03 ナグナス



「トスマ、シュラ、リュカ、あのフードは何者だ」


 いつもと違う神経を尖らせ睨みをきかせた越時えつときわたるは眉間に皺を寄せる。


「親父?」

翔琉かける達の前では言えなかったが、ありゃ今まであったやつの中で一番危険だ。俺の本能が警告鳴らしてるんだよ」


 そして越時は睨むようにシュラ達を見渡す。


「それに、あのフードの男、お前ら知ってるだろ。答えろ!」


 ここまで真剣な越時を見たことがない亘は驚く。越時の危険を知らせる直感は100%当たる。これも一種の能力なのだろう。それほどあのフードの者が危険だということだ。


「ふう。越時にはやはり分かっておったか」

「当たり前だ。翔琉がフードのやつの特徴を言った瞬間、シュラの気が殺気だったからな。その後のトスマとリュカの態度もそうだ。ユウラは知らないみたいだが」


 越時の洞察力は天下一品だ。この能力のおかげで【きのえ】隊は何回も難を逃れている。


「説明してもらおうか」

「――」


 だがトスマ達は顔を見合わせ躊躇する。シュラに気を使っているようだ。するとシュラが嘆息しながら呟く。


「トスマ、話していいぞ。いずれ分かることだ」


 そう言ってシュラは顔を逸らした。

 シュラの表情から、本当は言いたくないのか、それとも思い出したくないのか、それは分からない。ただ良いことではないことは越時と亘は分かった。


「その通りじゃ。わしらはフードの男を知っている。まあ実際深く関わったのは翔琉とシュラのみだがのう」


「翔琉とシュラだと?」


「そうじゃ。もう1000年以上前になるかのう。あのフードの男、名前をナグナスと言う。そして越時の言う通り、もと天部の者だ」


「元天部だと?」


「うむ。ナグナスはありとあらゆる物に興味を示す者だったようじゃ。その興味が人間界を超え、地界――人間でいう魔界へと移った。そしてナグナスは魔界に魅了されていった。そしてあやつは魔界へと足を踏み入れたのだ。だが天界と魔界では次元が違う。魔界の者が天界に入れないのと同じで、天界の者は魔界に入れない。入った時点で消えて無くなるはずだった。だがナグナスはこの人間界に戻って来た。それも別人となってじゃ」


「別人?」


「そうじゃ。意識のみはナグナスの意識が生きているのだろうが、あれは別人じゃ。これはわしの仮説だが、たぶんナグナスは魔界へ行って1度消えた、人間で言うと死んだのじゃ。だが魔界への執着がすごかったのじゃろうな。その執着が今のあのナグナスを作り出した。それも天界と魔界の能力を持ってじゃ」


「天界と魔界の能力……」


「そうじゃ。そしてその同時期に時渡りの者が産まれた。それが翔琉の前世にあたる者――時春ときはるじゃ。ナグナスはその時春になぜかすごい執着を持ち殺そうとしてきた。それをシュラがずっと守っていた。だが時春は心が弱かった。堪えられなくなり自ら命を絶った」


「!」


 越時と亘は驚き目を見開く。


「そしてそれから200年後、また翔琉の前世でもある雅時まさときが産まれた。だがまたもや時春と同じく雅時もナグナスに命を狙われた」


「その時もシュラが?」


「そうじゃ。シュラが守護神じゃ。シュラは時春の二の前にならないように雅時を守った。雅時は時春ほど弱くなくシュラと同じく一緒に戦った。だが、流行の病にかかりあっけなく亡くなってしまった」


 シュラを見ると思い出しているのだろうか、いつもの元気はなく、ただ下を向いていた。


「それから200年後にまた翔琉の魂は時朗じろうとして生まれ変わった。シュラもまた時朗の守護神だった。やはりナグナスは時朗の命を狙った。ここまで来ればナグナスがなんらかの理由で翔琉の魂を狙っていることは明らかだった。だからその時一緒だったわしらはシュラに手を貸すことを提案した。だがシュラは断った。あの時のシュラは躍起になっていたんじゃろうな。自分一人でどうにかすると。まあ意地じゃな」


 シュラの顔が苦渋の顔に歪む。


「だがこの時はナグナスをあと少しのところまで追い込んだが、あと一歩で時朗は足を踏み外し転落死してしまい、ナグナスも逃げてしまった」


「なんか不運だな」


 亘が哀れむ。あまりにもタイミングが悪すぎる。

 するとそこまで黙っていたシュラが話の続きを話す。


「そしてその200年後、また翔琉の魂はこの世に産まれた。それが奏時そうじだ。奏時は今までの者よりも強かった。そして奏時と俺はナグナスを追い込み、最後の止めを刺すところまで来た時に、俺はナグナスの術にかかり意識を持っていかれた。その時に奏時は自分の命と引き換えに俺を助けた」


「!」




 シュラ……必ずナグナスを倒せ。泣くな……絶対に悔やむなよ……これは俺の願いだ……。俺からの最後の命令だ……。あいつを……ナグナスを倒せ。だから行けー! 俺の唯一の守護神シュラー!




 最後の奏時の顔と言葉が今でもきのうのように思い出される。


「そして、その時ナグナスにとどめを刺し、消し去ったはずだった。だがあいつは現れた」


 そこで亘がある最悪なシナリオを口にする。


「じゃあまた翔琉は……」


 それまで下を向いていたシュラが顔を上げた。そして一点を睨みながら言う。


「そうだ。また命を狙われる」




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