07 守護神の天部達



「4人?」


 すると亘、越時、昇の横に風が舞い上がり、3人の男性が現れた。


「相変わらず減らず口じゃのう」


 そう言ったのは見た目は祖父の年齢ぐらいの老人の男性。越時えつときの守護神、増長天ぞうちょうてんのトスマだ。


「本当に。そろそろ落ち着いたらどうだ」


 物静かな面持ちの少しきつめの顔のシュラと同じぐらいの年齢に見える男性は、わたるの守護神、持国天じこくてんのリュカだ。


「ほんと、もう少し静かにしてほしいですね」


 背が低く見た目は子供の姿の少年は、昇の守護神、広目天のユウラだ。

 皆、それぞれシュラに文句を言いながら、翔琉に自己紹介をした。


「今度の多聞天たもんてんはやはりシュラですか。にぎやかになりますわね」


 そう言って未桜みおの横に現れたのは超美人な優しそうな女性だ。見た目は天女そのものだ。明らかに四天王ではないのは分かる。


「あのー、あなたは?」

「私? サラと申します。よろしくお願いしますわ。あなた達の天部の名前で言うと弁財天べんざいてんですわね」


 弁財天べんざいてんは四天王と同じく天部だ。すると未桜が説明する。


「弁財天は私の飛鳥川あすかがわ家の守護神よ」

「四天王じゃないのか」

「四天王は時任ときとう家の守護神だ。それぞれ時渡りの家系にはそれぞれの守護神が付いている。俺達時任家のように男性に能力が現れる家系は男性系の守護神が、未桜の飛鳥川家のように女性に能力が現れる家系には女性系の守護神が付いていることが多い」


 そう答えたのは越時だ。


「じゃあさっきサラさんが言っていた今度の多聞天っていうのは? 多聞天って何人もいるのか?」

「簡単に言えば、日本人とアメリカ人みたいなもんだな」


 応えたシュラにリュカが嘆息し指摘する。


「シュラ、その言い方は誤解を招く。我らにつけられている増長天ぞうりょうてん持国天じこくてん広目天こうもくてん多聞天たもんてんの四天王の名は、大昔の人間が我ら天部のその頃の者の姿を見た時につけた名称だ。だからその名前に見合った天部の者があえて四天王になっているだけだ」

「それって四天王は役者の名前で、その役をシュラ達がやっているって感じか?」

「お! 翔琉いいこと言うじゃねえか。そうそう、そんな感じだ」


 シュラが笑顔で言うと、リュカが不本意だと言いたげな顔を向けるが、


「あながち間違っていないな」


 と肯首する。それを聞いたシュラは勝ったとリュカへと自慢げな笑顔を見せる。


ってことはシュラの前の多聞天っていうのは?」


 翔琉の疑問に応えたのは祖父の常時つねときだ。


「わしの守護神の多聞天だ」


 すると常時つねときの隣りに風が起こり男性が現れた。


常時つねときを守護しているバナラと言う。よろしく翔琉」


 髭を生やした壮年で、とても落ち着いた雰囲気の低い声のバナラに翔琉はシュラと見比べる。


「ほんとシュラと正反対な感じだな。威厳がある」


 それに対しシュラは「否定はしない」とまた笑った。そこで翔琉はあることに疑問を持つ。他の4人はこの場にいる感じなのだが、常時のバナラは違うのだ。


「なんでじいちゃんのバナラだけ遠い感じなんだ?」


 するとそこにいた守護神達は驚く。


 ――ほう、分かるのか。

 ――へえ。やるね。

 ――そこまで分かるんだ。


 守護神達は目を見開き感心する。普通、人間には分からないのだ。

 何か意味ありげに見てくる四天王に翔琉は目を眇める。


「なんだよ。何か変なこと言ったか?」

「いや。よく分かったなと思っただけだ」


 そう応えたのはシュラだ。そしてバナラ本人が説明する。


常時つねときの時渡りの力が弱まったためだ。時渡りの力は年とともに衰える。それと同時に俺達四天王との繋がりも薄くなるのだ」

「だからわしは時渡りの仕事はお前達に任せ、この神社の神主の仕事一本にするんじゃよ。念願の隠居生活じゃ」


 なぜか胸を張って言う常時つねときに越時が否定する。


「まあそれは無理だな。まだまだ親父のやることはたくさんある」

「そうだな。まだ常時つねときしか出来ないことがあるからな」


 バナラも頷き笑う。


常時つねときの仕事は反対に増えるだけじゃな」


 トスマがかかかと笑うと祖父は肩を落とす。


「なんじゃ。まだまだ隠居生活は遠そうだのう」

「早く隠居生活をしたいなら越時が出来るように教えるんじゃな」

「トスマ。余計なことを言うんじゃない。俺はまだ遠慮する」


 越時は本気で嫌がり反論するのでトスマは大笑いする。


「だそうじゃ常時つねとき。残念じゃったな」


 トスマの言葉に四天王達も笑った。


「じゃあ私は戻る」


 バナラはその場から忽然と消えた。


「はや」


 翔琉が声を上げると、シュラが今までと違う落ち着いた声音で言う。


「バナラは長い時間こちらの世界にいることが出来ない。あまりいると常時つねときの体に負担をかけてしまうからな。それを懸念したのだろう」

「そうなんだ」


 そこで翔琉は四天王はやはりとても優しく慈悲深い神なのだと改めて思うのだった。


「じゃあわしらも戻るぞ」

「ああ。ありがとさん」


 祖父がお礼を言うと四天王はその場から消えた。


「あれ? 帰ったのか?」

「ああ。基本現代では四天王達は姿を現さない。今は翔琉に挨拶するために出てきてくれただけじゃ」


 そういうものなのかと翔琉は思っていると、越時が言う。


「じゃあ挨拶も終わったところで仕事だ」

「え? 今から?」

「ああ。そうだ。けっこうこの仕事は忙しいんだよ。香里奈」


 香里奈がいつの間にか両手にたとう紙を持っていた。


「翔琉君、これに着替えてもらいます」


 渡されたのは上下同じ色の神職用着物と袴だ。


「翔琉君は、この藍色ね」


 渡された着物を受け取る。


「時渡りをする時は基本着物を着てもらう。どの時代も神職の衣装は変わらんからな。それに神職や僧侶というだけでけっこう融通が利くんだ」


 昔から神社やお寺は一目置かれ、悪い者はいないという人間の心理が働くみたいだ。


「じゃあ奥の部屋で着替えたらここにまた集合」



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