5つめ
先ほどよりもさらに嫌そうな彼女を見て、彼は少しだけ可笑しくなってきた。先ほどから彼女は少しだけ彼の目を見て膨れっ面でいるのだ。
そんな、彼女の目を見る彼はいつも通り愛おしげで、また、いじめてしまいたくなるような、そんな悪戯心が働いてしまいそうだった。
だが、それもまた、彼女には見透かされているのだろうなと思えば、特にこれといってやれることもなく、彼はただひたすらにいつも通り過ごすのだ。
「ストレスについて、2人で発表しよう」
彼が問い掛ければ、いつものごとく、彼女は目の奥を睨み付けるようにぐっと目を細める。
ストレスなんて感じていない。ましてや、これがストレスを感じることがあるのだろうか。と、彼女は思うのだが、彼女自身が嫌そうな顔をしていたことに気づき、直後少し彼から目を背けたくなった。
背けられない性だから、そんなことはしないのだけれど、彼はにこにこと笑った。
ただ、彼女はストレスについてという、大きな括りの物事に対してどう考えていいものかわからないでいた。ただただ、あなたのことを考えれば、胸が苦しくなるが、それはもう仕方のないことだと、諦めも始まっていた。
それでもまだあなたについて考えなければいけないのかと彼女が思うのは、他でもなく、たぶん、これのせいなのだろう。
彼だってきっとそんなこと問いたくないはずだ。と彼女は思うが、やはり、問いたいのかもしれないとも思った。
そんな、彼らはまだ見つめあったままだった。
彼にとっては、どうでもないことが彼女にとってはとても重要なことらしい。と、彼は思うのだがいつも通り、口にしない。彼らの関係は脆くも儚く、そして力強くあるのだ。
こんなにも考えなければいけないこと自体、彼女にとってはストレスなのだが、彼にとってはストレスではないのかもしれない。そもそも、彼は考えた時点で彼女に問いているのだろうか。
もし、すごく考えた後での言動だった場合、彼女の行動はものすごく失礼な気がしてきてならなかった。
申し訳なさそうにする彼女を彼は深く見つめた。彼女にも何か伝わったらしい。
ただ、ひたすらに、見つめ、合う。
「わからない」
ただ、その答えが聞きたいだけのような気がしてならなかった。
だが、彼は久しく口を開くのだ。
「今の時間はなんだったんだい」
にこにこしながら言う彼を驚いて彼女は眺めた。
今の時間は……なんだ。
今の時間は、無駄なのか。それとも有益なのか。何があると言うのだ。これを考えている時間も、今に入るのだろうか。
何が正解なんだ。
そして、彼女が考えること自体、無駄なのかもしれないし、有益なのかもしれない。
「それが答えさ」
彼が答える。
その顔はなんとも満足げで、憎らしく彼女には見えた。
5つめ、
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