は、なぜ神社で武術が必要なんだとずっと思いながらやってきていたのだ。昇も例外ではなく小学生まではやっていたが、中学生になりいじめにあってからはやめてしまっていた。
「俺らがやっている武術は戦闘用だ。基本は少林寺拳法だが、より実戦に有利なものになっている。それに
越時が自慢気な顔をする。ここでいう
「そういえば、なんで刀じゃなく
着物には刀じゃないかと思ってしまうものだ。
「両刃じゃないと神力は宿すことが出来ない。刀のような刃が片方のものは、妖力や怨念、悪霊は宿せても神力は宿せないんだ。大昔の神が使ったとされる剣はみな両刃だろ?」
「確かに
「俺らが使う時渡りの能力は、時を司る神から授かった神力の類いだ。だから両刃じゃないとだめなんだよ」
だから両刃の
「本物の
翔琉の質問に、皆不思議そうな顔を向け、その後「ああ、そうか」と声を上げる。
「そうか。翔琉は初めてだから、まだ分からないんだな」
「?」
「みな、自分の中に持ってたり、守護神が持ってたりするんだよ」
「え? そうなのか?」
「うん。まあそのうち分かる。楽しみにしてな」
亘は笑い翔琉の肩を叩く。
「じゃあ今からやるぞ」
「今から? こっちから動くのか?」
「ああ。時間がたてば、こちらが不利だ」
越時は立ち上がる。
「よし! 失敗は許されない! やるぞ!」
皆も立ち上がり頷く。
「では開始!」
◇
越時を先頭に亘達は見つからないように『ブラックカイト』がいる建物に近づき物陰に隠れる。昇が隠れ蓑の能力を使い、気配と姿を見えなくしているので越時達の姿は見えないが、相手にナグナスがいることを考慮して一応念のため身を隠す。
「未桜と昇は、サラとユウラとここで待機」
「僕の隠れ蓑はまだ15分ほどしか効かないよ」
「十分だ。もし俺達が15分経っても出てこなければ、サラとユウラは未桜と昇を連れて退避」
「了解」
「ちょっと待って」
昇が声を上げる。
「それってどういう意味? 越時さんと亘を見捨てるってこと?」
「そうだ」
「そんな!」
「それがこの時渡りという仕事の鉄則だと最初に説明したはずだ」
「だけど! そんなこと!」
「昇、いいか。お前の気持ちも分かる。だがなー、さっきも言ったが俺と亘はそんじょそこらのやつよりも強い。その俺らがやられるということはどういうことか分かるか?」
「――――」
昇は黙り目線を下に向ける。越時は口角を上げる。
「翔琉と違って飲み込みが早いな。お前達が助けに入ったとしてもただ被害者が増えるだけだ。そしてそれだけ他のメンバーに伝える時間も遅れる。この仕事は時間との戦いだ。敏速且つ正確さが大事なんだ。そうしないと過去を変えてしまい取り返しのつかないことになる」
「くっ!」
昇は苦渋の顔を見せる。
「分かったな」
「……はい」
だがどうしても納得いかない。そんな昇の頭に越時は手を置く。
「だが悪いが俺らはそんなヘマはしない。だからまずそんなことはあり得ないんだけどな」
「え?」
「昇、俺と親父の強さを分かってないんだよ。心配するな」
「そうよ。あんた知らないからよ」
亘と未桜も笑う。そんな3人が嘘をついているようには見えない。
――僕はみんなを、仲間を信じよう。
「わかった」
昇は力強く頷いた。
「では行くぞ」
越時と亘が走り出した。
「じゃあ私たちももう少し下がるよ」
その時だ。未桜の横に人影が落ちた。
「!」
未桜が振り向くと、あのフードの男の顔が目の前にあり一瞬目が合う。だがすぐに見えなくなった。すると男の声がすぐ側でした。
「違うな。人違いか」
「!」
――フードの男!
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