04 守護神との繋がり




 シュラ達が話している頃、ユウラとサラは、のぼるに結界能力の出し方を教えていた。


 昇は翔琉かけるより1ヶ月前に時渡ときわたりの仕事をし始めた。だが、まだうまく能力を使うことが出来なかったため、過去に来た時、空いた時間を使いユウラに教えてもらっていたのだ。

 そんな昇を翔琉と未桜みおは、『ブラックカイト』に何か動きがあるか見張りながら、ちらちら見て苦笑する。


「あいつ大丈夫か? ぜんぜん出来てない気がするけど」


 昇が出来る能力は、防御結界と隠れ蓑の能力だ。防御結界は頭では分かっていてもうまく繰り出せず、隠れ蓑の能力は、出来ても持続が続かずに苦労しているようだった。


「知ってた? この時渡りの能力は信じることが一番の発動力なんだって」


「そうなのか?」


「うん。元々時渡りの者は、前世もほとんどが時渡りをしているらしいわ。だから前世で使えた能力は自然と体に刻まれてて、過去に来た時に思い出して使うことが出来るのよ。私もそうだったわ。一気じゃないけど、少しずつ使える能力を思い出したわ。でもそれが本当に使えるのか、自分は出来るのかっていう不安を最初はいだくじゃない? その出来ないんじゃないかっていう不安が昇は強すぎるのよ」


「なんで?」


「昇は、中学、高校といじめにあってきたのが原因ね。だからその不安を取り除くには実践するしかないのよ」


 そうなんだと視線を『ブラックカイト』が潜伏している屋敷へと視線を向けると、未桜が話しかける。


「ねえ……」

「ん?」

「私もフードの男がいるの見えてた」

「え?」


 驚き、隣りの未桜に視線を向ける。


「翔琉と一緒。私も天眼てんげん持ってるのよ」

「そうなのか? なんで言わなかったんだ?」

「あのフードのやつを見た瞬間、私の体が全身で拒否反応したのよ」

「拒否反応?」

「そう。拒否反応って言い方が正しいのか分からないんだけど、危険と判断した時、私のある能力が勝手に発動する。それは体の中だけで起きるのよ。だからサラも気付かない」

「それはどんな?」

「まあ私自身の魂に蓋をするみたいな感じね」

「蓋? なんだそれ」

「説明が難しいんだけど、魂を強力な入れ物に入れられる感じかな」


 未桜は自分の胸に手を当てる。


「何回もあるのか?」

「ううん。過去2回ぐらいかな。まあ発動原理は分かってる。天眼てんげんよ」

「え?」

天眼てんげんって、相手の本質を見抜くっていうじゃない? だから危険だと察知して体が反応したんだと思うわ」


 本能が警告を鳴らしたようなものかと翔琉は解釈する。


「私達の天眼てんげんってさ、結局現代では見えないものを見る時に使うのと一緒でしょ?」

「ああ。勝手に見えるよな」

「そうなのよ。自分じゃ自覚して使ってないじゃない? 能力を使う時とは違うのよ。元々、天眼てんげんがない人は天眼てんげんという能力が使えるようになる人もいるみたいだけど、あえて使おうと思わないと使えないらしいわ。でも私達は普通に使ってる。だから私や翔琉のは、ただ自分が持っている元々の能力なのよ」


