2つめ

彼は少し困った表情で彼女を見ていた。泣き腫らした様子の赤い目元に釘付けになるのはこれで何度目か。それでもよく懲りずにこんなにも回数を重ねるものだと、彼は思う。

彼女はそんな彼の目を見てただひたすらに、いつもとは違うことがしたくなった。


叫びたい


そう思ったのも束の間、彼が


「眠気についてどう思うか、2人で発表しようじゃあないか」


といつも通りの満面の笑みで答えた。

眠気。彼女は少し小さくつぶやくと、なんとも言えない表情になる。最近寝ていない。そんなことを考えながらも、寝なくても平気だ。死にはしない。とも考える。

彼女自身は眠気なんか感じないのだから、それはそうだろう、と。

ただ、それと同時に彼に対して不満が込み上げてくる。今はあなたのことしか考えられないのに、どうして、眠気のことなんか、と。

ただ、彼の役目は難題を投げかけることであり、彼女の役目はそれを考えることである。そして、それ以外の何者でもないのだ。

それ以上でも、それ以下でも。

余裕がないなりにも、彼女は考えた。眠気なんてどうでもいいのに考えた。

考えなければならないから。

考えた方が楽だから。

それが仕事だから。


そう言い聞かせてあなたのことを忘れることにした。

ただ、そうしてくると不思議と眠気というものが襲ってくるもので、彼女は少し頭を捻った。

彼はそんな彼女を観察していた。ただただ、いつも通りの満面の笑みで。

しばらくして、彼女の考えは止まった。そして、少しだけ口を開いた。


「わか……ら……」


その後は続くことはなかった。

やっぱりか。

彼はそんなことを思う。

そこには、彼に委ねられた思考と、薄れた彼女の存在。

あなたのことを思う彼女への最大のご褒美であり、最低の嫉妬だ。

彼は自らの行いを

「なぜ、そうなってしまったんだろうね」

と問いかけるも、考えてくれる彼女はおらず、ただただ少し悲しげに笑みを浮かべて、そこにはない頭を撫でるのであった。



2つめ、

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