4月8日 15時34分
下校の時間になったのですが、僕にはこれから大事なミッションがあります。
そう、活動内容不明で変わり者だらけの謎の同好会に勧誘されるというラブコメ鉄板イベントの消化というミッションが。
当校は自由な校風として知られている通り、服装や髪型に加え、クラブ活動についても目に余るほどのお遊びサークルでない限り、かなり懐の深い裁量がとられるため、マニアックな同好会が多数存在しているとのことです。
奉〇部か、S〇S団か、極東〇術結社か、それともエ〇ケン部か…。
そういえばクラスメイトに葉〇奈由がいるので今年からは下〇部が作られるかもしれませんね。
「なあなあ、大橋。部活動はどこに入るか決めたか?」
昨日に引き続き馴れ馴れしく肩を抱くクラスメイトである横手君が、またもウザ絡みをしてきました。
「いえ、今のところ特には。これから決めようかと思っていたところです」
「んじゃあ、俺も一緒に付いてっていい? あ、もしかして今日もあの幼なじみちゃんが教室の前で待ってるのかな?」
「今日から彼女は放課後は忙しくなるということでしたので、いないと思います」
「あっちゃー。それじゃ昨日のアレは結構レアなヤツだったのかー。なんでこっち来ちゃったのよ?」
「約束とかしてませんでしたし、今日から忙しくなるのは僕も知りませんでした。埋め合わせもすることになりましたし、何よりあのときボウリングに行って良かったと思ってるのでそれでいいじゃないですか」
「あ、本当? いやー優しいなー大橋はー。ところでどこの部活動見に行く?」
「一人で回ります。たぶん変人集団が運営する謎サークルに勧誘されることになると思うので、付いてきてたら横手君に迷惑がかかってしまいます」
「ラブコメ主人公であるという自覚がすごい…。だったらさ、可愛い女の子がたくさんいるところに縁がありそうじゃん? ちょっとくらいおこぼれをこのモブキャラにくれてやってもさあ…」
「はあーいストップー。両者離れてー。フラれた横手は退散してー。次はあたしのばーん!」
どこからともなく現れた大楠さんが僕と横手君の間に割り込み、半ば強引に引き離してくれました。
女子にしてはすごい力でした。良い体格だなとは思っていましたが、かなり鍛え抜かれた筋肉がその身体についているようです。
引き離したが否や、横手君と同じように僕の肩を抱き、そのまま教室の外へと連れ出しました。
「あ、あの大楠さん?」
「問答無用。今日はあたしのターンでしょ? 付いてきて」
身体はベッタリと密着状態。人によっては…いえ、誰から見てもただならぬ関係であると勘違いしてしまうほどの距離感です。
昨日は(実は今日も)散々高宮さんにいじられ続け、長丘さんとは周りに聞こえないように顔を近づけて話したりしましたが、これはちょっと刺激が強いです…!
同世代の女の子と手をつないだこともないのに、出会って2日目のクラスメイトにその何段階か上のスキンシップをとられています。
“ギャル”というのは、この距離感がデフォなんでしょうか?
「ん? どったの?」
「い、いえ! 何でもありません!」
昨日も大楠さんとお話する機会はありましたが、感覚的には今日が初対面です。
昨日は入学式ということで髪の毛も黒、メイクも自然な感じだったのですが、今の彼女はテレビでよく拝見する”ギャル”そのものになっていました。
眩しいほどの金色にブリーチされた髪の毛は、肩甲骨あたりまで伸びるロングヘア、しかも下半分がゆるふわウェーブになっており、前髪はおでこがはっきり見えるようにセンターから少しずれたところから大きく分けられています。
肌は少し褐色気味なのですが、本人曰く、地の色とファンデーションによるものとのこと。
目元には明らかに盛り過ぎのまつ毛に濃い目のアイライン。眉毛も濃い目。唇は赤ともピンクとも違う煌びやかな色をしたリップが塗られています。
首元には学校指定のリボンがあるはずなのですが既に外され、代わりに大きく開いたブラウスの奥に金の細いネックレスが見えます。あ、胸も結構大きいみたいです。
スカートは短く織り込まれ、足元にはギャルの代名詞であるルーズソックスが履かれています。
ここまで攻めたビジュアルになっている女子生徒は、かの浮雲高校でも彼女くらいなものでしょう。
そして何よりとても甘くていい匂いがします。
一日中吸っていたらドーパミンの過剰分泌によって何からの中毒になるほどの甘美な香りです。今僕はとても幸せな時間を過ごしています。
「なあ大橋クン。今相当キモい顔してるの、わかってる?」
「ヘ、へへ? キモい顔って、ぼ、僕がですか? へ、へへへ…これは生まれつきでしゅ…よ?」
「口を開いたらさらにキモくなったな。お前チョロ過ぎんだろ。耐性がないのか、ギャル好きなのか…」
「たぶんギャル好きです」
「マジでキモいわ」
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