第3話 篠森が来る

 自宅謹慎。

 初めてだ。

 正直、反省を二週間もし続けるというのはどういう事か分からない。グルグルと考え事ばかりしてもストレスが溜まるだけ。

 俺はゲームをしていた。

 

「…………」

 

 元々、このゲームを買ったのは倉世と遊ぶ為だった。ゲーム機を持っている俺が買えば、彼女も遊べると思ったから。都合が合えば一緒にゲームをして遊んでいた。

 

「…………」

 

 ゲームに没頭していたらあっという間に四時だ。こんなので反省とは何なのかと聞かれたら、自分でも分からない。自宅に引きこもって反省文を書いて、それで反省と言うことにはならないだろう。俺だって馬鹿だったと思ってる。

 

「……何でこうなったんだ」

 

 画面にはGAME OVERの文字が表示される。コントローラーを投げ出して、呆然と考え込んでしまう。考えればドツボにハマって抜け出せない。俺の中では、結局、三谷先輩という結果になってしまう。

 

「篠森……来るって言ったよな」

 

 謹慎を言い渡された俺は外に出ることが出来ない。篠森も授業がそろそろ終わる頃だろう。今日はきっと最悪の日になる。

 俺にとって、そういう日。

 いや、これからもと考えれば最悪が始まる日と言ったほうが適切だ。

 

「まだ、時間あるか」

 

 今はゲームをしていなければ、俺は余計な事を考えてしまう。不安も、恐怖も俺は抱え込んでしまえば、折れてしまう。

 仕方ない。

 心が死ねば反省どころではないから。

 仕方ない。

 

 ──自分がやった事棚に上げんのか?

 

 思い出すと怒りが込み上げてくる。

 

 ──皆んな、お前が倉世を殴ったのを見てた。三谷は倉世に何かしてたか? 誰が見てたんだ?

 

「……大事な人に、全部忘れられた事あるのかよ、お前はっ!」

 

 教師の説教が何回も何回も、俺を責め立てて、コントローラーを床に向かって投げつける。

 

「偉そうな口聞きやがって! 言い分なんて認めねぇだろ! お前らはさぁっ!!」

 

 俺と三谷先輩を比べた。

 そして三谷先輩が優秀だったから、三谷先輩を正しいとして俺は悪者だ。ただ、俺が殴ったと言うだけの話に収まらないだろ。

 

「クソッ! クソが……何なんだよ……!」

 

 近所迷惑だと咎める人は居ない。まだ父さんも母さんも帰ってきてない。思う存分に叫んで虚しさばかりが絡みつく。喉がひくついて声が思うように出せない。

 

「何……なん、だよぉ……」

 

 あれだけみっともなく泣いたのに。まだ泣き足らないのか。あんなにもかっこ悪く蹲って泣いたのに。

 不甲斐ない。ダサい。気持ち悪い。

 たった一人に嫌われた程度で。

 

「……クソ、クソが……クソ!」

 

 どうして、こんなに俺は泣いているのか。

 

「ゲーム……」

 

 落ち着かなければ。

 考えるのは良くないんだ。良くない。だから現実逃避にゲームをする。コントローラーは壊れていない。

 安心してゲームを再開しようとして「ピンポーン」とインターホンの音が階下から響いた。父さんも母さんも帰ってくる時は態々インターホンを鳴らさない。それで、この時間となれば篠森だろう。

 

「あ」

 

 ゲームデータをセーブしようとして倉世のデータに上書きしてしまう。謝れば……覚えてないか。

 直ぐに客の存在を思い出して階段を駆け降りる。

 

「……よ」

 

 扉を開ければ制服姿の篠森が立っていた。

 

「ああ。……上がってくか?」

 

 俺が聞けば篠森は「それじゃ、お邪魔します」と玄関に入る。

 

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