第2話 暴力は謹慎処分
俺の行動は浅はかだった。
目の前で説教する先生の声を右から左に聞き流して、先程の行動ばかりを気にしてしまう。未だに拳に倉世の顔を殴った感触が残っている。
「聞いてるのか、甲斐谷」
「…………」
暴力はダメだとか、そう言う話だ。どうして殴ったのか。カッとなったから。短絡的に三谷先輩が何かをしたのだと思った。納得しやすい答えだったんだと思う。
「お前、倉世とは仲良かっただろ」
「……はい」
「頭冷やせ。後でちゃんと話し合え」
「…………」
仲が良かった。
話し合えるか、それは分からない。そもそも、話し合う機会すら貰えるかも。何せ倉世は俺のことを忘れているのだ。嫌いと言われたのが、未だ脳にこびり付いてる。あの目も、俺を敵として認識しているだろう。
「…………」
返事ができなかった。
「おい、甲斐谷?」
「あ……すみません。それで授業に戻って──」
良いですか。
確認しようとして先生のため息が聞こえた。
「お前、話聞いてなかったのか?」
何だったか。
「お前は謹慎処分で今日からゴールデンウィーク入れて二週間くらい……だから、五月一三までは自宅で謹慎だ」
「……俺が、ですか」
「お前がやった事は立派な暴力行為だ。大人の男の力はお前が想像する以上にある。倉世に後遺症が残るかもしれない。今だって記憶が────」
「違うっ!!」
暴力行為はそうかもしれないが、記憶については俺だって分かってないんだ。
「殴ったのは……そうですけども、でも! 記憶は元からだ! 俺は知らない! 知ってんのは三谷先輩だ!」
口が止まらない。
こんなのは先生からしたら責任転嫁にしか思えないだろう。
「お前……本気で言ってんのか?」
「…………」
先生の目が一層険しくなった。
「自分がやった事棚に上げんのか?」
自ら反省する様に先生は言ってくる。
「皆んな、お前が倉世を殴ったのを見てた。三谷は倉世に何かしてたか? 誰が見てたんだ?」
「昨日……三谷先輩と倉世が一緒に帰ったんです」
「……それだけだ。それにお前が見たのは一緒に帰ったって所だけだ」
心が冷えていく。
分かってない。分かっちゃいない。先生は俺の気持ちを理解しようと歩み寄りもしない。
「これ以上は止めろ。ちゃんと考えて謝れ。許してもらえ。謹慎期間が延びるだけだ」
先生は立ち上がって「もう帰れ」と諭す様に言う。一時間目の授業もホームルームも参加せずに午前の間に家に帰る。
それは今の気分でさえなければ少しだけ嬉しく思えたのかもしれない。教室の後ろの扉からひっそりと入ると篠森と目があった。
「……大丈夫?」
俺の方に顔を向けて彼女は俺に小さな声で確認する。俺は彼女の言葉に「俺は、大丈夫」と声を潜めて答える。
「倉世は?」
倉世の姿が見当たらない。
「保健室からまだ戻ってきてない。様子見てるみたいだけど、もしかしたら早退するかもって」
先生から聞いた、と付け足した。
俺は相当なことをしでかしたらしい。
「……荷物、何でまとめてるの」
「帰るんだよ。謹慎でさ」
俺は帰ろうとして彼女がノートに文字を書いたのを見る。
『今日かいたにの家に行くから』
今回の事を疑問に思っているのは俺だけじゃないらしい。
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