第2章 【Mission】平安時代、盗まれた木箱を取り返せ

01 いざ平安時代へ



「じゃあ行くぞ」


 最後に越時えつときが立った時が発動開始だった。


 曼荼羅魔法陣が光りだし、同時に上空から光りが降り注ぐ。その光こそが時を司る神からの力なのだと翔琉かけるは分かった。

 刹那、翔琉達の空間が一瞬にして星のない宇宙色に変わる。そして幾何学的な模様が現れ、曼荼羅魔法陣の外の風景が流れ星のように流れ始めた。


 ――あれ? 最初移動した時こんな風景なかったよな。気を失っていたからか?


 そして景色が変わり、森の中にいた。


「ついたのか?」


 ――ここが平安後期。


 感動していると、シュラ達守護神が翔琉達を抱き上げ木の上に一瞬にして飛び上がった。そしてユウラが何か結界のようなものを張る。感覚からして気配を消すような作用のようだ。


「どうしたんだ?」

「しっ! ターゲットだ」


 シュラが制する。すると右の方から4人が走ってくるのが見えた。そして翔琉達がいる木の下を通り抜け、左の方へと駆け抜けて行った。姿が見えなくなったのを確認すると、トスマが何かを飛ばした。


「あれは?」

「お前あれも見えるのか。トスマの式神みたいなものだ。普通は見えねえんだけどな」


 そこでシュラははっとする。


「そっかお前、天眼てんげん持ってたな」

「てんげん?」

「ああ。まあお前のはあらゆる見えない物を見通す力だな」

「なんだそれ。結局ただ見えるだけかよ。現代と変わらねえじゃねえか」


 ブスッと膨れる翔琉にシュラは苦笑し気になっていたことを尋ねる。


「なあ翔琉、お前が最初に時渡ときわたりした時、何かあったか?」


 翔琉が1人で時渡りをした時は、時を司る神から許可をもらっていなかったためシュラは翔琉の側にいることは出来なかった。そのため何があったか把握できていない。リュカの話では、翔琉の近くに雷が落ちた直後、姿が見えなくなったと聞いた。


「気付いた時には倒れていて、老夫婦に助けてもらっただけだぜ。その後すぐに亘が来たからな」

「倒れていた? 雷に打たれたんじゃねえのか?」

「いや違う。――ってか、雷に打たれたら普通死ぬだろう。目の前の木に落ちたんだよ。で、気付いたら過去で倒れていたんだ」


 ――倒れていたとはどういうことだ? 雷の力で時渡りをしたなら翔琉が意識を失うことはないはずだ。


 過去に行くのには3パターンある。

 1つはさっき翔琉達が使った、時を司る神の力と曼荼羅魔法陣を使って行くパターンと、勝手に過去に行ってしまった翔琉を助けるために亘が使った、自身の時渡りの力とスマホの曼荼羅魔法陣を使う方法。

 そして時渡り以外の者が過去へ行く1番多い手段で、雷のような巨大なエネルギーの力を使って行くパターンだ。


 雷が落ちたと聞いた時は、雷の力で移動したと思っていた。だが翔琉は気を失っていたと言った。だとすれば自分が持っている時渡りの力を使って過去へ行ったことになる。雷の力を使えば気を失うことはないのだ。そうなると疑問が残る。


 ――何故そうなった?


 時渡りの力を使う場合、曼荼羅魔法陣が必要だ。だが翔琉はそれを使わずに過去へ行ったのだ。だとすれば翔琉は、第三者の手によって過去へ飛ばされたことになる。


 ――そのため、時渡りの力を封印したまま過去へ飛んだ翔琉は気を失ったということか。


 そんなことが出来るのは1人しかいない。だがその理由が分からない。聞ける相手ではないのだ。


「くそ! 俺が見てない時に起こりやがったから分からねえじゃねえか」

「ん? シュラ達ってずっと俺らのとこにいるわけじゃねえのか?」

「お前が過去に飛んだ時は、まだ時を司る神から許しをもらう前だったからな。俺はお前の側には行けなかった。今は基本近くにいつもいるが、こっちも用事とかあるからな。その時は離れる。まあ付いて行くのはお前が出かける時だけだな。何するかわかんねえからなお前」

「なんだよそれ。ガキみたいな扱いじゃねえか」

「はっ! 俺から見たら18年しか生きてないお前はまだまだ尻が青いガキだ」

「うるせい!」


 翔琉は膨れながらふと視線を他の者達に向けると、皆同じように木の上から様子を眺めているが、昇だけ口を塞がれがんじがらめにされていた。昇のことだ。どうせ木の上に飛び上がった時に大声を出しそうになったのだろう。


「あいつ、こういう仕事向いてないんじゃないか?」

「はは。そうだな」


 シュラも苦笑しながら頷く。


「よし降りるぞ」


 シュラは翔琉の腰を抱き飛び降りる。他の者もみな木から下りた。そこでやっと昇はユウラから解放されてその場に座り込む。


「昇、ああいう時は声を出してはいけません」


 ユウラが腰に手を当てながら注意する。


「ご、ごめん。びっくりして。それにあんな高い所に一瞬で飛び上がるから」

「見つかるかとハラハラしましたよ」


 ユウラは昇の腕をひっぱり立ち上がらせる。そこで翔琉はシュラ達守護神が普通にいることに気付く。


「なあ、シュラ達見えてるよな」

「過去では俺らは実体化している。だから他のやつらも俺らのことは見えているんだよ」

「えええ! こんなどう見ても変な格好のこいつら、ただの怪しいやつらじゃねえか! いて!」


 翔琉の頭にシュラがは「うるさい」とげんこつを落とす。


「誰がこいつらだ。他のやつらにこのままの格好見せるわけねえだろ。一般のやつらにはお前らと一緒のとても真面目な僧侶に見えるようにしてあるに決まってるじゃねえか」

「え? そうなのか? ってか誰が真面目な僧侶だよ。トスマやリュカ、ユウラはともかく、シュラはどうみても違うだろ。嘘つくな」

「なんで俺だけ嘘になるんだ。ユウラも僧侶には見えねえだろ!」


 そう言いながらシュラは翔琉にヘッドロックをかける。翔琉より頭1つ高いシュラには簡単だ。


「いてーいてー! 入ってるって! ギブギブ!」


 翔琉が痛がるのをシュラは勝ったと笑い離した。ユウラだけはとばっちりを受けムッとしていたが気づかないふりをする。


「しかし、ターゲットは1人じゃなかったな。まさか3人だとはな」


 越時は腕を組みながら嘆息する。そこで翔琉が眉間に皺を寄せる。


「3人? 4人だろ?」

「え?」


 皆驚いた顔を翔琉に向けた。


「4人だと?」


「ああ。4人だったぜ。一番後ろを走っていたやつはフードをかぶってたから顔は見えなかったが人間じゃなかった。シュラ達は見えてるだろ?」


「いや。俺らにも見えてない」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る