03 本業は時渡り



「待て待て。なんだよタイムスリップの能力って。そんなこと――」


 出来るわけないと言おうとして翔琉かけるはそこで言いす。否定しようにも現にさっき自分は江戸時代にタイムスリップしたのだ。否定しようがない。

 そんな翔琉の思いを読み、わたるが翔琉の肩に腕を乗せにぃっと笑う。


「否定できないよなー? そりゃそうだろう。さっき自分は時渡ときわたりしちまったからなー」


 さも悪戯っぽく片眉を上げて口元を緩める亘に翔琉は抗議の目を向け睨む。だが亘の言っていることは正しい。どう考えても否定のしようがない事実だ。言い返せない代わりに肩に乗せられた亘の腕を払い退けた。


「翔琉が一応理解したところで、詳しく説明するぞ」


 越時えつときが腕を組みながら言う。相変わらず亘とは似ても似つかない濃い顔だ。亘は母親似で爽やかな感じだが、父親の越時えつときは無精髭をはやしワイルド系の顔をしていた。


「タイムスリップと亘は言ったが、時任ときとう家は代々そのタイムスリップした者を取り締まる仕事をしている時空調整人、時渡ときわたりだ」


「時空調整人? 時渡り?」


「まあ国が認めていないタイムスリップした者――タイムトラベラー達を見つけ出し元の世界に戻す仕事だ」


「国が認めてない? なんだよそれ。その言い方だと国はタイムスリップを認めているという言い方じゃないか」


「その通りだ。極秘だが国は昔からタイムスリップを認めている。そしてそれを許されているのが俺ら時渡ときわたりだ」


「え?」


「まあ一部の者のみしか知らないことだけどな。現にタイムトラベラーを取り締まる機関、時空警察が裏では存在する。その管轄は警察庁の付属機関になる皇居警察だ。そしてそこに委託されているのが俺ら時任家ってわけだ。時任家は代々時渡りの能力を使い、過去へと行き、不法タイムトラベラーを捕まえている」


「代々? そんなこと今まで一言も言ったことなかったじゃないか」


 翔琉は今日この日まで一度も聞いたことがなかった。亘からもだ。亘とは小さいころから今日に至るまで頻繁に遊んでいる。だが一度も聞いたことがない。


「当たり前だ。時任家でも男性しか知らないことだ。そしてそれもこの仕事が出来る高校を卒業してからしか伝えてはいけない掟がある。そしてこのことは家族であっても口外してはいけない決まりだ」


「じゃあ、俺の母さんは?」


 すると祖父が言う。


「亜由美か? 詳しいことは知らん。仕事を知っているのは、ばあさんと越時の妻の絵里子さんだけだな」


 絵里子とは亘の母親だ。確かにここに住んでいれば隠し通せることではない。


「でも、なんで男だけなんだ?」


 昔は男尊女卑だったからという訳でもないだろう。


「時任家は男性しかこの能力が出ないからだ」


 応えたのは越時だ。


「そしてその能力は幼い頃は封印されている。そして働ける年齢になると、時を司る神に封印を解いてもらうんだ」


「時を司る神? 誰だそれ。うちのご神体は建速須佐之男命タケハヤスサノオノミコトだよな?」


 溯及そうきゅう神社のご神体は一般的に有名な別名だ。


「まあうちの表向きの神様はそうじゃ。だが中におられるのは時を司る神と元々この地におられた土地神様2ちゅうがおられる」


「は? 2柱?」


「そうじゃ。時を司る神様は基本この場にいない。わしらが呼んだ時だけこの場にやって来る。だからこの神社には土地神とちがみ様が基本おられる」


 確かに翔琉が感じていたのは土地神だ。祖母も母親も同じでそう言っていた。


「その時を司る神様って名前なんて言うんだ?」


 翔琉が質問すると、祖父はきっぱり言った。


「知らん」


「え?」


「元々一般には知られていない神様だからのう。古事記にも日本書記にも載っていない。昔はわしらのような能力を持った者がごろごろいたからのう。時を司る神がいることを知られれば、悪用されることを祖先の者は懸念したんじゃろう。それに神自身が教えてくれん。時量師神トキハカシノカミではないかと言われているが、神自身が否定すると言うことは違うのだろう。だからわしらは時渡りの者は『時を司る神』と呼んでおる」


 そしてまた越時が話す。


「ここからが翔琉がする仕事に関してだ。これから翔琉も俺らと同じ仕事をしてもらう」

「何をするんだ?……」

「簡単に言えば、過去への不法侵入した者を捕まえて時空警察へと引き渡す仕事だな」

「逮捕するってことか?」

「逮捕するか、しないかは時空警察の仕事だ。俺らはただ捕まえて調整するのが仕事だ」

「調整?」

「ああ。時渡りを許されている者と国が仕事として移動する者以外が過去へと勝手に移動すれば、過去や未来を変えてしまう可能性がある。過去を変えれば未来も変わってしまう。それは今いるこの時代が変わってしまうということだ。それはあってはいけない。だからそれを直すのが俺らの仕事だ」




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