4月8日 16時38分

文化棟3階、文芸部部室前。

僕と文学少女はそのドアの前に立っていました。

本当は部室の中に入りたかったのですが、その扉は施錠されており、ドアには一枚の貼り紙が貼られていました。

“各位 浮雲高校文芸部は廃部となったので、本教室の使用を禁ずる。 生徒会”

なるほど、合点がいきました。

彼女は文芸部に入部しようとここまで来てみると、文芸部は既に廃部となっていた。

持ってきた本を読むつもりだったので、どこか落ち着いて本を読めるところを探して屋上へと向かった。

帰るつもりだったのか、もしくは風が強くて読むに読めなかったのか、いずれにせよ屋上から戻ろうとしたら僕と鉢合わせてしまった、ということでしょう。

ドア前に学校指定のスクールバッグが無造作に置かれているので、おそらくこれは彼女が屋上に行く前に置いていったもの。結構不用心ですね。

そしてそこから導き出されるラブコメ的解答としては…。

「入部希望者がいるわけですし、生徒会にかけあってみますか?」

少女はこくりと頷きました。

「一人でいけますか?」

少女は小さく首を振りました。

「僕が付いていった方がいいですか?」

少女はこくりと頷きました。

やっぱりかー。でもまあそんな予感はしていました。

ラブコメ的には入部イベント、もしくは活動中に生徒会の介入がお決まりです。

だからこれはもう既定路線だと思って諦めるしかないわけですね。

「わかりました。その前に、お名前だけ聞かせてもらっていいですか? ちなみに僕は、大橋明日真と申します」

先ほどと違い、今度は分厚い眼鏡越しに僕の顔を見上げました。

前髪はその眼鏡にかかるほど長く、重い。後ろ髪は野暮ったいヘアゴムで二つ結びにしたおさげ。ちゃんと梳いていないのか、少しパサつきが見られる。

何か言葉を発するとき以外、顔は常に俯き加減のまま。

たぶんノーメイク。よく見ると年相応に吹き出物ができていたりするが、それもちゃんとケアをしていない。パッと見、地味な女。

でも一たびその分厚い眼鏡を外し、長く、重い前髪を取っ払うと、眩暈がするほどの美少女が現れる。すごく可愛い。

「弥永…陽菜…です…」

次回は、生徒会編です。

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