4月8日 7時30分
「遅い!」
開口一番、三宅さんからまた怒鳴られました。
時間はぴったりだったはずなのに。
「私は大橋君が5分前行動を取ると思ってさらにその5分前に到着してたんだよ? 10分も女の子を待たせるなんて最低! 罰金!」
「その理論でいくと、僕はさらにその5分前に待ってなきゃいけないじゃないか!」
「いいわよ! どちらが早く集合場所に到着するか勝負だね!」
「そうやって自分も他人も追い込んでいくスタイルやめよう!?」
もしかすると目が覚めたら”今日が4月7日”で、”昨日”のことは泡沫の夢だったということを少し期待したのですが、どうやらそのまま地続きで”今日”がはじまったようです。
「昨日のボウリングはどうだった? 楽しかった?」
駅に向かう道すがら、彼女はまるで弟にでも語りかけるような優しい表情で聞いてきました。
予め約束していたわけではなかったのですが、彼女を他クラスの教室の前でしばらく待たせた挙句、一緒に下校しようという誘いを断ってしまっていたので、この話題は少しバツが悪かったのですが、彼女のこの表情には救われました。
「あ、ああ。楽しかった。あんな感じで遊びに誘われるのってたぶん初めてだったから」
「確かに大橋君がクラスメイト数人と集団で遊びに行くって前代未聞だね。10年くらいの付き合いのはずなのに、そんなこともなかったなんて…」
「い、嫌味かよ…」
「ううん。10年時間を巻き戻してやり直したいって話」
ざあっと、この時期特有の当たりの強い風が僕らの間を吹き抜けていきました。
三宅さんはスカートの裾を押さえながら、目にゴミが入らないようにギュっと目をつぶりました。
そして再び目を開けたとき、結局目にゴミが入ったのか、涙のような一筋の光が頬を伝っていきました。
「な、何かあったの?」
「え、ええ? 何が? 何のこと? …ああ、これ? いや、目にゴミが入ったみたいで、ポロっと出てきたみたい。やだなあ、もう」
三宅さんは自前のハンカチを取り出し、パタパタと目や顔を拭き、それと風に吹かれて乱れた髪の毛をいじりだしました。
「あ、大橋君もすごい髪。ちゃんと整えなきゃ。駅に着いたらまたやってあげるね」
「そんなに? 髪型ってよくわからなくて」
「高校デビューしたんでしょ? これじゃまた陰キャボッチになっちゃうよ。今度の休日にレクチャーしてあげるからちゃんと覚えてね?」
「休日?」
「うん、昨日の午後の埋め合わせ。そうだなー、しばらくちょっと忙しいからGWあたりでどうかな?」
「どうって、何が?」
「遊びに連れてって。ちゃんと計画立てて、エスコートするんだよ?」
「もしかして、デートのお誘い?」
「じゃなきゃ何だっていうのよ? 何年も散々ほったらかしにしてくれたんだから1日くらい目一杯かまってくれたっていいじゃん」
「え? ええ?」
「日取りが決まったら1週間ぐらいには連絡してね。あ、友達に噂とかされると恥ずかしいから他言無用で」
「冗談じゃなく? 本気で?」
「何を本気にするのか知らないけど、幼なじみを取り戻すって意味なら本気だよ」
「…」
「他に何か言いたいことは?」
「ラブコメかよ!」
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