4つめ

ふと、前を見れば彼女が不貞腐れた表情でこちらを睨んでいた。それは彼にもなんとなく原因があることがわかっていたから、何も言わなかったが、彼女がそう思っていることに多分気がついていると彼は確信していた。

先程これは、久方ぶりに食事をしたのだが、その本能ですら、考えないとできないということを知ったのが彼女的に不愉快だったようだ。

本能は考えなくてもできるものではないかと、彼ですら思うのだが、うまくいかないものはうまくいかないのである。


「なぜ人は対立するのか、2人で発表しようじゃあないか」


彼がそっと呟くと彼女は案の定嫌そうな顔をさらに歪ませた。

対立しなければいい話だった。と、彼女は思うのだが果たしてそれがとても正しいことなのか、どうなのか。

対立したことによる、身体への負担は大きなもので、彼らの関係への負担も大きなものだった。だがこうして彼らはまだまだ見つめ合っているのだ。

それなのに、どうしてそのようなことを考えさせられるか。なぜ考えなければいけないのか。どうしてなのだろうか。

果たして考えることに意義はあるのだろうか。

彼女は少しだけ思考が止まったような気がした。全てが全て、彼のせいのような気がしてならないのだ。なにも、何度も難題を振って来なくたっていいではないか。どうして彼は考えようとせず彼女ばかり考えているのか。それは理不尽ではないのか。

おかしい。

どうしたっておかしい。

彼女は彼をさらに睨みつけた。彼の目の奥の奥の奥へと深く睨みつけた。

彼も一緒に考えてくれれば。

彼も一緒に悩んでくれれば。

彼も一緒に傷ついてくれれば。

なぜ、それができないのか。

そして、彼女はああ。と、もらした。


もう対立しているではないか。


彼とうまくいっていないのではない。多分、己自身の、彼女自身の問題なのだ。

つまり、この対立は、あなたのせいではなく、これのせいなのである。

だからこその、


「わからない」


なのだ。

対立する必要はなくてもいつだって、彼らは対立しているように見えるし、彼らはうまくいっているように見える。

ただ、これとあなたはうまく行かなかっただけの話なのだ。


ただ、それだけなのだ。


彼はそんなことお見通しとでもいうように、ただにこやかに笑った。そして、彼女の目を彼女よりも深く見つめるのであった。

それは、仲直りの証拠かもしれないし、ただの悪戯かもしれない。

わかるのは結果が出てからなのだ。

全てがそうなのだ。

途中の経過なんか誰も気にはしない。

ただそれだけなのだ。

「少しだけ寂しくなるなあ」


そっと、彼が呟いた。


4つめ、

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