 確かに時渡りをした時だけ使える能力ではない。普段と一緒なのだ。


「だからさっきも拒否反応を起こしたから、ああ天眼てんげん使ったんだとわかったの」

「そのことおっちゃんとかには?」

「誰にも言ってないわ。翔琉が初めてよ」

「なんで俺にだけ?」

「話す機会がなかったのよ」

「今はどうなんだ?」

「今はもう元に戻っているわ」

「そうか」


 翔琉は越時達の方を見る。


「それにしてもおっちゃん達、なにを真剣に話してるんだ? みんな顔が重くないか?」

「越時さんはもともとあんな顔でしょ」


 未桜も横目で見ながら興味なさそうに返す。


「それになんかシュラがおとなしいんだよな。どうしたんだろう?」


 さっきからなぜかシュラの表情が硬い。まだ合って間もないが、チャラチャラしているのがシュラらしいと思ってしまう。


「あれが普通でしょ。今から得体の知れないやつを相手にするのよ。レベル3なんだから命の危険もあるし。そんな状態でヘラヘラしてたらおかしいでしょ」

「確かにそうだけどよう」

「ふーん?」


 いきなり未桜が意味ありげに片眉と片方の口角をあげ笑う。


「なんだよ」

「あんたシュラのことウザがってたわりに、シュラがああいう顔していると寂しいんだ」


 未桜は悪戯な顔を見せ揶揄する。


「ち、違うわ! ただ……」

「ただ?」

「ただ、なんか元気がないというか、辛そうというか……」


 それまで笑っていた未桜も笑顔を消し、シュラへと視線を向け目を細める。


「そりゃ、あれだけ長く生きていれば何かしら思い出したくない事、辛い出来事があったでしょうよ」


 翔琉は未桜を見る。


「どうしたんだよお前。何か心当たりがあるような言い方だな」

「別にー」


 そう言って未桜は空を見あげる。そこには、今も過去も変わらない空があった。


「シュラに何があったか知らないけど、ただこの仕事をしていると前世のことをちょくちょく思い出すのよ。あんた知ってた? 守護神って私達の魂との繋がりが強くて、前世でも守護神は変わらないことがほとんどなのよ。だから、あんたの前世もたぶんずっとシュラが付いていたと思うわ」


「そういえば、ずっと昔から見ていたって言ってたな」


「でしょ。それはそういう意味よ。そのうちあんたも仕事をしていけば前世の記憶を思い出すわよ」


 そういうものかと翔琉はシュラを見る。さっきよりもとても辛そうな顔をしている。


「シュラにあんな顔をさせる何か嫌な出来事が過去にあったのかな……」


 翔琉の問いかけに未桜もシュラを見る。


 守護神があのような顔をする理由はただ1つだと未桜は分かっている。サラもシュラと同じ顔を過去に何回もさせていた。


 それは未桜の前世が死ぬ時だ。


 今は少なくなったが、昔は命を落とすことはよくあった。

 未桜の前世も例外ではない。

 どれだけ守護神が守っていても守りきれないことは多々ある。ましてや未桜の守護神サラは武神ではない。だから命を落とす確率も高かった。


 いつもサラは泣きながら命が切れかかりそうな未桜の前世の者に謝っていた。

 そんなサラに未桜の前世の者は思っていた。


 ――もうそんなに泣かないで。サラは悪くない。サラのせいじゃない。だから自分を責めないで。


 シュラも同じなんだろう。後悔に苛まれている顔だ。


「そのうちあんたも分かるわよ。シュラがどうしてあんな顔をしているのか」

「そうなのかなー」

「私達に言えることは、シュラ達守護神にあんな顔をさせないようにするだけよ」

「? どういう意味だ?」

「ああ、面倒。この話は終わり」

「なんだよそれ!」

「ああ。うるさい。黙ってて」

「お前なー。勝手過ぎないか?」


 そこへ話が終わった越時達が戻って来た。


「お前ら見張りもせずに喧嘩してるのか?」


 呆れた口調で越時が言うと、翔琉は心外だと反論する。


「違う! こいつが勝手過ぎるんだよ!」

「あんたがうるさいからよ」

「は? なんだよそれ!」


 越時は大袈裟に肩を上下に揺らし、ため息をつく。


「喧嘩は現代に帰ってからしてくれ。今から変更点を説明するぞ」


 翔琉はまだ言いたいことはあったが仕方なく黙り、隣りに来たシュラをちらっと見る。もう辛そうな顔はしておらずいつものシュラだ。よかったと少し安堵し目線を前に向けた。翔琉が視線を前に向けたと同時にシュラが翔琉に視線を落とす。そして誓う。


 今度こそ守ってみせると。




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