10 今回の依頼書



「歴史的に重要人物ということか?」


 だがわたるは腑に落ちない。歴史的重要人物の場合、詳しく書かれているのが普通だ。だがターゲットの兼也かねなりという少年の詳しい情報が出身地と年齢のみで他は書かれていないのだ。


「なんで情報が書かれていないんだ?」


 するとそれまで黙って成り行きを聞いていた祖父の常時つねときが何かを思い出すように話す。


「昔一度だけ同じような案件を受けたことがある」


 皆、常時を見る。


「本当か? 親父」

「ああ。その時はわしらが大きく関わることで、今この時代がある内容だった。だとすれば、わしらが関与することに大きな意味を成すということなのだろう」

「確かにあり得るな。俺らに先に情報が降りていれば、知らずに俺らはそのようになるように動いてしまうからな」


 人間はそう思っていなくても、知らずに自分が良いと思う方向に動いてしまうものだ。翔琉は時を司る神に言われたことを思い出す。


『人間の是非善悪の解釈で過去を変えてはいけない』


 これはこのことを言うのだろう。


「まあこの考えが正しいだろうな。だがレベル3というのが気になる」


 越時えつときは納得がいかないとモニターの依頼書を睨む。

 依頼書の必ずやる条件の場所には、ただ木箱を取り戻し本人に手渡しで渡す。そして記憶は消すなという指示の二点のみ。だがその後の言葉がひっかかった。


「まず記憶を消さないということは、俺達が大きく関わる案件だということだ。そして最後に書いてある『失敗は許されない。気を引き締めるように』と書かれていることから、何か危険を伴う出来事があるということからレベル3なのだろう」

「…………」


 慣れている亘も未桜みおも気を引き締める。越時は口には出さないが、危険を伴うかもしれないということだ。


「今回のは、重いなー……」


 亘はぼそっとぼやく。新人1人を連れて行くだけでも大変なのに、難易度の高いレベル3の危険な依頼なのだ。


『亘、珍しく尻込み気味じゃないか』

「リュカ、俺をなんだと思ってるの? 普通そうなるでしょ」


ため息交じりに言い返すと、ふっと笑う気配があった。


『確かに今回は不利そうだが――』

「?」

『まあ大丈夫だろう。シュラと翔琉がいる』

「どういう意味? シュラは分かるが翔琉がなんかあるの?」


 だがそれにはリュカが応えることはなかった。


「自分で見て確認しろってやつね。ほんと俺の守護神は厳しいねー」

『分かってるなら文句は言うな』

「はいはい」


 亘は肩を窄めた。


「じゃあ分かっている範囲で作戦の内容を言うぞ」


 越時が言うと、香里奈が皆に紙をわたす。


「翔琉に説明する。いま渡した紙にはそれぞれやることが書いてある。自分のすることは無論、他の者の仕事や全体の流れをちゃんと頭にたたき込んでおけよ」

「この作戦って誰が考えているんだ?」


 翔琉は紙を見ながら質問する。


「これも惠流と香里奈の2人だ」


 すると惠流が照れながら言う。


「いつもはもっと精密な計画が練ってあるんだけど、今回は翔琉君の能力とシュラの実力が分からないからね、大雑把な計画になっているんだ。悪いね」


 惠流はそう言うが、結構な計画だと感心する。時間や行動を計算しなくては出ないものが多い。これを短時間で出来る惠流と香里奈はある意味すごい才能だ。先ほどの逃げ道もだが、越時が2人がいなければ【きのえ】隊は機能しないというのはお世辞ではなく本当のことなのだと改めて感じた。


 一通りの説明を聞き、その後は細かい行動のチェックをし会議は終わった。

 越時は準備があると言って奥の部屋へと入って行った。残された翔琉達は渡された紙にもう一度目を通す。翔琉は初めてのため昇と見張り役に徹することになっていた。重要な事は越時と亘が担当し、未桜は後方支援だ。


「なんで昇は見張りなんだ?」

「僕はみんなの姿を消したり、防御壁を作ったりと後方支援が専門だからね」

『それにまだ経験が浅いからですね』


 ユウラが付け加えると、昇は慌てる。


「ユウラ、余計なこと言わなくていいって」

「なんで浅いんだ?」


 昇は翔琉より1つ上だ。ならもう1年この仕事をやっていることになるのだ。


「僕はまだ1ヶ月前から始めたばっかりなんだ……」


 翔琉から目をそらし自信がなさそうに言う姿に、そう言えば昇は気が小さく怖がりで、いじめられっ子の象徴のようなやつだったなと翔琉は思い出す。


「どうせ怖がり過ぎてずっと拒否ってったんだろ?」

「なんでわかったの!」


 昇は驚き顔をあげて翔琉を見る。翔琉はやっぱりと顔を引きつけながら笑う。


「図星かよ。いい加減その性格どうにかしたほうがいいぞ」

「こればっかりはね……」


 昇はふっと笑い下を向く。どうにかしろとは言ったが、性格はそう簡単に変えれるものではないことは翔琉でもわかっている。


「確かにすぐは変われねえよな。特に昇は」

「え?」

「まあ2人でゆっくり頑張ろうぜ」

「翔琉……」


 ぱっと明るくなった昇を見て、現金なやつだなと笑う。

 そして翔琉は未桜を見る。

 

「なあ未桜。ここに書いてある未桜の役割の消去って?」

「それ私の能力。記憶を消すというより時間を戻すと言ったほうがいいかな。あと短時間だけど眠らせたりもできるわ」

「時渡りって過去に行ける能力だけじゃないんだな」


『時渡りは、時を渡ることによって能力を発揮するすべてのことを指すのですよ』


 翔琉の疑問に答えたサラへと翔琉は視線を向ける。


「そうなんだ」

『ええ』

「じゃあ、この予測って言うのは?」


 昇が未桜の役割の最後の1つを指を指して尋ねる。


「先読みの力よ。でも私が分かるのはほんの数分前。だからあまり戦力にならないわ」

「やっぱりその力も過去のみなのか?」

「どうだろう……」  

「俺はどんな能力が使えるんだろうな」


 翔琉は周りを見渡し、ある場所に話しかける。


「なあ、シュラは俺の能力って分かるのか?」


『まあある程度はな。今回新たに与えられる能力は分からないな。そればかりは過去に行って自分で――』


 そこでシュラは目を見開き言葉を止める。


「どうしたんだよシュラ。そんなに驚いた顔して」


 翔琉は首をかしげる。その言葉に亘も眉を潜め翔琉を見る。


『翔琉、お前今俺が見えているのか?』


「!」


 そこにいた者全員驚き翔琉に視線を向けた。



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