02 神社が副業


「は? 過去?」


 わたるは車の鍵を開け乗り、翔琉かけるが助手席に乗りシートベルトを締めるのを待ち車を発進させる。


「まあ驚くのは無理はないな。俺も最初そうだったからな」

「?」

「うちは代々神社の宮司で、男の親族はその神社の仕事を継ぐ決まりになっているだろ?」

「ああ」


 翔琉の母方の実家はけっこう古い由緒ある神社だ。だがそれほど大きくない。街の小さな氏神神社で参拝者も地元の人達だけが来るくらいだ。


「じいちゃんが耳にタコが出来るぐらい言ってたからな。だから今日から神社で働くことになってるじゃないか」


 翔琉の母親の家系、時任ときとう家の血筋は代々男性が必ず神社を継ぐことになっている。それは高校を卒業したらという約束で、翔琉の母親の兄である亘の父親の越時えつときも亘も皆高校を卒業してから働いていた。そして翔琉も先日高校を卒業し、今日が初出社だったのだ。


「でも普通、神社の神主の資格を取るには学校とか神職養成所に行くんじゃないのか?」

「ああ、それは通信教育でいいから。まあまだ時間はたっぷりあるから急がなくていいぞ」

「?」


 すると実家の神社に到着した。神社は小さな街を全体的に眺めることが出来る小高い丘の上にあり、周りは森に覆われ他の建物はない。だから小さい頃は夜はとても怖かったのを覚えている。


 神社の横の垣根の間から入り、境内の中にあるプライベート駐車場に車を止める。車を降りて付いて行くと、亘は本殿兼拝殿へと入って行く。てっきり神社の奥にある住居に行くものだと思っていたので翔琉は眉を潜める。


「本殿?」


 中に入ると、まず祭壇に正座し頭を下げ手を合わせる。翔琉達は子供の頃からそのように教えられているため神社へ来た時は必ずするのが習慣だ。

 挨拶が終わると亘は祭壇の裏にまわった。


「亘? どこ行くんだ?」

「いいからついてこい」


 翔琉は首を傾げながら亘の後を追う。亘はちょうどご神体の真裏に来ると壁へと手を当てる。すると壁が奥へ押され、地下へと行く階段が現れた。


「なんだ? 隠し部屋?」


 驚いていると、亘は「行くぞ」と言って中へと入って行く。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 慌てて階段を降り亘を追いかける。地下二階ぐらいは下りただろうか、階段を下りきったところにまた扉が現れた。

 中に入ると、そこは神社ではあり得ない近代的な空間が広がっていた。何台もあるテレビモニターに、訳のわからない機械やパソコンが並んでいる。どうみても一般の家庭にはない光景だ。


「なんだ……この部屋……」


 翔琉はぽかんと口をあけ呟く。

 よく見れば、そこには祖父の常時つねときと亘の父親の越時えつとき、1学年上の従兄弟ののぼる、そして知らない30代の男性と20代の女性と翔琉の同年代の女性が中央にある大きな長テーブルを囲むように椅子に座って翔琉達へと視線を向けていた。

 その者達に亘が声をかける。


「お待たせー。翔琉連れてきたぜ」

「遅かったな亘」


 そう応えたのは、亘の父親の越時えつときだ。


「わりい。想定外な出来事が起こっちゃってね」

「想定外?」


 越時が眉を潜める。


「翔琉、1人で時渡ときわたりしちゃったんだよ」

「!」


 そこにいた翔琉以外全員驚く。翔琉だけが意味が分からず眉を潜める。


「まじ焦ったぜ。目の前で翔琉が消えたからさ。急いでリュカに頼んで行き先探してもらったわ」


 亘は頭を掻きながら説明すると、祖父が首を傾げる。


「でも何故そんなことが起きたのじゃ」

「季節外れの雷が発生して翔琉の近くに落ちたんだ」

「それでか。じゃがまだ翔琉は解放しておらん。それなのに出来たとなると素質十分じゃな」


 顎髭あごひげをさわりながら満足そうに笑みを浮かべて話す祖父、常時つねときに翔琉は眉間に皺を寄せる。


「なあ、さっきから何の話だ? わかるように説明してくれよ」


 どう見ても自分だけが蚊帳の外で気分が悪い。


「あ、そうだな。悪い悪い」


 ムッとしている翔琉に祖父は笑って謝る。


「翔琉、今日からこの神社で働くことになっておるじゃろ?」

「ああ。だからこうやって来たじゃねえか」


 何を今更聞いてくるのかまったく意味不明だと翔琉は眉を潜める。


「ここで働くのは正しいが、仕事は神社の仕事ではない」

「は?」

「神社はまあカモフラージュというか副業じゃな」


 笑顔で言い切る祖父に翔琉は口をあんぐり開ける。

 青天の霹靂とはこのことか。実家の由緒ある神社が副業とはどういうことだ。


「悪い。まったく意味がわかんないんだけど……」


 すると横の亘がぷっと吹き出す。


「うける。俺とまったく一緒の反応」


 翔琉は亘に抗議の目を向けると、亘は片手をあげ「俺のことは気にするな」と言って顔を背けた。


「まあ最初は驚くわな。わしら時任ときとう家は古くから続く溯及そうきゅう神社をお守りする家系だ。そしてわしら時任家の者にはある能力を持ち合わせておる。それが時渡ときわたりの能力だ」


時渡ときわたり? さっきもなんか亘が言ってたな」


 隣りの亘を見るとそうそうと頷き付け加えるように言う。


「まあ簡単に言えばタイムスリップ的な能力だな」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る