05 時を司る神
「ああ。俺についてこい」
越時は翔琉を連れて1階の本殿の御神体の前へと行く。
「翔琉はここに座っていればいい」
「何をするんだ?」
「すぐ分かる。別に怖がることはないから、そう警戒するな」
笑顔で言うと越時は翔琉の横に座った。
「始めるぞ」
越時はいつものようにかしわを2回たたく。 そして両手で複雑な印を結び、神を呼ぶ
「宇宙に神留まり坐す時を司る神よ。この時任家の命を以てここにおります翔琉の封印解除をしたまへとかしこみかしこみ
翔琉は一抹の不安を感じながら目の前のご神体の鏡を見る。すると、一瞬光った気がした瞬間、翔琉の周りの風景が一変し真っ白の空間になった。
何が起こったか分からずにいると、目の前に巨大な存在がいるのが分かった。姿は全く見えない。だがそこに神々しい恐れ多いと言うのが一番しっくりくるだろう存在がいた。すぐにそれが時を司る神だと翔琉は分かった。いつもこの神社で
翔琉はなんとも言えない感覚に全身が包まれる。
なんて温かい気なのだろう。
なんて優しい気なのだろう。
そして懐かしいのだろう。
自然と涙が一筋流れた。翔琉が初めて神という存在を目の当たりにした瞬間だった。
感動に浸っていると、翔琉の頭の中に直にある光景と言葉が入っていた。
『今ひとつ問う。お前の目の前で起きている。お前ならどうする?』
そこに映し出されたのは、2つの映像だった。
1つは現代の子供が誘拐されそうになる。もう1つは子供が川に流される光景だった。
翔琉は考えるがすぐに答えは出ていた。
――目の前に困っている人がいたなら助けるのが当たり前じゃねえか。
「俺は両方助ける」
『それでよい。ではもう一度問う』
また翔琉の脳裏に映像が映し出された。
1つは時代が古い高貴な子供がどこかに連れさられそうになる。もう1つも時代が古い子で、母親に川へ落とされ流されそうになる光景だ。だが先ほどと違うのは、最初の子は、その後成長し、徳川家康になる子だ。そしてもう1人は、成長してから人を何人も騙したり殺したりする悪党になったという者だった。
『この場合ならどうする? 両方助けるか? それともどちらかを助けるか?』
「……え」
翔琉は躊躇する。助けることによって大きく過去が変わってしまうものだ。初めの子は徳川家康だ。なら助けなければならない人物だ。後の子は大人にならなければ何人も犠牲にならないわけだ。それならば助けないほうがいいのではないか。じゃあ最初の子だけを助けるのか。まだ悪党になっていない普通の子供を見て見ぬ振りをして見捨て殺すのか。
――そんなのなんか後味悪いじゃねえか。
迷っていると、時を司る神がもう一度問う。
『お前ならどうする?』
翔琉はどうしても答えを出すことが出来なかった。だから素直に今の気持ちを伝えた。
「両方助けても片方を助けても後味が悪いのは変わらない。どれが正しいのか俺には分からない」
『真っ当な人間として正しい答えだ』
「え?」
『なぜ最初の質問は答えがすぐ出て、2回目は答えが出なかったのか。それはその後のことが分かっているからだ。人間は是非善悪で物事を考える。そこに損得も入ってくる。だから答えが出ない。動けなくなるのだ』
――確かに俺はその後を知っていたから色々考えてしまったんだ。
『初めに見せたものは現代のお前の今生きている時間の出来事である。そして次に見せたものが過去に起きた出来事である。この2つは同じのようでまったく同じではない。初めに見せた者はお前が今生きている時間での出来事であるため、決まっている定め以外は何をしても正しい。お前が助けないという答えを出したとしてもそれが後の計画してきた人生に影響がない場合は何をしてもいいのだ』
「!」
『だが後の出来事は過去で起きたことだ。過去に起きたことはどんな理由があろうと現代に生きる時渡りのお前が絶対に手を出してはいけない出来事だ』
「絶対に……」
『そうだ。最初の出来事、徳川家康が人質にとられたことで、のちに織田信長と出会うのだ。その出来事がなければ織田信長と出会うことはなかったことになってしまい、時代が変わってしまう』
「!」
『そしてもう1つの者は、川に流されたことによって他の村人に助けられ虐待する母親から解放される。だが成長して一時期悪党になったが、その後その者は人生を見直し僧侶となり、悟りを開き、寺を建て、全国を旅をし、貧しい者に仏教を広めて周り、疫病も止め大勢の者を救い有名な僧侶になっておる』
「!」
『もしお前が徳川家康を助けたのなら、織田信長と会うことはなく今の時代はない。もし溺れた子供を助けたのであれば母親の元に帰され、また暴力を振るわれ命を落とし僧侶になることはなく、救われるはずだった命も多く失われ、時代も大きく変わる』
確かにそうだ。もし助けていたらと思うとゾッとする。
『なぜ過去の出来事に干渉してはいけないか理解できたか?』
「はい」
『人間は一部の情報だけで判断し行動してしまう生き物であるから仕方ないことだ』
時を司る神は翔琉に映像を見せながら説明する。
『人間は色々な経験をするためにこの世に産まれてくる。
「必要不可欠なもの……」
『そうだ。ほんの一瞬の一部の情報で、人間の是非善悪の解釈で過去に干渉してはならぬ。それがお前達がいる世界にだけある時間という流れの道理。もし干渉すればこの世界の均衡が崩れ、いずれこの世界は失われるであろう』
「失われるとは、この世界がなくなるということですか?」
『そうだ』
「……」
神は嘘をつかない。だから翔琉は恐怖を覚える。これはれっきとした事実。
『そう案ずることではない。そうならないがために、太古の昔からお前達時渡りの者がおり、私がいるのだ』
だがそれは絶対に起こらないという確証はない。その翔琉の思いを読み取った神は言う。
『人間とは余計な心配をする生き物であるな。なぜ私の言うことを信用できない』
「出来るわけないじゃないですか。そんなものは絶対じゃないんだ。もしかしたら見落とすことだってあるかもしれないし……」
すると時を司る神は何を言い出すのかという感じで言う。
『見落とすことはない。見落としがあるのは人間だけだ』
「あっ!」
そこで確かにそうだと翔琉は気付く。相手は神なのだ。そんなヘマをするわけがない。
『理解できたか?』
「なんとなくですけど。現在はわかるけど、未来はいいってことっすか?」
『さきほど説明を受けたであろう』
時を司る神はやはりすべてお見通しのようだ。そこで疑問を聞いてみる。
「時を司る神様は、未来も見えているのですか?」
『すべて見えている。だが基本未来はお前達が作っていくものだ。その行動がお前達のいる世界を良いようにも悪いようにも変える』
それは良い未来にするのは人間次第ということだ。やはり二択ということだ。
『このことを肝に銘じて過ごせ』
「はい」
『お前はこの瞬間から時渡りの力の使用を許可をする。そして私の力の一部とお前の守護神を戻す』
突然目の前に木札と光の玉が現れる。手を出すと木札が勝手に手に収まり消え、そして光は翔琉の胸へと消えた。
『守護神はお前を守護してくれる。私の力は必ずやお前の役に立つであろう。正しく使え。見誤るな』
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