第4話 Redo 友達計画

 

「……へ〜」

 

 俺は取り敢えず二階の部屋に上がらせる。別に話をするだけ。もてなしなんて出来そうにもない。

 

「随分すんなり女の子を部屋にあげるんだね」

 

 何に感心してるのやら。

 

「倉世がゲームしに来るから慣れてるんだよ」

 

 俺は溜息を吐く。

 

「適当に座ってくれ。床が固いんなら別にベッドに座ってもいい」

「了解」

「悪いけど、茶とかの用意はないからな」

 

 客人と言えば客人。

 唐突に決まった訪問に対して俺は止めようとはしなかった。正直、家族が帰ってくるまでの場繋ぎ的な意味合いでも篠森が家に来てくれたのは助かった。

 

「謹慎、一三までだって?」

 

 篠森がベッドの上に座り込む。

 

「……ああ、うん」

「体育祭、参加できないじゃん」

「ギリギリな」

 

 ゴールデンウィーク明け、土曜日に開催される体育祭に俺は謹慎中ということで参加できない。

 

「男子の方、いきなり甲斐谷が外れるってので慌ててたよ」

 

 呆れたように言う。

 

「迷惑掛けてんな、俺」

「……あ、ごめん。別に責めるつもりとかじゃ無かったけど」

 

 体育祭の話を持ち出した事を篠森は後悔したのか、謝ってくる。俺も大して気にしているわけでもないから反応に困る。

 数秒間、部屋の中が静かになった。

 篠森が「あのさ」と切り出す。

 

「……倉世の事なんだけど」

 

 本題だ。

 俺と篠森の頭を悩ませている現状、最大の疑問。

 

「何で俺たちの事を忘れてんのか、だよな」

「うん」

「…………」

 

 見当はつきそうにない。変化があったのは三谷先輩と一緒に帰ったあの日。たった一日の事だ。そこに原因がある筈だ。

 

「三谷、先輩……」

 

 思い出せばやはり腹立たしい。

 生徒会長の彼は教師からの評判がいい。だから、俺がどうにかできる相手ではない。何をしようと言いがかりとされて、無視される。三谷先輩が気に入らないのは倉世の事を下の名前で呼び、馴れ馴れしくしているから。

 自分でも理解している。

 これは単なる私怨だ。

 優れた彼に、幼馴染を奪われた。

 

「三谷先輩の筈だ。三谷先輩なら何か知ってる」

 

 そうであってくれ。

 そうでなければ俺の怒りは矛先を見失ってしまう。三谷先輩が何かをしたのだと、俺は考えたい。

 

「あの人はシラを切ったんだ。正直に答えれば、俺だって……!」

 

 殴りかからずに済んだ。

 倉世を怪我させずに済んだ。それをあの人が台無しにした。今の状況を変えようと思うなら、俺に何かを言う筈だ。何で何も言わないんだ。

 

「ちょっと……甲斐谷」

「……何だよ」

 

 頬を摘まれる。

 

「痛い」


 爪が食い込む。


「顔、怖くなってる」

「…………爪、刺さってる」

「嫌な気持ちになるのはわかる。でも、ネガティヴばっかでいたら鬱になっちゃうよ」

「…………」

 

 それは痛いほど分かる。

 さっきまで俺は、篠森が家に来る前までの俺は人生史上最大の不安を感じていた。そして今だって。

 

「てか、痛いっ!? 本当に痛いんだけど?」

 

 流石に痛みで冷静に判断できなくなった。俺が騒いだ事で漸く篠森が指を離した。

 

「痛ったぁ……」

 

 貫通してないか、これ。

 

「大丈夫。貫通してないから」

「あー、取り敢えず……悪かった」

 

 痛みで気が紛れた。

 考えも少しだけ晴れた気がする。

 

「……じゃ、取り敢えず私は倉世に三谷先輩の事聞いてみるから」

「は? いや、篠森も忘れられてるだろ?」

 

 なのに三谷先輩との事聞けるのか。


「はあ〜……」


 俺の言葉に篠森が呆れたように肩をすくめて見せる。全然、似合ってない。

 

「私、倉世と友達だったんだよ?」

 

 ああ、成る程。

 ストン、と落ちるような。

 俺はすんなりと彼女の言葉に納得できた。

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