09 時渡りの仕組み
「じゃあここからが本題だ。仕事の説明するぞ」
あまり時間を割きたくなかったのだろう。そのタイミングで越時が話を進める。
「今回行く時代は平安時代後期。場所は今でいう奈良県。今回のターゲットは
このような不法トラベラーが何かを盗んで現代に持ち帰る案件が一番多い。
時渡りはその不法トラベラーを捕まえて、盗まれた物を元の場所に気付かれないように戻し、過去の者の記憶を消すのが仕事だ。レベルも一番下の1レベルの依頼に当てはまる。
「それって不法トラベラーが現れる時間にその場に行き捕まえるってことか?」
翔琉の質問に亘が違うと首を横に振り説明する。
「よく漫画やファンタジーの物語ではそのように表現しているが、実際は同じ時間に行くことは時空に歪みが生じるため出来なくなっている。同じ時間に行くと、歪みが大きくなり、その後の出来事に大きな時間のずれが生じるからな」
だから時間をある程度ずらせば行けるということだ。
「じゃあそいつが来る前にその場で待ち伏せをしておけばいいってことだよな」
そうすれば、不法トラベラーが現れたら捕まえればいいだけの話だ。
「それは出来ないんだなこれが」
「え?」
なぜと翔琉は首を傾げる。すると越時が変わって説明した。
「まず翔琉に俺達、
翔琉は応える。
「現代に戻って来れなくなる……」
「そういうことだ。だから俺ら時渡りの者は、3日で仕事を終わらせるように計画をしている。そして時を司る神の許可をもらっている俺ら時渡りの者を守るために、時を司る神の許可をもらっていない者が行こうとしても俺らが時渡りをした過去の日から後3日間は行けないようになっている。だから俺らが先周りして犯行現場を押さえて捕まえることも出来ないようになっているってことだ」
「じゃあそいつらが過去へ行った3日後にしか行くことが出来ないってことか?」
「いや。俺らは時を司る神から許しをもらっているため、そいつらが行った5分後には行ける。だから俺らはその出来事が起きた後に行くのが基本だ。そして今回の不法トラベラーはプロの窃盗団『ブラックカイト』のトラベラーだ」
「ブラックカイト?」
「骨董品などを過去へ行き盗み、現代で闇オークションでコレクターに売買をすることを生業にしている組織だ。俺らほどではないが、時渡りの力を持っている集団だ」
「え? 生業? でも俺ら時渡りが取り締まってるから持って帰れないんじゃないのか?」
「俺らも人間だ。たまに失敗することもあるんだよ。そうなると、オークションに出店された後に回収となるんだ。まあそれは俺らの仕事じゃなくて警察の仕事だけどな」
そこで疑問が沸く。
「なあ、時を司る神様から許可をもらっていないやつらが意図的に時渡りできるのか?」
「時渡りの力があり条件が揃えば時渡りは出来る」
「条件?」
「ああ。雷のような瞬時の膨大な力があればできる」
そう言えば自分も最初、雷の力で過去に行ったなと思い出す。
「話を戻すぞ。今回相手がプロの『ブラックカイト』ということで、俺らのことも知っているため用心しなくてはならない」
そこでまた新たに疑問が沸く。
「プロなら窃盗を犯してすぐ現代に逃げてしまえば、捕まえることは出来ないんじゃないか?」
「それは大丈夫だ。最初に言ったが、同じ時間帯に時渡りをすると時間の歪みが生じる。時間の歪みが生じる時間は約3時間。その間、時間の流れが不安定になり時を司る神から許しをもらっていない不法トラベラーは現代に戻ることが出来ないんだ。その法則を逆手に取り、俺達は犯行が起こる時間の5分後に行く」
「もし、犯行して5分経たずにそいつら帰ったらどうするんだ? 俺らが行った時にはいなくなってるってこともあるんじゃねえのか?」
「それはない。過去へ飛んだ者、俺ら時渡りを含めてすべての者は10分縛りがある。過去に行っても10分は帰れないんだ。だからその心配はないんだよ。時を司る神が管轄している世界だからな。俺ら時渡りに有利な条件になっているってわけだ」
「じゃあそいつらは盗んだ後最低でも3時間はそこで足止めってことか?」
「そういうことだ。だが『ブラックカイト』のようなプロの盗賊犯は、俺ら時渡りの者が来ることを想定して逃げ道も確保している。だから俺ら時渡りは、そいつらが逃げるルートを計算しその場所に時渡りするのが通常だ」
そうなれば逃げてもすぐに捕まえることが出来るということだ。
「犯行現場には時渡りをしないんだな」
その方がすぐ捕まえれるじゃないかと思ってしまう。
すると亘があほかと横でぼやく。
「考えてみろ。通り魔とか、かばん盗んでその場に留まるやついるか? 普通捕まらないためにすぐ逃げるだろ?」
「あ、そうか。そうだよな」
翔琉は笑う。
「じゃあそいつら『ブラックカイト』のやつらも過去に滞在できる時間は同じ3日なのか?」
「基本時渡りの力がある者はすべてそうだ。時渡りの力を知っている者はいいが、まったく知らずに時渡りをしてしまった者は知らずにずっとその場にいてしまう。そういう者を3日以内に元の時代に連れ帰る仕事も俺らの仕事なんだ。ここまでの説明はいいかな」
「なんとなく分かった」
翔琉は頷く。
「じゃあ本題に戻すぞ。今回の依頼は少しいつもと違ってな。ちょっと面倒なんだよな」
そう言って越時は依頼内容が書かれた資料をモニターに映し出す。その資料のランクを見て亘が眉根を寄せる。
「レベル3?」
レベル3と言えば、命の危険を伴う仕事ということだ。それを知っている未桜も眉間に皺を寄せる。
「なんで窃盗団を捕まえるだけでレベル3なの?」
窃盗犯を捕まえるだけならば普通はレベル1だ。『ブラックカイト』が相手だとしてもせいぜいレベル2が妥当だ。まずレベル3はあり得ない。
ということは――。
「歴史的に重要人物ということか?」
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