第1章 【Mission】時渡りの仕事を理解せよ 

01 過去へ




「おまえさん、名前はなんと言う?」

月城つきしろ 翔琉かける……」

「年は何歳じゃ?」

「18歳……」

「どこから来た? 見たことがない服を着ているのう。異国か?」

「ほんと、変わった服を着ているねー」



 老夫婦は翔琉かけるを見ながら首を傾げて尋ねる。

 聞かれた本人――翔琉は冷静を装っているが、頭の中はすこぶるパニック状態だ。


 ――これはどうなっているんだ? ここはどこだ? 


 祖父の家に行くため、4歳年上の従兄弟いとこわたると祖父の家の最寄りの駅で待ち合わせをし、亘の車で向かう予定だった。

 するといきなり目の前に雷が落ち、次に気付いた時にはこの老夫婦の家の横にある畑に倒れていたのだ。

 その後家の中に案内され、お茶をだしてもらい、この会話だ。


 目の前にいる人の良さそうな老夫婦はどう見てもこの時代の者ではない。着ている服が着物なのだ。そして髪型も男性はちょんまげ、女性は日本髪を結っている。


 ――これは夢なのか? いやこれは夢だ。夢に違いない。


 言い聞かすように一度目を瞑り、祈るように何回も心の中で繰り返す。

 そして恐る恐る目を開けると、やはり目の前には不思議そうな顔を向ける老夫婦がいた。

 翔琉は天を仰ぎ叫ぶ。


「変わってねー!」

「へ? どうした?」


 老夫婦はいきなり大声を出した翔琉に驚いている。だが翔琉はそんなことはどうでもよかった。この意味が分からない状況をどうにかしようと試行錯誤する。


「冷静になれ。冷静になれ。一度ゆっくり頭の中で整理しろ」


 だが考えれば考えるほど訳が分からない。このままでは埒が開かない。まずここはどこかを確認することにする。


「あの、すみません。ここはどこで、今何年ですか?」

「ん? ここは江戸じゃ。今はたしか慶長14年じゃったかのう」

「えええ!」


 ――江戸って? ちょっと待て。俺は東京にいたはずだ。で慶長だって? 慶長っていつだ? 江戸時代か? まじありえねえ。どうなってるんだ。



 すると扉が勢いよく開いた。翔琉と老夫婦は驚き入り口を見る。


「お! いたいた! 探したぜ翔琉」


 そう言って入ってきたのは、駅で待ち合わせをしていた従兄弟の亘だ。


「亘?」


 亘はずかずかと入ってくると、翔琉の腕を持ち強引に立たせる。


「ほれ立て。帰るぞ」

「え? なぜ亘がここに……」

「話は後だ。まず行くぞ」


 亘は翔琉の背中を押し玄関へと歩かせ、驚いてぽかんとしている老夫婦へ向き直る。


「お騒がせしました。このことは忘れてね」


 ポケットから香水のような容器を出し、2人の顔に吹きかけた。すると2人はぼぉっとしてその場で動かなくなった。


「何をしたんだ?」

「ん? 言葉の通り記憶を消した」

「記憶を消したー?」

「うるさい! まず出るぞ」


 亘はなかなか歩こうとしない翔琉の背中を強引に押し、家の外へと出る。すると老夫婦ははっとし我に返った。


「はて? わしらは今何をしておったっけな?」


 首を傾げてお互いの顔を見るのだった。



 翔琉と亘は外に出ると、人目につかない林の中に移動し隠れる。


「亘、これはどういうことだ? ここ江戸時代みたいなんだ。タイムスリップしたみたいになってるんだけど」

「ああ。そうだ。ここは江戸時代だ」

「え?」

「――ったく、まさか勝手に時渡ときわたりするとはなー。予定外だぜ。まず戻るぞ」

「え? 戻る?」


 意味が分からず眉を潜める翔琉を無視して亘はスマホを取り出す。そして翔琉の肩に手を起きスマホのボタンを押した。すると地面に魔法陣が現れ景色が一変し、星のない宇宙色の空間に幾何学的な模様が現れる。

 そして刹那二人はその場から姿を消した。




 翔琉が次に気づいた時には、まさに待ち合わせしていた駅に立っていた。


「あれ? 戻った?」


 すると亘がふらつき倒れそうになる。


「お、おい! 大丈夫か」


 咄嗟に手を差し伸べ支える。


「……ああ、大丈夫だ。ちょっと立ちくらみしただけだ」


 亘は翔琉の腕を払い、何事もなかったように自分の車が停めてある駅の近くの駐車場に向かって歩き出した。翔琉は慌てて追いかける。


「なあ亘、さっきのって」

「あれか? 時渡ときわりと言って過去に行ってたってやつだ」

「は? 過去?」





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