04 時渡りの仕事



「調整?」

「ああ。時渡ときわたりを許されている者と、国が仕事として移動する者以外が過去へと勝手に移動すれば、過去や未来を変えてしまう可能性がある。過去を変えれば未来も変わってしまう。それは今いるこの時代が変わってしまうということだ。それはあってはいけない。だからそれをさせないよう取り締まり、そして調整するが俺らの仕事だ」


 そこで翔琉はあることを思う。


「もしかして織田信長が殺されないようにしたりも俺らなら出来るということか?」


「ああ。出来る」


「すげえな。何でもやりたい放題に出来るんだ」


「まあ最初に聞いたやつは皆そう思うことだが、そう単純なもんじゃない。その時あの犯人を止めれば、あの時あの者を助ければ、今の時代はもっと良くなっているのではないかと思うかもしれんが、それは大きな間違いだ。あの時あの悲惨な出来事が起きたから今の法律が成立した。あの時あの者が殺されたから今この時代があるということも忘れてはいけない。今この生活があるのは、過去の色々な者達の犠牲と出来事が複雑に絡み合って出来た現代だ。もし安易に過去を変えてしまったら色々な出来事が変わってしまい、均衡が崩れ、最悪な場合この今の時代がなくなってしまう。だから勝手に過去には干渉してはいけねえんだ」


「でもよく言うじゃないか。もしあの時ああしておけば今はもっとよい時代になっていたんじゃねえかって。なら良いことは変えたほうがいいんじゃねえのか?」


「人間ならそう思うのが普通だ。だがそれは今この現在に生きる一部しか見えていない人間の考え方だ。だがこの世界は現在過去未来を知った神が作った世界だ。基本大まかな未来は決まっている。悪いことも良いことも何か意味があり起った出来事なんだ。さっき翔琉かけるが言ったように、あの時ああすれば良かった出来事は、ある一部の者に必要だった出来事だったのかもしれない。だがその悪い出来事は長い年月で見れば、将来大切な大きな役割を担っている出来事に繋がっているのかもしれんのだ。それは俺ら人間では計り知れないことで分からないことなんだ。神こそが知ることだな」


 確かにそうだと翔琉は考えを改める。


「だから過去を安易に変えてはいけないんだ。だがどこにも私利私欲のためだけに過去へ行くやつがいる。すると必ず時間のずれが生じ未来の時間の流れが変わる」


「未来が変わるってことか?」


「少し違うな。大まかな未来は基本変わらない」


「変わらない? よく未来は色々存在するっていうじゃないか」


「それはその時代に生きている者の場合のみだ。現代人が過去に行って干渉した未来は基本、俺ら時渡りが調整するから変わらない。変わるのは時間の流れが変わるだけだ」


「時間の流れ?」


「ああ。まず説明すると、この世の人間は基本二者択一なんだ。大まかに言えば、するかしないか、見るか見ないか、好きか嫌いか、選ぶか選ばないかだ。未来もだ。右と左に枝分かれした2つの未来が存在する。右の未来の道に行くか左の未来の道に行くかのどちらかなんだよ。どんなささいなことでも未来人が過去の者に話した、接触したという行動を起こしたことにより、その後の進む未来への道は必ず変わるんだ。すると時間の流れが変わりずれが生じる。これがこの世の道理、仕組みなんだよ」


「んー。いまいち分からん」


 首を傾げる翔琉に亘が笑って補足する。


「よくネットで未来人だと言うやつが言ったことと現実に起きた日時や出来事が違うことがあるだろう? それは未来人が接触したことにより道が変わって時間の流れが変わったからなんだ」


「なるほど! 未来人が俺らと接触したことにより未来への道が変わったということか!」


「そういうこと」


 亘は笑顔で頷く。そしてまた越時が説明する。


「亘が言ったことで言えば、Aの道を進んでいた未来人――タイムトラベラーはそのままAの道の時代へ戻り、俺らはBの道を進むってことだ。だが大元の未来は変わらない。ただ起きる出来事の時系列が変わるだけだ。自然の出来事、まあ自然災害とか自然に起きることは時間がずれることが多い。そして人間の行動は俺らが調整するため、起きたり起きなかったりするってことだ」


「確かに未来人が言って当たるのは自然災害だった気がする。事件とかは起きたり起きなかったりだったな」


 翔琉はネットで見た未来人が言ったことが起こったか、起こってないかの答え合わせのようなことを書いてあるサイトを思い出す。


「じゃあ過去を変えちゃだめならそのタイムトラベラーは未来に戻ったら捕まってるのか?」


「国が認めている調査員なら捕まらない」


「なんかネットに現れたタイムトラベラーも国の命令でこちらに調査に来ていると言っていたな。じゃあその者は捕まらないんだな」


「ああそうだ。調査員には2種類あってな。俺らのように時渡りの者と普通の一般人の者を公募で募集して派遣社員になっている者がいる。話しているのは普通の一般人の調査員だ。ほとんどの調査員は、言ってはいけない未来の出来事を言わなければ大丈夫だと思っている。国に監視されてることも知ってるからな。だが翔琉のように世界の仕組みを知らない者は、言ってはいけないことを国が監視していると思っている。だがそれは違う。元々その者が何を話すか把握したうえで国は監視しているんだ」


「何を話すか分かっているのか? なんで?」


「その派遣社員を選ぶのも時を司る神だからだ。神がいる世界には時間の流れはない。時間の流れがなくその場にただ今があるだけならば、神ならば過去はともかく、未来も把握出来ているのだろう。ならば過去に支障がない調査員を最初から選んでいればそうなる」


「どうやって派遣社員を選ぶんだろうな」


「聞いた話だと、選ぶ者も俺らと同じ時を司る神から力を与えられた者で、その調査員に選ばれる者は光って見えるらしい」


「神様からの合図みたいなもんか?」


「まあそうだろうな」


「じゃあ俺らみたいな時を司る神様から選ばれたやつっていっぱいいるのか?」


 翔琉達のように過去に行ける者や人材を選ぶ者などいるならば、他にも何かしら関わっている者がいそうだ。すると越時えつときが頷き返す。


「いる。俺ら過去へ時渡りをする者、神から声を下ろす者など色々な役目をもった者達がいる。だが過去に行けるのは限られている。まあ10家系ほどだな。そしてそれらを知っている俺らのような時渡りに関わる能力を持つ者は表舞台には決して出ない。出てはいけないという掟がある。それにきつい縛りもな」


「縛り? 契約か?」


「そうだ。もし血迷って誰かに話したり過去を変えてしまった場合、その時渡りの力は神によって取り上げられてしまいこの世界から抹消されてしまう。人ざる者の能力を持った者の定めというものだ」


 抹消と越時は言ったが、それは死を意味するということだ。翔琉は底知れない恐怖を感じる。


「時渡りの仕事に関しての説明はこんなもんだ。そして翔琉が時渡りの仕事をするにあたって、時を司る神から許しをもらわなくてはいけない。それをまず今から受けてもらう」


「今から?」


「ああ。俺についてこい」




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