第49話 魔王の間へ

 扉を開けるとそこは、全面ガラス張りの部屋だった。床は青い大理石が敷き詰められ、室内はとにかく広い。

 そんな中、金縁のついた赤い猫足ソファーがひとつ、ぽつんと置いてある。

 そこに座るは、魔王ことアレキサンダー・ルシファーであった。


「ん? 2人だけか?」


 尋ねる魔王にショコラが答える。


「他の者は少々苦戦しておりまして」


「そうであったか。では2人が我に挑むのだな」


 ショコラの返事に、魔王は納得した。


「しかし、随分と久しぶりだな。ざっと1年ぶりぐらいか?」


「1年周期で、お前が世界征服を目論むからな」


 ユーリアの言葉に、魔王は笑いながら答える。


「それもこれも、お前と逢いたいからなんだがなユーリア。毎日身体は動かしているか? お前はぐうたらだからな、健康が心配なんだ」


 ソファーの背もたれの上に両腕を乗せて、魔王はユーリアに話しかける。


 魔王の言葉に対しユーリアは、


「……アレキさん、わたしは毎日ショコラと散歩をしているし、大丈夫だ」


 と答えた。


「そうなのか、ショコラ?」


「ええ。毎日5分ほどお庭を少々」


 ショコラの答えに「やはり心配だ」と魔王は悩む。


「もっと身体を動かした方がよいぞ。1年といわず、3ヶ月に1度、世界を暗黒にしようか……」


 魔王の言葉にユーリアはすぐ、


「やめてくれ。めんどい……」


 と返事をする。


 ユーリアにハハハハッと笑いながら、魔王は続ける。


「それに世界征服といったことがなければ、我の元には来ないだろう」


「めんどいからな」


「なんだったら、我と一緒に魔王城に住むか?」


「めんどい……」


「相変わらず冷たいなユーリア。我は退屈しついるのだよ」


 ユーリアと会話をしながら、魔王はソファーに座ったまま前屈みになる。


「お前ほどの魔法少女がいたら、毎日退屈せずに済むんだがな。悪魔どもと戦うのも飽きたしな」


 ソファーから立ち上がり、身体を伸ばしながら魔王は言った。


「誰かのオモチャになる気はない。わたしは余生をまったりゆったりと過ごしたい」


 彼女の拒絶反応に、魔王は困ったような笑みを浮かべて、言った。


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