3つめ
何か終わったような、ただ、ましになったような、そんな彼女を彼は見つめた。もちろん彼女も彼を見つめていた。
彼女は気を遣ってくれた彼のことを、少しだけありがたいと思っていながら、少しだけ鬱陶しくも思っていた。
寝る必要なんか彼女にはなかったのだ。ただ、その寝る行為自体が彼ら自身の中で何かが変わるきっかけとなったのだった。
彼もそれに気づいており、少しだけ安堵したような表情をしていた。でも、そんなことは口にしない。口にしてもいいが、口にするだけ何かを失う気がする。
そして、彼女は彼の考えてることが分かりつつも、わからないふりをした。
「空腹とはなにか、2人で発表しよう」
彼はそう言った。
空腹。彼女は唐突に彼の考えてることがわからなくなった。なぜ急に。なぜ、突然。
ただ、彼女は律儀にもそれを機械のように、考え始めた。
彼は彼女が彼のことを気づいたと思ったのかもしれないし、思っていないかもしれない。ただただ、彼女が考えている姿が愛おしく見えるのだ。だから、離れられない。
いや、離れることはできない。と、言う方が正しいのかもしれない。離れてしまえばきっとこれはこれでなくなってしまう。
彼女はただ、彼のそんな目線を気にしつつも考えを進めた。
お腹が空くことは、ただの人間の本能である。なのになぜそれを考えなければならないのか。考えなくてもお腹は……空く。
だが、彼女は重要なことに気づいた。
最近、なにも食べていないのだ。
彼には何もかもお見通しだ。と彼女は思い少しだけ微笑んだ。ほらね、と言いたげな彼を見てまた嫌な顔に戻る。
彼女はそれでも考えた。
答えは出た。
だが、それが全てではない気がした。
なぜ、それに気が付かなかったのか。
なぜ、それをしなかったのか。
なぜ、本能に抗っていたのか。
なぜ——。
少し痩せたような身体を見て彼女は、ああ。と困ってしまった。身体が食べることを拒否していたのか……と。
ただ、それは身体のせいではなく、彼女のせいであり、彼のせいでもある。だけど、身体のせいでもあるのかもしれない。
もうそろそろ、食べることを考えなければいけない。考えなければ本能は働かないのかもしれない。と、彼女は思うのである。だが、それも間違えのような気がして、彼女はいつものように口を開いた。
「……わからない」
彼は満足そうに、にこやかに笑う。そして、まだ見つめ合っていた彼女の目をさらに深く深く見て、
「さて、なにを食べようか」
と、問うのだった。
3つめ、
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