1つめ

彼は言った。


「お互いにこの恋はどう思うか、明日までに発表しよう」


と。

だが、彼女は少し顔を歪めて見せて、口をつぐんだ。彼女の方は少し彼の言葉に嫌気がさしているようにも、または、もう考え込んでいるようにも見える。

ただ、彼はと言うと、もうすっかり先ほど言ったことは忘れてしまったかのように、にこにこと満面の笑みを浮かべていた。

能天気。と、彼女は思うのだが、決して口にはしない。

口にすれば終わってしまうから。

だが、口にしなければ終わってしまうとも言う。

そんな彼女を彼は面白げに見てただにこにこと笑うのだ。自分で言ったことなんか微塵も考えないくせに、彼はいつも彼女に難題を押し付ける。

それは、彼女にとって……というか、2人にとっての難題なのだが、彼は気にしないのだ。

いつも考えるのは彼女の役目であり、彼ではない。彼は問いかけだけしかしないのだ。

でも、彼は決まって言うのだ。


2人で発表しようと。


彼女はそんな彼を嫌そうに見つめながらも、少し愛おしさが目の奥に光っている。

俺が答えないのは、彼女も知ってることだ。なんて彼は案の定思うのであるが、これもまた、口に出してはいけないような、だが口に出すべきようなそんな複雑な気持ちになる。

複雑な気持ちのまま、彼も彼女も、ただただ、見つめあった。

目を離すことはできるのかもしれないが、もとよりそんなことは生まれてこの方、やった試しがない。

と、いうとおかしい。と思うかもしれないが、彼と彼女には当たり前なのだ。

当たり前すぎて飽きてしまったほどに。

顔を背けることを考えたことは1度もない。

ただ、飽きると言うとまた少し違う気もする。飽きることさえ彼らにはないのだ。


それが当たり前だから。


それ以外の何者でもない。

彼女の方は、『この恋について』と言う問題をしっかりと考えていた。

そして、少しずつ、口に出す。

「よく……、わからない」

そう、結局彼女の答えはいつも決まってこうなのだ。彼はやっぱりねと小さくつぶやくと、彼女の目を見た。

見たところで何か変わるわけではないが、なにか起こるわけでもない。

ただ、今回は少し違った。

彼がそっと彼女に囁いたのだ。

「うまくいくと思うかい?」

彼女は目を見開いた。

彼がこうして言うときは決まって、うまくいかないからだ。彼女の中で少しずつなにかが溢れ出す。溢れても止まらないから止まるまで彼がそばにいる。

こうして彼女が溢れることが終わると、彼はそっと言うのだ。

「まあ、冗談だけどね」

なにも考えてないような、だけど少しだけ申し訳なさそうな、そんな曖昧な表情で彼はそう言ったのだった。

そして、彼女はただただ毎日行うように、彼の目を見るのだった。



1つめ、

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