美味しい決戦!

三夏ふみ

苺のミルフィーユ

 目の前に置かれた苺のミルフィーユが、こんなにも疎ましいと思ったのは初めてだ。


 厳選された調度品が絵画の様に置かれる部屋で、微かに震える手が、整えられたアールグレーを口に運ぶ。


「明美さんがお好きだって聞いたから、今朝、買ってこさせましたのよ」

「まぁ、そうなんですか。有難う御座います、お義母様」


 涼し気に紅茶を飲むその顔に、満面の笑みで返事をし、アールグレイをもう一口。お義母様の目の前に置かれた、頂きに粉雪が舞う和栗のモンブランと比べ、絶望的なオーラを放つ、今にも崩れ落ちそうな芳ばしい香り漂うパイ生地。


どうする。手土産の栗羊羹が出されないのは想定内としても、よりにもよって食べづらさSランクの、苺のミルフィーユが出てくるとは。

ああ、こんな所で出会わなければ、今すぐにでもこの手に包み、勢いのままに口いっぱいに頬張るのに。


「美味しいよ、これ」


のんきか!


 色彩豊かな絨毯にパイ生地を舞わせ、美味しそうにケーキを頬張る直樹に心の中で突っ込みを入れる。

 大事な一人息子が連れてきた、降って湧いた花嫁候補。些細な事だが試されるのは当然だ。


落ち着け私、大丈夫やれる。


 こんな所でつまずいてはいられない。そう、あの日誓ったのだ。私に傘を差し出して大丈夫だよと微笑んだ、この笑顔と共に歩むのだと。




いざ。尋常に勝負!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美味しい決戦! 三夏ふみ @BUNZI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説