06 守護神シュラ



『守護神はお前を守護してくれる。私の力は必ずやお前の役に立つであろう。正しく使え。見誤るな』


 そして同時に周りの風景が神社に戻った。

 何が起きたのか整理しきれないでいる翔琉かける越時えつときが声をかける。


「戻ったか」

「おっちゃん、今のって……」

「時を司る神に会えたんだな」

「ああ」

「すげえだろう? あの何とも言えない感動は」

「ああ。すげえ懐かしい感じと満たされた感じだ」


 ずっと待っていた人にやっと会えた時の歓喜に満ちた思いを噛みしめる思いだ。時渡りの者は皆そう感じるのだろう。


「じゃあまた下へ行くぞ。無事終わったことを報告しんとな」



 地下室へと行くと祖父達が待っていた。


「終わったか」

「ああ」

「では翔琉に仲間を紹介しよう。まず越時えつときわたる親子、昇は分かっておるな。そしてこの眼鏡の者は、わしの姉の孫の惠流めぐるじゃ。会うのは初めてか?」

「たぶん」

「そうだね。初めまして松田惠流です。ここで事務的なことをしています」


 確かにどことなく祖父に似ている気がする。違うのはとても白皙で真面目そうな印象なところだ。


「そしてこちらが香里奈さんじゃ」


 そして背が高くスレンダーで髪を後ろに1つにまとめ、とても清楚な感じの女性だ。


「初めまして。須藤香里奈です。事務担当をしてます。よろしくね」


 越時が補足する。


「香里奈は、俺らと同じく時渡りの仕事に携わっている家系だ。主に時を司る神からの言葉を下ろすのが仕事だ」

「すげえ」


 香里奈が恐縮して笑う。


「時を司る神様から直接言葉をいただくわけではないわ。私の守護神、摩利支天まりしてんのマーリーからの指示と自分が受け取った情報を照らし合わせているだけよ」

「俺らの仕事は香里奈と惠流がいないと成り立たない仕事だ」


 すると香里奈が照れながら言う。


「越時さん、大袈裟ですよ。惠流さんはわかりますが、私はぜんぜんですわ」

「え? 僕は全然ですよ」


 惠流も手をパタパタ横に振りながら否定する。そんな2人に越時は嘆息する。


「お前らもっと自信持て。香里奈がいなければ、年代も場所も状況も分からないし、惠流がいなければ、計画がたてれねえ。2人とも必要不可欠なんだよ」

「ですが、それが分かっても私達ではどうしようも出来ませんわ。時渡りができる皆さんがいなければ解決出来ないのですから」


 すると翔琉が言う。


「お互い必要ってことだな」

「まあそういうことだな」

「そうですね」

「はい」


 越時達は皆笑顔で頷き返した。

 そして祖父、常時つねときが話を続ける。


「そしてこっちが、飛鳥川未桜あすかがわみお。学年はお前より1つ上だ。時任ときとう家とは昔からのパートナーの家系の時渡りじゃ」

飛鳥川未桜あすかがわみおです。よろしく。3月生まれだから、西暦は一緒ね」

「お! 俺4月生まれだから変わらねえな」


 するとまた越時が話す。


「自己紹介はそんなところだ。翔琉、あと説明しておくことがある。時を司る神から許しをもらった時渡りの者には、時渡りをした時のみ使える能力と守護神が戻される。最後に神からもらっただろ?」

「最後? ああ、なんかくれたな」

「それは時渡りをした時に自分の命を守るための能力だ」

「能力?」

「ああ。その力は神から借りている力だ。人それぞれ能力が違う。そのうち分かるだろう。まあ守護神が守ってくれるから危険はあまりないがな」

「そう言えば時を司る神も守護神がどうとか言ってたな」

「木札をもらっただろ」

「ああ。でも手の中に消えたぜ」

「目を瞑り木札を思い浮かべてみろ」


 翔琉は言われた通り目を閉じ思い浮かべる。すると木札が出てきた。


「なんて書いてある?」

「え?」


 よく見ると文字が書いてある。種子真言しゅじしんごんのようだ。


「これ種子しゅじだろ? 読めないんだが」


 すると頭の中で声がした。


『シュラと呼べ』

「え? なんか声がしたぞ」


 翔琉が驚いていると越時が言う。


「それがお前の守護神の名前だ。呼んでみろ」


 意味が分からないが翔琉は言われた通り呼んでみる。


「シュラ」


 すると目の前に風が舞い上がり、1人の背の高い青年が現れた。だが普通の格好ではない。変わった格好をしている。上半身は軽い格好だが甲冑を着け、下はアラビアンパンツのようなものをはいていて足は裸足で変わったサンダルだ。顔を見れば、髪は明るい赤茶色で目も赤く切れ長の美男子系だ。耳にはピアス、勾玉の首飾り、手には金のブレスレットをつけていた。


「なっ!」


 翔琉はあまりの驚きに一歩後ずさりする。


「だ、だれだ? このチャラいやつは!」


 すると青年は大袈裟にため息をつき肩を窄める。


「相変わらずお前は最初の言葉は毎回一緒だな」

「は?」

「お前の守護神のシュラだ。お前達人間で言うと多聞天たもんてんという名になるか」


 腰に手をあて、片方の口角をあげて、さも嬉しそうに笑った。


「多聞天! 待て! どういうことだ? ここ神社だぞ? 多聞天って仏教だよな?」

「はは。また俺と同じ反応」


 亘が横で笑っている。他の者も全員心当たりがあるようで同じく苦笑いをしている。するとシュラが頭をかきながら説明する。


「仏に分類したのはお前ら人間だ。俺らはその分類には当てはまらない。それに神社は関係ない」

「え? 神社は関係ない?」

「ああ。俺はお前自身に付いている守護神だ」

「守護霊とかと同じか?」

「まあ次元がまったく違うけどな。守ると言えば一緒だが、お前達の守護霊は黄泉の国から来て行動には色々制限があるが、俺らにはほとんど制限がない。お前の頭では理解不能だろうな。まあ気にするな。俺は俺だ」


 そう言ってシュラは笑いながら翔琉の背中をパンパン叩く。


「なんか俺が思う守護神とイメージがまったく違うんだけど……」


 どう見てもその辺にいるチャラい兄ちゃんだ。


「お! お前の思うイメージってなんだよ。言ってみろ」


 シュラはさも楽しそうに片方の口角を上げて翔琉を覗き込む。翔琉はそんなシュラを見る。やはりどう見てもその辺にいるチャラい兄ちゃんだ。


多聞天たもんてんの像ってもっと威厳がある怖いイメージじゃんか。ぜんぜん正反対なんだけど」

「あれはお前ら人間が勝手にイメージして作った像だからな」

「ああ。そうか。こんなチャラい男が神様だったら誰も信用しないし威厳が保てないもんな」

「翔琉。お前さっきから俺を馬鹿にしてるだろ」

「事実を述べたまでだ」

「言ってくれるねー」


 笑いながら翔琉の肩を抱き翔琉の顔を覗き込むシュラの顔はやはり男の翔琉が見ても良い顔をしている。だがこのチャラさが色々な良さを下げている気がしてならない。そしてこの横柄な態度はどうにかならないか。


「ほんとに神か? 威厳がまったくないんだが」


 目を細めて言う翔琉にシュラは豪快に笑う。


「あはは。まあ否定はしねえ。だがこれが俺だ」


 思ったより素直だ。そこは神の部類だからか。


「だがこう見えて4人の中じゃ一番強いぜ」


 そこで翔琉は眉を潜める。


「4人?」


 すると亘、越時、昇の横に風が舞い上がり、3人の男性が現れた。



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